第3話 放課後、何するんだろ?
──
今日私は晴れて『
私は昨日、お父さんと喧嘩しちゃって、外をぶらぶら歩いてたら大学生くらいの人に絡まれた。
その人はグイグイと私に迫ってきて最後には私の腕を力強く握ってきた。
あの時の男の人の強い力と、荒い息のことは思い出すだけでも身震いしちゃいそう。
正直、『男の人ってすごく怖い』と心の底から思ってしまった。
けれど、柊くんはそんな私のことを気遣ってあえて少し距離をとってくれた。
私はそんな少しの気遣いがとっても嬉しかった。
今まで私に絡んでくる男の人はみんな私を容姿でしか見れくれなかった。
そんなに、容姿でしか見られないと、正直私の容姿はいいほうなんだといやでも気づかされた。
私はいつしか、本性を出せず、周りの求める『
けれど、柊くんは違った。
私を容姿だけで決めつけずにいてくれた。
私への好意は一切感じ取れない。女子としてみてもらえてなくて、少し寂しいけれど、それと同時に喜んでいる自分もいた。
『やっと私は本性少しは出すことができるんだ!』ってね。
柊くん。彼とはいいお友達になれそうだね。
もぉ、最悪……。
何が最悪かって、少し柊くんにからかわれたくらいで私はむきになって、英語ですごく恥ずかしいことを言ってしまった。
私はたった5分前のことを思い返していた。
☆☆☆
「シャーロットさん?耳を赤くしてどうしたんですか〜?」
『は、は〜?何言ってんのよ。私はあなたのこと何とも思ってないよ!?』
★★★
ほんとどういう意味で私はこんなことを言ってしまったのかしら……。
けれど、もとはといえば、柊くんが私をからかってきたのが悪いのよ。
そうよ。そうだわ!今日の放課後、柊くんになにか奢ってもらおうかな?
理科室の私の横の席には柊くんが座っている。
これは教室と同じように座らないといけないからであって、私が近くに座りたいからというわけではない。
私がぼんやりと柊くんのことを見つめていると、柊くんは私に気づいたようで、不思議そうに眉間にしわを寄せている。
「ふふっ!」
「急にどうしたんだ?」
やばい。つい柊くんの顔がおかしくて笑ってしまった。
そのせいで、柊くんは口をぽかんと開けて、ジト目でこちらを見てくる。
は、恥ずかしい……。
絶対に「こいつやばい奴だ」なんて思われてしまったに違いない。
かぁぁぁぁ……顔が熱くなってきた。
柊くんは前を向いているので、おそらく気づいてないと思うけれど、バレたくないので私は柊くんがいる方向の逆を向いた。
よしよし……。こうしたらバレないよね。
「────それじゃあ七瀬さん。この問題分かりますかか?」
女性の理科教師は私の名前を呼び、問題の答えを求めてきた。
は、はぁ〜!?
やっばい、聞いてなかった……。
コンコンッ!
ん?柊くんが教科書の太文字を指さしている。
『iPS細胞』と書いてある。
あってるかな……?いや、もうやけくそだ!私は柊くんを信じるしかない……!
「iPS細胞です……!」
「おぉ!正解だ。この問題難しいからさすがに無理だろうと思っていましたが、七瀬さんですね」
え、先生。本音出てません?
私は以前いたイギリスの中学校ではテストで1位以外を取ったことがない。
けれど、今のはしょうがない。だって、聞いてなかったんだ、もん……。
「(柊くん、ありがとう)」
「(あぁ。どういたしまして)」
お礼を言ったら柊くんは、少し嫌な笑みを浮かべてこちらを見てくると思ったけれど、全然そういうことはなく、普通に授業に意識が戻っていった。
私の心の中では"ミニ柊くん"が「酷くない!?」と言って暴れている。
ほんと柊くんってよく分からないわ……。
いけない。このままだとまた当てられた時に答えることが出来ないじゃない。
私は少々焦りを覚えて授業に集中した。
それから、何事もなく物事が進み、帰りのSHRがあと少しで終わろうとしている。
放課後柊くんに何奢ってもらおうかな〜♪
あ、まって!まだ柊くんの了承を得てないじゃない!
SHRが終わったらすぐに聞かないと!
「────。そんくらいかな。そんじゃ、さよなら!」
「「「「「「「さようなら」」」」」」」
え……?もうSHR終わっちゃったの?
こ、心の準備が……!
「シャーロットさん、部活まだ入ってないよな?」
「え、部活?入ってないけど……。とうして?」
そう聞くと、柊くんは少し考えるように黙ってから、私から目を逸らしながら言った。
「いや。なにもないよ?」
「ふ〜ん?」
「じゃ、じゃーな!俺部活行くからな!」
そう言って柊くんは、鞄に肩にかけて教室を出て行った。
1人教室に残された私は、何も言葉を発することが出来ず、ただただ1人で黙り込んでいた。
柊くん、部活入ってたんだ。
何部に入ってるのかな?
首元が日焼けで黒くなっていたから運動部な気がする。
部活、か……。考えたことなかったな。
私はなんとしてでも成績を落とせられない。少しでも成績を落とすなんて私のプライドが絶対に許さない!
けれど……、少しだけ、ほんのすこぉーーしだけ見て回ろうかな?
べ、別に柊くんが気になるとかじゃなくて、高校生活に部活は大事だと思っただけなんだから!
私は誰もいない所で誰にも聞こえない心の中で放った言葉が無性に恥ずかしく思えてきて、さっさと机の上にある物を鞄にしまい込んで教室を出た。
遠くの方から吹奏楽部の金管楽器の綺麗な音色が聞こえてくる。
私がサックスを吹いている様子を……、様にならない気がするから却下。
私は靴箱で靴を履き替えてからグラウンドの方へ足を動かした。
男子だけではなく、女子の激しい声が聞こえてくる。
青春してるなぁ〜……。
中学生の頃の私から1番遠い言葉だな。
────カキーンッ!!
たまたま野球部の横を通りかかった時だった。
テレビでしか聞いたことがなかったけれど、聞いたらすぐになんの音か分かった。
バットとボールの当たるインパクトの音だった。
少しダメな考え事をしていた私の雑念を吹き飛ばすには、それだけで十分だった。
私は突然の大きな音にビックリして、音の聞こえた方をむくと、バッティング練習をしていたらしく、柊くんがガッツポーズをしながら笑っていた。
先程の強打は柊くんのものだったようだ。
一部のマネージャー達は「キャー!」と黄色い声援を送っていた。
す、凄い……。
それから私は野球部に、いや柊くんに目が釘付けになってしまい、部活動終了を告げるチャイムが鳴るまで私は、グラウンドの横でずっと眺めていたのだった。
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