第3話 堕天
「なんかいろいろありがとう。・・・つってもほとんど全部そっちの都合だったきがするけど」
「はい。ゴリ押しばかりで申し訳ないです・・・」
あたしは天使パワーで若返った・・・つーか造形された若い肉体を矯めつ眇めつ立体鏡のような三人称視点で確認しつつ、お礼を口走ってしまっていた。
顔は念を入れて作った、タレ目丸顔ぺちゃ鼻ぽってり唇のなかなか愛嬌のある・・・白人の幼少期みたいな顔の方に変化している。
インターフェース上だとふつうの
顔は兎も角、やっぱ若い体はいいわー。
50代でも老眼以外特に不自由はなかったけどもう軽さが違う。
「では初期装備を着装いたしますね」
天使ちゃんが片手を振ると、あたしの体に衣装が施される。
草色のワンピース。
コルセットのような革の鎧。
鎧に巻かれた太い革帯からスリングされた細い剣。
ひざ下で折り返されたブーツ・・・じゃないわコレ、帆布のような固く厚い粗布で作られたルーズソックスに革のサンダルが巻き付けられる。
「旅装ですが、騎士が使ってるマントを用意しました。重いですが、雨風や強い日差し、草木による裂傷や寒さをしのげて寝具にもなる重要な装備なので、捨てないでくださいね」
「え?旅??どっかの街とかに降ろしてくれんじゃないの?」
天使ちゃんは困ったように眉を下ろした。
「この世界は村から城まで、すごい排他的なんですよ」
「はぁ、でも街とかなら人とか多そうだし平気じゃないの?」
「うーん、でもトラブルあったら即身分を照会されて投獄ですよ?」
「あー・・・女だし、一人でフラフラしてたら即揉め事かぁ」
「男でも同じですよ。それに・・・いえ、エルフの王都なんかに向かった方がいいかもしれませんね」
「えー?妖精族とかもっと排他的なんじゃないの?土人の王国みたいなモンでしょ」
それこそ「エルフの皮を被ったニンゲンめ!」とかゆわれて皮剥がれたり人喰いアリの巣に突き落とされたりすんじゃないの?
天使ちゃんの顔がビミョーに苦くなる。
「どじん・・・土着の民族を蔑むコトバじゃないですかソレ、使用を禁止しますね」
「そうなんだ。まーあたしゃゲームぽい世界とかよくわかんないし、オススメってーなら従うにやぶさかじゃないよ」
つーか自分の語彙がババ臭す・・・享年相当すぎてツラい。
これもなんとかならんのかな。
・・・いや、異世界なんちゃらで若い人らとペラペラしゃべってたら相当に落ち着くか。
天使ちゃんがハナシを続けている。
「まぁ、天使がそんなこと言ってたな、程度でお願いします。あなたはエルフとして世界へ降り立ちますけど、本性は人間ですので・・・ご自身の感覚を信じてください」
「うんそーする。そろそろ行きたいんだけど」
若さの所為か、はやく動きたくて、新しい世界を体験したくてたまらない。
「うーん、スキルや魔法などの説明もしたいのですが」
「魔法?ああ・・・男子系の魔法でしょ?即物的に他人や動植物を傷つけるような」
整数倍で係数ボーナスとか言ってたワケ分らんやつでしょ・・・
「そうですね、戦いの世界ですから。でも隠れたり逃げたり、傷や病気を治したりといったものもありますよ」
「へー、ソレは興味あるわ、てか絶対に使いたい!」
「ではエルフは魔法適正が高く三系統を操れるので・・・精霊、神聖・・・あとは闇系の邪悪な系統と、純粋な魔力をそのまま使う系の術がありますが、どちらがよいですか?」
「邪悪な魔法・・・なんかかっこいいわねソレ」
「他人や死体を操ったりする魔法なんで、天使的には使ってほしくないですね」
「じゃー別の方でおねがい」
「わかりました。使い方とまとめてインスコしておきますね」
インスコ?
まぁどーでもいいか。
「では、いってられませ」
天使ちゃんが片手をくるりと回しておへそのあたりで止めると、あたしは青空の下草原に立っていた。
と、突然すぎるやろー!
何処よここ?!?!?!
乾いた土草の香。
冷たい風が草花をなであげ、枯草がそれに巻かれながら暗く青い空へと舞い上がってゆく。
「・・・・・うぅっ、さむぅううう~~~」
あたしはゴワっと分厚いマントを胸の前で閉じ合わせる。
風に遊ばれマントから零れ出た長いクセっ毛もマフラー代わりにせんと掻き込みヒジで胸許へ抱き込んだ。
・・・ん?
「うわ、ぜんぜんおっぱい無いわ・・・でもなんかめたくそ楽ねコレ」
喪失感よりも、解放感が凄い。
ちくびが痛いけど・・・寒いから。
ブラかブレスほしい。
周囲を覗うと、暗い青空の果てかなり低い位置に白く小さな太陽が浮かんでいた。
「夕日・・・て感じじゃないわね」
夕日だと黄色つかオレンジっぽくなるし・・・朝日なの?
ぐるっと見回す。
草原、地平の先まで・・・って視線がゆるい起伏に遮られるまで果てしなく草原だ。
太陽と逆の方はもう夜では?てくらい暗くてよくわからん。
空の低いとこに白く浮かんでいるのは・・・山脈とか?
マジ何処いきゃいーのよ・・・
背中へ倒れているフードを被り、あてどなく歩を進める。
「わあっ」
コケた。
マントをキツく握り込んでいたせいで手を出すのも送れ、顔から柔らかい土草の上に倒れてしまった・・・
「ぺっぺっ、口にはいっ・・・ん?」
なんか視界がおかしい。
像がブレて見える。
なんだ?
右目のほうにフラフラとたゆたうモノをつまむと、右目に激痛が走った。
「ぎゃあ!!!!!」
反射的に目を瞑ると再び激痛。
なんか刺さってる?!
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