第4話 放課後デート?
「はぁ~!疲れたぁ~!」
俺は部室で着替えながら、大きな声でそう言っていると、先輩が笑いながら「今日いつも以上に伸びていてよかったぞ!このままいけばスタメンに選ばれるかもな!」と言って、今日の俺のプレーを称えてくれた。
俺は昔から誰よりも練習を頑張ってきた自信がある。
そして、小中学校ではキャプテン兼エースを務めていた。
しかし、どれだけ上手くなっても俺は、一度も練習を怠ったことはない。
だから今日のプレーは”今までの努力の結晶”と言ってもいいだろう。
先輩は、部室を出るときに「あまり浮かれすぎるなよ」と忠告をして去っていった。
そんなこと言われなくてもわかっている。
俺は今までどれだけの時間を野球に費やしてきたと思ってるんだ?
けれど、せっかくの助言だ。ありがたく受け取っておこう。
俺は服を着替えると、他のチームメイトの中には、まだ着替えている人もいたがひとまず先に帰らせてもらうことにした。
今日はいつも以上に疲れた……。
いつもなら、夜ご飯を作れるくらいには体力が残っているが、今日はそんなものは残っていなかった。今日はファミレスとかにでも寄って夜ご飯を済ませつつ、冷房の効いた店内で休ませてもらおう。
俺はそんなことを考えながらトボトボ歩いていると、今日だけで30回は聞いた声が聞こえてきた。
「柊くん……!今帰るの?」
誰かと思えば、先程SHRが終わって、さよならをしたはずだったシャーロットだった。
「シャーロットさん?どうかしたか?」
「え、あ、う〜ん……。あ!部活に入ろうか迷ってて部活を見て回ってたの……!」
「そうだったのか……」
「むむむ」
そう言ってシャーロットは俺の顔を不思議そうに見てくる。
「ど、どうしたんだ……!?」
「柊くん、なんか元気ないな〜って、思っただけだよ。あ!部活の後で疲れてるから、だよね?」
「あぁ。そうだ。そうだよ」
「ねぇ柊くん。少しだけ野球してるとこ見たよ」
「あ、そうか。どうだった?」
こんなことを会って2日の人に聞くのはおかしいかもしれないが、俺のプレーは周りから見てどう見えているのか。それは聞く人によって全然違うから俺はシャーロットに聞いてみた。
「そ、その────」
『すごくかっこよかったわ』
ん……?どうして英語なんだァ!!
それじゃあ何も分からないだろ!
英語が来ると思ってなくて油断していたせいか、全然聞き取れなかったじゃねぇかよ!
「え、……え?なんて言ったんだ?」
「ひ〜みつ!」
そう言って無邪気な笑顔でシャーロットは笑った。
ちくしょー!どうしてそんなに可愛いんだよ。
「ところで柊くん…。これから家に直行するの?」
「あ〜。家帰っても一人暮らしだから食うもんないし、今日はさすがに疲れた。だから、食べて帰ろうと思ってるよ」
これからの話?シャーロットはどういう趣旨でこの質問をしてきたんだ!?
運動で糖分を使い切ってしまった……。だから考えようにも上手く思考が回らない。
『私も、一緒に………』
「なんか言ったか?」
「べ、別に!何も言ってないわ……!」
絶対何も無くないだろ……。
普通何も無いならそんなしょんぼりとした顔はしないぞ?
なんて声をかけたらいいんだろう……。
もしかして、一緒に行きたいのか!?……いやいや!その考えはさすがに自意識過剰すぎる。
けれど、言わなくて後悔するなら行って後悔した方がましだ!
「し、シャーロットさんも一緒にご飯行く?転校初日頑張ったね会として。……門限とかあるなら大丈夫だけど!」
そう提案すると、シャーロットはパァッ!と顔が明るくなり、「うん。行くわ!」と、二つ返事でOKしてくれた。
嘘だろ!?会って2日の男子だぞ?危機感はないのか……?
しかし、ま、いっか!
