第2話 久しぶり……?

「おはよー!」

「あぁ。おはよ」


 朝から春樹の元気な声を聞いて、頭が痛くなってきた。

 ……いや、嘘だ。

 昨日の別れ際に見たシャーロットの無邪気な笑顔が頭からなかなか離れず、気づけば朝の4時。

 この時間から寝ると起きれないと思い、俺は今日オールをしてきたのだ。


「そういえば海斗昨日の約束覚えてるか?」


 あ、やべぇ…。忘れてた。

 昨日シャーロットさんと別れてすぐに家に帰ってしまったため、俺は面白いことなど1つも見つけてないのだ。

 それに、昨日俺は温かいうちにコロッケ弁当を食べたかった。

 うん。仕方ない。だって昨日色々あったからコロッケ弁当覚めそうだったから……。


「え、海斗…?」

「すまん!忘れ────。あ!昨日さ、あの人気な弁当屋に行ったんだけどさ、俺の大好きなコロッケ弁当があった」

「…………」


 春樹は黙り混んでしまった。

 そう思ったその時────


「…………はははッ!」


 春樹は目に涙を浮かべながら笑い始めた。


「あ~あ。海斗は面白いなぁ。今の話は、正直面白く無かったが、というか昨日忘れてただろ?」


 やっぱり春樹は誤魔化せないか……。

 しかし、特に怒った様子もない。それは良かった。


「おい。お前ら席につけよ!」


 そう言いながら小島が教室に入って来た。


「お!小島の結婚話が始まるな!」

「おい聞こえてんぞ〜?な?それに、結婚話じゃ、ねぇっ〜つ〜の」


 春樹が楽しみそうに放った言葉が、小島の触れたらダメなところに触れたのか、目の下をぴくぴくさせながら小島は春樹の言ったことを否定した。


「え?まじ!?」

「そのため口ムカつくな。春樹、後で職員室に来い」

「なんでまた………」


 春樹のテンションが不快だったらしく、たった今後で春樹が職員室に行かないといけなくなってしまった。

 昨日と同様、教室中からクスクスと小さな笑い声が聞こえてくる。

 デジャブだ…。


「今日は、こんなことをしている暇はないんだ。転校生を紹介する。七瀬、入っきていいぞ」

「はい」


 小島がみんなを制し、廊下を向いてその名を呼んだ。

 『七瀬』と言ったか……?いや、そんなわけないよな。俺はシャーロットに影響されすぎだ。



 ガララララ……


 教室の扉を開いて入ってきたのは金茶色の長い髪が印象的な少女だった。

 嘘だ、ろ……?


「転校生だ。自己紹介…できるか?」

「はい」


 少女は少し緊張しているようで、少し俯き気味だ。


Charlotteシャーロット・七瀬です。よろしく」


「「「「「「「…………」」」」」」」


 しばらく沈黙が続いた。

 その沈黙と比例するように、だんだんシャーロットさん顔が曇っていく。

 これはまずいと思い、俺はシャーロットに向けて、大きな拍手を送った。

 それに続くように、みんな徐々に拍手を送りだした。

 シャーロットはようやく安心したようで、ホッと息を吐いている。


「なぁ、海斗。あの子めっちゃ可愛いよな?」

「…………」


 俺はあえてその言葉には答えなかった。

 その理由は────


「おい、春樹?少し静かにしてくれないか?」

「は、はい……」


 小島が春樹のすぐ後ろにいたからだ。


 シャーロットもクスリと笑っている 。

 

 春樹は大変だな……。後で職員室に行くのが地獄だろう。

 俺は旧友を心の中で哀れんでから、小島が話し始めたのでそちらの方を向いた。


「───。それじゃ七瀬の席は……。海斗の横だ」

「分かりました」


 そう言うと、シャーロットさんはこちらの方へ歩いてきた。


 おい…!?

 昨日俺の名前言ったけれど、知らないフリしないと顔見知りだということがバレるぞ!?


「七瀬?海斗が誰かわかるのか?」


 シャーロットさんは足を止めて、先生の方へ振り返って言った。「分かりません」と。


 きっとシャーロットの一瞬見せた慌てた顔に気づいたのは、恐らく俺だけだろう。


「これから2年になるまでお隣だけどよろしくね?」


 そう。この学校は席替えが無く、1度隣になった人とは1年間隣になるのだ。

 俺は窓側の1番後ろの席だったため、人数の都合上隣には誰もいなかった。

 隣が苦手な人とかではなく、喋りにくくないシャーロットで良かったと心から思った。


「あぁ。よろしく」


 クラスの男子から嫉妬の目を向けられているように思ったが気のせいだろうか?


 俺は少し身震いしてから、気を紛らわせるために窓の外を見た。

 空は、雲1つとない快晴で太陽がギラギラと輝いていた。

 下の方を見下ろすと、大きな桜の木には花びらなど1枚もなく、代わりに深緑色をした葉っぱが木の枝を埋めていた。


 あと少しで夏休みだな。…今年は何しようか。

 やっぱり例年通り春樹と海に通うか?


