第1話 英国少女を助けたら

 俺、ひいらぎ 海斗かいとは高校1年生だ。


「海斗。面白い話ないか?」


 そして、俺に今話しかけてきたこいつは、浅村あさむら 春樹はるき。保育園に通う頃からずっと一緒にいる旧友だ。

 好奇心が旺盛だが、それと裏腹に飽き性という性格が合わさって、いつも暇そうにして、俺に娯楽を求めてくるのだ。

 春樹め……。


「面白い話?」


 そんなこといきなり言われても困るなぁ……。

 面白い話か……。


「………ないな!」


 少しの間考えた末の俺の答えはこんなものだった。

 しかししょうがないのだ。春樹はこうして俺に「面白いことがないか」と聞いてくることは何度もある。正直ネタ切れだ。


「えぇ~……」

「昨日買い溜めてあった食材無くなったから、今日の学校帰りに買い物に行くけれど、その時に面白いことないか一応探しておくよ」


 俺は春樹のつまらなさそうな顔を見たらかわいそうに思えてしまい、ついそんな言葉が口から出ていた。


「お、まじ?それは期待大だね~。明日面白い話を聞けることを楽しみにしておくよ」

「あぁ。そうしてくれ」


 なんか、ハードル上がってないか?……気のせいだよな?



「お前ら。席につけよ」


 担任の小島こじま 恵太けいたが、騒がしかったみんなを鎮めて、SショートHホームRルームを始めた。


 よし。今日は部活休みだから、このSHRが終わると帰れることができるな。

 前の席にいる春樹も少し機嫌がいいように見えた。


「明日お前らに大事な話があるからできる限り休むなよ」


 大事な話?

 小島の一言で、教室中がザワつきだした。

 あえて明日言うということは、今は言えないということなのか?

 気になる。すごく気になる……。


「まさか、小島が結婚するなんてな〜」


 ……は!?春樹はいきなり何を言い出すんだ?

 しかも、結構大きな声で…。


「どうした浅村?……帰る前に俺のところに来いよな?」

「うげっ…!」


 小島は鬼の形相で、春樹に後で来るようにと伝えていた。

 対する春樹は、顎を引きながらすごく嫌そうな顔をしていた。

 しかし、この会話はいつものようにあることで、みんなはもう慣れてしまっている。

 だから、教室中からクスクスと笑い声が聞こえてくるが、これもいつもの事なのだ。

 さすが春樹だな……。

 俺だったらあまりにも恥ずかしいので、耐えていられる自信がないな。


「────じゃあ、今日のホームルームは以上。帰ってもしっかり勉強するんだぞ!」

「「「「「「「え〜……」」」」」」」


「そんじゃ、さよなら!」

「「「「「「「さよなら……」」」」」」」


 俺は学校から帰る寸前、春樹に言わなきゃいけに事があったので、春樹に声をかけた。


「春樹。面白いことがこれから待ってるな。良かったじゃん!」

「良くないよォ〜!もちろん海斗も着いてきてくれるよな?な!?」

「あ、やべ。もうこんな時間。さっきも言ったと思うけれど今日買い物行かないといけないから帰るわ!」

「海斗ォ〜!!」


 後ろの方から助けを求める声がしたが、聞こえてないふりをして俺は教室を出た。


 今日の夜ご飯は、できた弁当でも買って帰ろうかな?

 ……うん、そうしよう。

 今日は部活が家で自主練しないと腕がなまってしまう。

 俺は部活が好きなので自主練をすると気づいたころには日が完全に沈んでいるということは多々ある。

 だから、時間がある日はできたものをいつも買っているのだ。



 ☆☆☆


 俺は、帰り道にスーパーで冷蔵庫から切らしていたものを買い、人気のある弁当屋さんに寄った。

 まだ早い時間だったからか、お客さんは少なく、弁当もたくさんあった。


 どれもおいしそうだが……。

 お、ラッキー!

 俺の好きなコロッケ弁当あるじゃん!

