第7話 一番乗り

 シャーロットと別れてすぐの事。


 かぁぁぁぁ!!


「恥ずかしいなぁ……!」


 今日シャーロットに《あ〜ん》されちゃったじゃねぇかよ……。

 いつもは『少しピリ辛で美味しいな』なんて、思いながら食べれるのに、今日は恥ずかしさで味を全く感じなかった。


 けれど、シャーロットも恥ずかしそうだったからおあいこかな?

 シャーロットのあの時の照れてる顔と言ったら男子をイチコロする程の威力はあったな。

 俺は辛うじて《あ〜ん》で、いたたまれない気持ちになっていたから大丈夫だったが……。


 思い出すと、恥ずかしさが込み上げてきて体が段々熱くなってゆく。

 夏の暑さも相まってものすごく熱い。


 明日顔合わせるの恥ずかしいな。

 明日は朝練が無いが、誰よりも早く学校に登校して、精神を統一させよう。


 ★


 ピピピピ♪ピピピピ♪


 俺は眠気を吹き飛ばすために勢いよく目を見開いた。

 設定通りにアラームが鳴ったので、今日は昨日の宣言通り、誰よりも早く登校出来るだろう。


 家を出るために部屋のドアを開くと、昨日よりも湿度と温度の高い風が俺の顔にうちつけた。


「あちぃ」


 今はまだ、「あちぃ」だけで済むけれど、まだ6月の下旬だ。

 これからもっと暑くなると思うと憂鬱な気持ちになる。


 しかし俺は、寒い冬よりかは夏の方が好きだ。

 だって、冬のデッドボールは格別痛いからな。


 そういえば、いつも朝練のある日は、運動部に入っている人がポツポツと見える。

 そして、朝練がない日の俺は、遅刻ギリギリに学校に着くのでその時もポツポツと人が見える。

 けれど今日は、学校全体で朝練がない。

 そのせいか、俺が学校に着くまで誰もなかった。


 俺は靴箱で靴を履き替えて、廊下をトボトボ歩きだした。

 人気のない学校、雰囲気があって楽しいな。

 俺はホラーっぽいものが大好きだ。

 夏はホラー映画がたくさん上映されるからとても嬉しい。

 やっぱり夏こそ正義だぜ。


 俺が歩くと、全く人気ひとけのない廊下に俺の足音が響く。


 俺は、教室が見えてきたあたりから、小学生のようだが、一番乗りだということに嬉しくなって自然と駆け足になっていた。


 俺は、教室のドアを勢いよく開きながら言った。


「よっしゃ一番乗り!」

「あ、柊くんおはよ」


 その声を聞いた瞬間、俺のテンションは一気に下がった。


「お、おはよ。シャーロットさん」


 嘘だろ!?なんでいるんだよ!

 シャーロットは机の上に教科書やノートを開いているから1人で勉強していたのだろう……。

 けれど、今は一番乗りじゃなかった悲しさよりもものすごく子供っぽいところを見られたことが恥ずかしすぎる。


 空気が暑いのと相まってとても背中に汗をかき始めた。


 俺は、シャーロットが勉強に集中して聞いてなかったことを祈るしかない。

 とりあえず、話を振って聞かれてたとしても忘れさせよう。


「し、シャーロットさん?今何してるの?」

「え、私?見ての通り勉強よ。私日本に来たところだから日本の歴史が全然分からないの」

「そうか。たしかに日本史は日本の学校じゃないと習わないか。良かったら俺が教えようか?」

「え、いいの!?」


 シャーロットは目を輝かせながら俺の顔を覗いてくる。


「あぁ、いいぞ。日本史は一番得意だからな」

「ありがと!早速だけど、冠位十二階って何?」

「冠位十二階?あぁ、それはな────」


 教室には俺たち意外誰もいなかったので、十分に集中しながら勉強できた。

 あと少しで期末テストがあるので、俺としても復習になるからありがたかった。


 シャーロットは俺の言ったことをすぐに理解してくれたので、なんのストレスもなく教えることが出来た。


 俺が教えていて気づいたのだが、シャーロットは飲み込みや、頭の回転が早いので、期末テストでは高順位を叩き出すだろう。


「柊くん、教えてくれてありがとう。とても分かりやすかったわ」

「まじ?そう言って貰えて光栄だね」


「ひ、柊くん……」


 少し間を置いてシャーロットが俺の名前を呼んだ。


「どうした?」


「また良かったら日本史教えてくれない……?」


 シャーロットは、頬を赤らめながらそう言ってから、「よ、良かったらだからね!?」と、付け足していた。

 俺は断る理由なんてなかったので、即、了承した。


 シャーロットはホッと安堵のため息をついてから、「よろしく!」と言って、ニコッと微笑んだ。

 不意打ちはずるい……。

 俺は、顔の熱が上がった気がしたので咄嗟に顔を逸らしてしまった。


「あれれ、柊くん?どうしちゃったの〜?」


 シャーロットは煽るような口調でそう言ってきた。

 このままだとなぜが負けた気がすると思い、俺は「シャーロットさんはそこまで俺に日本史を教えてほしいのか?」と、煽り返してやった。


 すると、シャーロットはいきなり顔を赤くしたと思えば英語で反抗してきた。


『は、は〜?私が柊くんに?そ、そんな訳ないじゃない!私は柊くんの教え方が上手かったから教えてほしいって言っただけ!私は柊くんのことをよく思ってからとかじゃないの!』


 早口な上に長い。

 英語がさっぱり分からない俺にとっては何を言ってるのやら。

 これ以上煽るとさすがにまずいと思ったので、ここまでにしておいた。


「な、なんか、ごめんな?」

「だ、大丈夫よ。私こそいきなり英語で話してごめんね」

「大丈夫だぞ。俺全然意味を理解できなかったからな!」


 そう言って俺はガハハと笑うとシャーロットもつられて笑っていた。

 今日"一番乗り"ってわけではなかったが、早く学校に来てよかった。

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