分断

 5人は、水柱が噴き出す現場へと移動した。


「穴自体は大きくはないが、水圧で自動機械が吹き飛ばされてしまう。

 ここはほとんど重力がないからな」

「浸水による故障や、凍結で動きを阻害されるのも、厄介です」


 メイオールとレグナスの説明を聞いて、ハルカはうーんと唸った。

 腕を組んで考えていると、マッテオがポンと手を打った。

「スライドレールを使おう」

「それ何だっけ?」

「二重構造になった柱で、内部の柱をスライドできるんだ」

「そのレールは、どこにあるのよ?」

「俺たちが来た内側、山の底のキャンプにある。

 でも、エアロックを塞がれてしまった」


 ハルカは、ミモザの表情を見て聞いた。

「何かあてはあるの、ミモザ?」

「まかせなさい。自動機械は、私たちの言うことは聞くのよ」


          **


 エアロックに戻ると、ミモザは自動機械に、聞き慣れない言葉で命令した。

 自動機械は位置を変えると、鉄板を切断して、ハッチを取り付けてくれた。


 マッテオとハルカは内側に戻ったが、キャンプは無人だった。

 2人が持っていた酸素は12時間分。

 あれから、1週間が経過している。

 生存の見込みはないと判断して、撤退したのだろう。



 スライドレールを外に運び出し、再び水漏れの現場に戻る。

 アウターレール(柱の外側)を、外殻にしっかりと固定した。

 それからインナーレールに鉄板を取り付ける。

 インナーレールをスライドさせて、鉄板で穴を塞いだ。


「隙間から水が漏れるな」

「いい感じだ。あの程度なら、自動機械で押さえつけて溶接できる」


 こうして2人は、吸血鬼と自動機械の力を借りて、水漏れを止めたのだった。



「はぁ~。これで水の心配がなくなったよ」

「やったな」

「おめでとう。我らの居住区で、ささやかな祝杯を挙げよう。

 出せるのはドリンクだけ、だが」

 ハルカとマッテオは顔を見合わせた。


「お気持ちだけ、頂きます。

 仲間も心配しているでしょうから、俺たちはすぐに、帰ります」


 そう言って2人はエアロックに戻った。

 だが。

 ハッチは取り外され、穴は鉄板で塞がれていた。


「あ、あれ!?」

 驚く2人の前に、メイオールが姿を見せた。


「君たちには、ここで暮らしてもらう。

 我々の存在を、人間に知られる訳にはいかないのだ」


 こうして2人は、吸血鬼の居住区に抑留されてしまった。


          **


 拘束は、されていない。

 ハルカは毎日、星を眺めて過ごした。

 しばらくすると、動く光を見つけた。惑星ではない。


「マッテオ、あの動いている星は何だろう?」

「分からん」

「オウムアムア2だ」とレグナス。

「オウム?」

「『遠方からの使者』を意味する。

 我々が遭遇した、2個目の恒星間天体だ」

「恒星間・・・太陽系の外から来たのか」


 メイオールが重々しく頷く。

「我々はダイソン球の『守り手』を務めてきた。

 自動機械をメンテナンスし、外を監視している。


 だが、百年前、飛来した小惑星を砕く際に、燃料を使い果たした。

 もう宇宙船は飛ばせない。

 オウムアムア2は、半年後に衝突する。

 ダイソン球は持ちこたえるが、人間には被害が出るだろう」


「そんな! 内側に連絡させて下さい」

「だめだ。人間に知られたら、我々は狩られてしまう」

「なぜ人間を恐れるの?」

「生きるために吸血し、命も奪った。人間が我らを憎むのは当然だ」

「でも『守り手』であることを伝えたら、分かりあえるはずよ。

 吸血だって、もう必要ないでしょう」

「そうかもしれん。だが、仲間を危険に晒す訳にはいかない」


 メイオールは、ハルカの願いを拒否した。

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