 俺はここのコロッケ弁当がすごく好きだ。けれど、美味しくて人気なため、いつも買うことができないのだ。

 けれど今日は買うことができそうだ。今日の夜ご飯は、これで決まりだな。


 俺はコロッケ弁当を手に取り、レジで会計を済ませて店を出た。


 店の自動ドアが開くと、夏のカラっとした空気が吹いてきて、せっかくコロッケ弁当を買えて高かったテンションが、少し不快な気持ちになってしまった。

 もう夏か…。

 部活用にスポーツドリンクを大量に買わないと行けなくなるな。少し節約しよう。


 ちなみに俺は、野球部に所属している。

 小学生の頃に、お父さんに連れて行ってもらったプロ野球があまりにもカッコよく、脳裏から離れなくなってしまい、気づいた時には俺は地域の野球チームに所属していた。

 それが俺の野球を始めたきっかけだ。

 しかし。俺の所属していたチームはせいぜい地域の小さな野球チームだ。

 どれだけ俺が頑張っても輝くことはできず、俺は都会の高校に、いや野球の強豪校に入学したいと思ったのだ。


 俺は、中学校を卒業するまでは家族と一軒家で仲良く暮らしていたけれど、ある日両親に、俺が都会の野球の強豪校に入学したいという意思を伝えた。

 両親からは住む場所はどうするの?ご飯作れるの?とたくさん言われたが、最終的には俺の思いを聞き入れて、俺が独り暮らしをすることを了承してくれた。


 そんなことを思い出しながら、帰り道を歩いていると、路地裏の方から誰かの必死な声が聞こえてきた。


「────。誰か助けて……」

「うるさいな。俺が遊ぼうと誘っているだろ!?」


 俺の体は気づいた時には走り出していた。

 俺の右手からは、ビニール袋と、その中で暴れるコロッケ弁当のトレーの音がする。

 ちくしょう…。せっかくのコロッケ弁当が袋の中で暴れている。

 楽しみにしていたのに……。頼むからトレーから飛び出さないでくれ。



 あ、あの子か!


 15秒ほど走ったところに先程の声の主がいた。


 1人は、金茶色きんちゃいろの長くて綺麗な髪をなびかせている俺と同じぐらいの歳の少女。

 そして、もう1人は目の横や耳たぶにピアスを着けた、見るからに"陽キャ"な少し俺よりも年上な男だった。


 男は、少女の腕を無理やり掴み、そして引っ張っていた。

 少女の方は少し痛そうにしている。


「おい、そこの男の人。その女の子は、あんたに引っ張られてて痛そうだし、嫌がっているよ?早く立ち去らないと俺が警察を呼ぶことになるけど、どうする?」


 俺は男を挑発するかのように言葉を放った。

 男は分かりやすく舌打ちだけをして、この場から立ち去って行った。

 殴られる覚悟でいたので、俺は正直すごくびっくりした。


「じゃ」


 俺のできることはもう終わった。

 俺は面白いことを探すと春樹に言ったが、こんな厄介事を俺は望んでいないので、さっさとこの場を立ち去ることにした。


「まっ、て……!あっ────」


 俺を引き止めた少女の方を向いたその時。

 少女は、体中の力が抜けたかのように、ガクンと地面に膝を落とした。

 『危ない!』と思い、俺は慌てて少女の肩を支えたので、幸いにも完全に倒れることはなかった。


「すいません……。ありがとうございます」

「大丈夫。君立てるか……?」


 そう言うと少女は申し訳なさそうに首を横に振った。

 俺はしょうがなく近くにあった古いベンチに少女を座らせてから言った。


「少しここで休んだ方がいいよ。じゃあね」


 今度こそ俺はこの場から立ち去ろうした。

 しかし、少女は俺がこの場を離れないようにするかのようにガッチリと俺の腕をホールドてきた。

 そしてその手は、小さく震えていた。


「どうかしたか?」

「……動けない私を1人こんなところにおいていくのかしら?」


 最初は下を向いていたのだが、いいことを思い付いたかのような顔をして俺の目に訴えかけてくる。

 うっ……。この子は今おかれている状況を完全に利用してやがる。


「俺の負けだ」


 少女は僕の目を見て数回瞬いた後、少し口の端を上げて言った。


「私の勝ちね」


 ちくしょー。でもこの少女のほうが俺よりも1枚上手だったから仕方がないんだ。

 そして、このニヤけ顔、可愛いのでなんとも言えない。


 とりあえず少しの間一緒にいるんだ。


「人と関わるときはまず自己紹介からだな。俺の名前は柊 海斗。少しの間だがよろしくな」

「私は、Charlotteシャーロット七瀬ななせよ。先月私の生まれ育ったイギリスから、この町に引っ越してきたのだから、この町のことはまだよくわからないけれどよろしく」


 日本人離れした美人だったから、どういうわけかと思ったらイギリス人だったわけか。

 俺がの顔をジロジロと見ていると、不思議そうに俺の顔を覗いてきた。

 暗いから今まで気づかなかったが、シャーロットの瞳はこれでもかというくらいに綺麗な青だった。


「ところで柊くんはどうして私を助けてくれたの……?」


 どうして、か……。

 どうしてなんだろう。人としての善意?それとも………

 思い出そうにも思い出せない!


