第32話
でも、告白なんてできない。
そんな勇気が、自分には到底ない。もし、気持ちを伝えてこの関係が壊れてしまうなら・・・・・・
そう思うと、言葉を口にすることすらできなくなる。だから、この曖昧な状態が続くのだろう。
ふと、隣にいる陸人の顔を盗み見た。彼は穏やかな表情で、何を考えているのか分からない。陸人は俺のこと、どう思っているんだろう。俺のことが好きなのか?
自分の中に芽生えたその問いが、胸の中でぐるぐると渦を巻く。思い返せば、陸人のこれまでの行動は、確かにどこか特別なものだったように思える。俺が困っているときには必ず手を差し伸べてくれたし、今日の朝のキスだって――あれはただの冗談ではない気がする。
けれど、それを確信するにはどこか踏み込めない自分がいる。
悶々とした状態が続き、胸の中が締めつけられるようだった。どうしても答えが出せないまま、時間だけがゆっくりと過ぎていく。
ふと時計に目をやると、まだ授業が始まるまでには時間があった。今日は四限からのスタートだから、今はまだ午前中。つまり、十五時前までは自由な時間だ。
こんな気持ちのままでいるのも落ち着かなくて、少しでも気分転換をしようと思い、隣の陸人に声をかけてみることにした。「外出る?」と、できるだけ自然な調子で尋ねる。
陸人は一瞬こちらを見て、少し考えるような表情を浮かべた。その反応を見ながら、俺は胸が妙にざわつくのを感じていた。彼とこの時間をどう過ごすのか、それが些細なことであっても、今の自分には重要なことのように思えた。
「どこいく?」
「うーん、にんかカフェでも行かない?」
「いいね」
正直なところ、一旦家から出たかった。昨日は勢いで「家に来ないか」と誘ったものの、一緒に過ごす中で、考えすぎて頭がぐるぐると回り始めている。陸人の隣にいると、どうしてもいろんな思いが溢れてきて、自分でも整理がつかなくなりそうだった。
だからこそ、リフレッシュも兼ねて外に出るのがいい気がした。少し風に当たって、違う空気を吸えば、このモヤモヤした気持ちも少しは軽くなるかもしれない。そう思って、自然なふりをしながら外出を提案した。
家から駅まで、二人で歩いていく。平日の昼前ということもあって、道行く人は少なく、どこか静けさが漂っていた。まだ世間は昼休憩前の時間帯だ。周囲の店も賑わっておらず、歩道には、たまに近所の人が通りかかる程度の穏やかな空気が流れている。
ふと目に留まったのは、通り沿いにある小さなカフェだった。大きな窓から中を覗いてみると、空いていそうだったので、自然な流れでそこに入ることにした。
カフェの中は落ち着いた雰囲気で、静かな音楽が流れている。席について、注文を済ませる。俺は抹茶ラテを頼み、陸人はブラックコーヒーを選んでいる。
「ブラックコーヒーなんて飲めるのかよ」
そう思わず口に出しそうになったが、飲み慣れているのか、当たり前のように注文する彼を見て、少し大人びた印象を受けた。
普段の彼の雰囲気とは違う一面を垣間見た気がして、無性にかっこよく見えた。いや、陸人は元々かっこいい――その事実を改めて認識してしまう。
最初は少し沈黙が流れたけれど、やがて授業の話をするようになり、自然と会話が弾んだ。陸人の笑顔に引き込まれるように、話題は次々と広がり、いつの間にか楽しい時間に変わっていた。「中間テストの勉強を一緒にしよ」なんて話も出て、二人の時間がさらに心地よく思えてきた。
そんな中、カフェの扉が開き、一人の男子が入ってきた。ちらりと視線を向けると、どこかで見たことがあるような顔だ。記憶の奥底を探るが、すぐには思い出せない。
けれど、その男子がこちらを見て目を見開いた瞬間、確信に変わった。彼は明らかに俺を知っている様子で、ためらうことなく近づいてきた。その歩みには迷いがなく、こちらに何かを伝えたいような意図が感じられた。
俺は、一瞬戸惑いながら、その男子が何を言い出すのかをじっと待った。
「よ、雄也」
(えー? 誰だっけ・・・・・・?)
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