 そんなことを考えていると隣の席から視線を感じた。

 俺は視線を感じた方へ視線を移すと、シャーロットが小さな声で何か言っている。


「────────」


 俺は聞こえなかったので、指でもう一度言って欲しいという意思表示をして、耳を凝らしてシャーロットの声を聞きた。


「(昨日はありがとね)」

「(あぁ。困ったことがあったら言ってくれ)」

「(そう。分かったわ)」


 そう言ってシャーロットは、はにかんだ笑顔をこちらに向けてきた。

 シャーロットは顔も整っているので、こんな笑顔を見せられたら思わず目を逸らしてしまう。


「(ところでさ。シャーロットさんは昨日には俺がこの高校に通ってることを知ってたのか?)」

「(知らなかったわ。先生に廊下で待ってろと言われた時に、柊くんらしき人が見えてとてもビックリしたわ)」


 そう言ってシャーロットさんは、苦笑を浮かべた。


「海斗?……どうかしたか?」

「何も無いです!すいません」


 なんで俺だけ……。

 俺がそんなことを思っていると、シャーロットは横の席から可愛らしい顔で俺の顔を覗きながら言った。


『(顔が真っ赤だよ?)』


 また英語。本当に分からねぇ……。


「(え?なんて言った?)」

「(なにも言ってないわ)」


 そう言って得意げな顔をするシャーロットの顔を見ていると、なんだか負けた気がしてきたので、俺は目を逸らしながら言った。


「(ところでシャーロットさんは、この高校で不安なこととかないか?)」

「(正直どうなるか心配だったけれど、クラスの雰囲気もいいし、隣の席の柊くんも優しいからこの高校で良かったと思うわ)」


 せっかく話を変えたのに、シャーロットはなんの恥じらいもなく真顔でそんなことを言った。

 なんで俺だけ恥ずかしい思いをしなくてはいけないんだ!?ちくしょー


「(そ、そうか……。それは良かった)」


 その会話を最後に、俺達は前を向き小島の話を聞くことにした。


「あれれ?海斗くん七瀬さんと仲がよろしいですね〜?」


 そう言って春樹は俺にジト目を向けてくる。

 春樹はホームルームが終わってからずっとこんな調子だ。

 そろそろムカついてきた。……何か言い返してやろうかな?


「この主人公くんめ……」


 むむむ。なんだって…?

 わざわざトイレまで着いてきて何が言いたいんだ?


「春樹?……その言い方はなんだ?そんなに興味があるなら自分から話しかければいいだろ?」


 春樹は一瞬、きょとんと首を傾げてから俺の目を見て大声で笑いだした。

 何か面白いことあったか……?


「何言ってんだ?海斗は俺の好みは年上のお姉さんだってこと知ってるだろ?」


 春樹は笑いを堪えながらそう言うと、タタタと足音を鳴らしながら去っていった。


 教室に戻ってからも春樹と話していると、隣からジッと強い視線を感じた。


「ど、どうかしたか……?」

「いや。楽しそうに話してるなと思って見てただけだけど……」


 嘘だ。絶対嘘だ…!頬が無意識のうちに膨らんでいる。

 何か言いたげな顔をしているけれど、あえて聞かないでおこう。

 シャーロットは頬を膨らますだけでも絵になるんだよな……。


「え、なに……!?私の顔に何かついてる?」


 シャーロットは怪しむように、顔を引きつらせながらそう言った。

 出会って2日のシャーロットに、「すまん見とれていた」だなんて口が裂けても言えるわけがない。

 もし言ってしまったら、俺は1年間シャーロットから軽蔑の目で見られて地獄を見るだけだ。俺は、そんなことはなんとしてでも避けいので、適当に「すまん考え事をしていた」とだけ言って目を逸らしておいた。


『なんだ。考え事してた

「ん?」

「あ、独り言。なんでもないよ」


 反射的にシャーロットの方を見ると、少し耳が赤くなっていた。

 本当になんて言ったのだろう……。


「シャーロットさん?耳を赤くしてどうしたんですか〜?」


 俺が煽るようにそう言うと、シャーロットはいきなり慌てだして言った。


『は、は〜?何言ってんのよ。私はあなたのこと何とも思ってないよ!?』


 シャーロットは英語で言っているが、声の感じから動揺していることがわかる。

 もう少し煽ると、シャーロットはへそを曲げてしまいそうなのでここまでにしておこう。


「な、なによ……?」

「ん?あぁ、何もないよ。それより次理科で理科室まで行かないといけないから俺が連れて行ってやるよ」

「ほんと?あ、ありがとう……」


 俺がさっさと歩き出すと、シャーロットは待って〜と言わんばかりに急いで着いてきた。


『もう。いじわる……』


 シャーロットが何かを言ったが、俺はあえて聞こえてないふりをしておいた。

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