「気が付いたら体が動いてたんだよ。……ってあれ?俺ってなんかヒーローみたいじゃないか⁉」


 俺は助けた理由を思い出せず、おどけたようにそう言った。


 後から思ったのだが、人助けに理由なんていらないよな。


 シャーロットは俺の答えが意外だったのか、クスリと微笑みながら言った。


『そうねヒーローみたいだったわ』


 は?なんて言った?

 俺は英語が大の苦手なため、彼女の言った言葉を理解することはできなかった。

 しかし、heroヒーローという単語を聞き取ることができたので別に貶されていたわけではないだろう。


「なんて言ったんだ?」

「『自意識過剰なの?』って言っただけよ?」


 本当か?ヒーローって聞こえたが気のせいだったようだ。

 というかめちゃくちゃけなされてたし……。


「……もしかして柊くんって英語苦手だったりする?」

「もしかしなくてもそうだ。俺は英語に関しては、中一の内容からさっぱりだ」

「そう。わかったわ」


 そう言って彼女は悪だくみをするように、ニヤリと口の端を上げていた。

 嫌な予感しかしないんだけど……。

 ほんと怖いからやめてくれない?……まじで。


「何か言いたげな顔ね?」

「き、気のせいだろ?」

「う~ん……。そうね。そう思っておくよ」


 そう言って彼女はさっと立ち上がって見せた。


「話に付き合ってくれてありがとう。少し休んだから体に元気が湧いてきたわ」

「そうか。それなら良かった。そんじゃ、大通りの方まで一緒に行くか?」


 そう言って俺はシャーロットの反応など気にせずに立ち上がり、大通りに向かって歩き出した。

 シャーロットはしばらく呆然として突っ立っていたままだったが、俺に追い付くためにパタパタと足をならしてこちらの方へ駆けてきた。


 そして、俺のすぐ後ろを「ピタッ」という効果音がつくぐらいの距離にいるシャーロットのために、俺は歩く速度を少し落として大通りに向かって歩き続けた。


 その間俺達に会話はなかったが、それでも気まずいと思うことはなく、お互いに黙々と歩いた。


 1分も歩かないうちに暗かった路地裏から大通りに出ることができた。

 茜色に染まった空には、あと少しで沈んでなくなりそうな夕日が見える。

 ずっと暗いところにいたせいか、夕日がやけに眩しく感じる。

 俺が太陽から目を背けると、視線の先には夕日を目を細めながら眺めているシャーロットがいた。

 その姿はまるで女神と錯覚するくらい綺麗で、俺はつい見とれてしまった。

 俺の視線に気づいたのか、シャーロットは俺の方に体ごと回転して言った。


『今日は、ありがとう。かっこよかったわ』


 本当に英語で喋るのはやめてもらいたい。

 シャーロットの話す英語は、授業でいつも聞く、先生の聞き取りやすい英語とは違っいる。

 やっぱりネイティブな英語は俺にはわからない。

 さっきのシャーロットの言葉で聞き取れたのはせいぜいThank Youありがとうぐらいだった。

 聞こえているのに意味を理解できないなんて本当にもどかしいものだ。


「何て言ったんだ?」


 俺は一応聞いてみると、『ありがとうって言っただけよ』とだけ言って、シャーロットは駆け出した。

 20メートルほど行ったところで、シャーロットは振り返り言った。『また会えるといいわね!』と。

 その時のシャーロットの無邪気な笑顔は1日寝たくらいでは忘れることはないだろう。


 俺は、俺達の住むこの町は、全国的に見てもわりと広いので、もう会わないだろうと思ったが、「あぁ。そうだな」とだけ答えておいた。


 本当にシャーロットとまた会うことはあるのだろうか……。

 俺は何を考えているんだ?と思い、1人苦笑しながら家に向かって足を進めた。




 ――――――――――――


 1話です~!見てくださり、ありがとうございます!

 この作品でカクヨムコン頑張るので、面白かったと思ってもらえたら、☆☆☆を★★★にして、フォローしてもらえるとありがたいです!!

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