夜明け

 ドームに、吸血鬼たちが集まってきた。

 入り口で毛布が配られる。


 中は真っ暗だが、彼らは危なげなくステップをあがり、シートにつく。

「怖くなったら、毛布をかぶってください」というアナウンス。


 ピポンという音とともに、上映が始まった。

 満天の星が、空を飾る。

 星が、回転する。


 やがて。

 東から、太陽が姿を見せた。


 ほとんどの吸血鬼が、咄嗟に毛布をかぶった。

 隙間から恐る恐る、陽の光を覗いている。

 もちろん、本物の力はない。彼らが耐えられる明るさだ。


 太陽が、南の空高く、登っていく。

 実際の景色の中に飛び込んだような、圧倒的な臨場感を伴って。

 生き生きとした色彩が踊る、地上の風景が蘇り、観客を包み込んだ。


 レグナスが、感嘆の声をあげる。

「世界は、こんなに色あざやかだったのか・・・」


 その光景を、メイオールはじっと見つめていた。

 夜明けのプラネタリウムを。

「ずっと憧れていた。

 もう一度、見たかった。

 昼の世界を」

 両目から涙がこぼれ落ちた。



「太陽を見て思った。

 身体は変わっても、私の心は人間だ。

 人間を救い、そして共存する道を探りたい」


 こうしてメイオールは、人間との交流を決断したのだった。


          **


 だが、人間との交流は、すぐには開始できなかった。

 かつて地球で生まれ、永い永い歳月を生き延びた世代が、反対したからだ。


 年配の吸血鬼は、太陽と「人間に狩られること」を恐れながら生きてきた。

 一方で、老いて死ぬ人間に対して、優越感を感じている。

 こうした気持ちが混ざり合って、人間を嫌悪し、交流に反対したのだ。



「プラネタリウムを見たら、気持ちも変わると思うんだけど」

「年配者は、怖がって来ないんだよね」


 うーんと考えるハルカ。

「そうだ!

 フレーバードリンクをあげたら、来るんじゃない?」


 噂のドリンクにつられてやって来た年配者は、

 ニンニクの高揚+昼の景色に、大きな衝撃を受けた。

 本物の太陽を、もう一度見たいと、願うようになった。

 そのためには、人間との協力が不可欠だ。


 年配者たちの反対が収まり、

 ついに吸血鬼は、人間との交流へと、舵を切った。



 マッテオとハルカは、使者として内側に戻り、ダイソン球に迫る危機を伝えた。

 そして、周囲のコミュニティから燃料をかき集めた。


 レグナスが宇宙船を飛ばして、オウムアムア2の軌道に干渉。

 恒星間天体との衝突を回避することに、成功したのだった。

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