俺は考えるのが面倒くさくなり、シャーロットと近くのファミレスに立ち寄った。
「涼しぃ〜!」
俺達はテーブル席に向かい合って座ると、俺はそう言って冷房の効いた店内の空気を堪能した。
「たしかに涼しいね。季節はもう夏だもんね。早いなぁ〜」
そう言ってシャーロットは小さく伸びをする。
そういった少しの動作が、すごく様になっていてつい見とれてしまった。
「そうだよな。早いよな〜」
俺は高校に入ってからずっと野球づくしだったな。
これだけ練習を頑張ってるんだ。
それに、先輩達もすごく野球が上手い。
甲子園。行きたいな……。
「柊くん。なにかオススメとかある?」
「そうだな。この店ではこのカレーライスが1番美味しいと思うぞ?」
シャーロットは、メニューをこちらに差し出しながらオススメを聞いてきたので、俺は指をさしながらそう答えた。
「カレーライス……これって辛い?」
「ん〜普通なくらいだと思うぞ?」
この時シャーロットは聞く人を間違えてしまった。
海斗は辛いものが大好きで、普通の人が辛いと言うようなものも顔色変えずに食べてしまうくらいだ。
それに対して、シャーロットは辛いものが大の苦手だ。
シャーロットは、海斗の言葉を鵜呑みにしてしまい、この店のカレーライスは甘口だと思ってしまったのだ。
「ならカレーライスにするわ」
「俺は……。そうだな、カレーライスは熱いからざる蕎麦にするよ」
「たしかに、暑いからね」
俺達は食べるものが決まったので、店員さんを呼んで、注文をした。
料理が届くまで俺達は他愛のない会話をしていた。
「ねぇ。野球部のマネージャーって今からでも入れるの?」
「どうした?マネージャーになりたいのか?」
「ち、違う!……友達が言ってたの!」
転校初日にもう友達が出来たのか。
うん。良かった良かった。
「今からか、全然大丈夫じゃないかな?先週マネージャーの子が1人抜けて、他のマネージャーの子達が忙しそうだったから、入ってくれると俺からしてもありがたいな」
「そ、そう……?」
「あぁ。出来ればその子に野球部のマネージャーになってみたらと勧めてみてくれないか?」
「わ、わかったわ……!」
そこで話が終わり、2人分の料理が運ばれてきた。
「「いただきます」」
手を合わせてそう言うと、俺はお腹がすいていたので、
「ちょ、ちょっと…!?このカレーライスすごく辛そうな香りがするけれど大丈夫?」
「え?全然辛くないぞ?」
「そ、そう。わかったわ」
シャーロットはやっと安心したようで、カレーライスの"ルー"をスプーンですくい上げて、そのまま口に運んだ。
「ブッ……!!」
「ど、どうした!?」
「んっ!ん〜んっ!!」
シャーロットは口を抑えて、俺のまだ口のつけていない水の入ったコップを指さす。
どうやらシャーロットには辛かったらしい。
俺は目の前にある水の入ったコップをシャーロットに手渡した。
シャーロットはコップを受け取ると、すごい勢いで飲み干してしまった。
カレーライスは熱かったから辛さ以上に辛く感じてしまったようだ。
「めっちゃ辛いじゃない!」
「そうか?俺からしたら辛くないと思うけどなぁ〜?」
「はぁ?柊くん舌おかしいんじゃないの!?ちょっと食べてみなさいよ!」
そう言ってシャーロットは握っていたスプーンでまたしてもカレーライスの"ルー"をすくい上げて、俺の口の前まで運んできた。
「ほら!早く口を開けなさいよ!」
「え、ちょっと……!シャーロットさん?周りからの視線が……」
「つべこべ言わずに口を開けて!」
ダメだ。シャーロットの頭に血が上ってしまっているのか、周りから見られていることに全く気づいてない。
とりあえず、辛くないことを証明したらいいんだよな?
俺は渋々口を開けると、シャーロットの握るスプーンが、ゆっくりと口の中に入れられた。
あーん。
うん。辛くないな。
「辛くないぞ?」
「う、嘘よ!これが辛くないわけがないわ!」
「シャーロットさん?少し声のボリューム下げよっか。それに、さっき《あーん》してたの周りからめっちゃ見られてたぞ?」
「へ?………あ…!」
シャーロットの顔がみるみる赤くなっていくのがわかる。
だから、言ったのに……。
「こ、これは……!……あ!イギリス人は、こういうこと全然気にしないの!き、聞いたことあるでしょ!?」
シャーロット?気づいてないと思うけれど普通に「あ!」とか言ってしまってたぞ?
けれど、肯定してあげないとシャーロットの頭にまた血が上ってしまいそうだ。
「そうだったのか。知らなかったよ」
「うん。わかればいいのよ?」
シャーロットは照れが収まってから手を動かさずにこちらを、いや、ざる蕎麦を見てくる。
あ〜。カレーライス食えなかったからな。
「あ〜、交換するか?」
「うん。しよ!」
ほんと、わかりやすいな。
けれど、そういう所は可愛らしくて、周りから好ましく思われるだろう。
俺達は食べ終えると話すことなくお金を払って店を出た。ちなみに2人分のお金は俺が払った。
「ひ、柊くん……。さっきの《あーん》のことは忘れてくれない……?」
「ん?ソンナコトアッタッケナー」
そうカタコトな日本語で返すと、シャーロットは「むぅ……」と言って頬を膨らませると、「私こっちだから」と言って走りながら帰っていった。
ほんとなんだったんだ……?
けれど、久しぶりに放課後誰かと遊んだな。うん。楽しかった……!
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休日は午後8時に、平日は午後9時に更新します!
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