響想

第31話

 そのあとは、二人でゲームをすることになった。中学生の頃、親に買ってもらったニンテンドースイッチで遊ぶ。

 普段、暇な時はこれで遊ぶのが習慣だったし、自分なりに得意だと思っていたのに、陸人にはまったく歯が立たなかった。


 ゲームは、いろんなキャラクターが出てくるアクション系の対戦ゲーム。キャラクター同士が殴り合いながら勝負を競う内容だ。陸人は、初めて遊ぶと言っていたけれど、なぜか信じられないほど上手くて、俺は何度挑戦しても負け続けた。


「なんで、そんなに強いの?」


 悔しさを隠しきれず、コントローラーを握りしめたまま陸人に尋ねると、彼はにっこりと微笑みながら、あっけらかんと答えた。


「さあー、ボタンポチポチしてるだけだけど」


 爽やかなその笑顔に、俺は思わず言葉を詰まらせた。本当にそれだけで勝てるのか。疑いを込めた目で彼を見つめる。


「嘘だ。やったことあるんだろ?」


「ないよー」


 何の悪びれもなく、楽しげに返される。その自然体な態度に、俺はそれ以上何も言えなくなってしまった。

 爽やかな笑顔を目の当たりにすると、言い返す気力もどこかに消えてしまう。

 ただ、その笑顔に目を奪われる自分に気づき、思わず見つめてしまっていた。


 その瞬間、陸人が首を少し傾げた。小さな仕草だったけれど、それが妙に可愛らしくて、一層胸が高鳴った。彼に不思議そうな目で見返されて、ようやく自分がじっと陸人を見つめていたことに気づく。

 慌てて視線を外し、画面に向き直ったが、耳が熱くなるのを感じた。


 再びゲームを始めるものの、陸人の強さは相変わらずだった。何をどうしても勝てない。


「あー、もう陸人強い!」


 コントローラーを握る手に力を込めながら、思わず声を上げる。画面の中では、またしても俺のキャラクターが吹っ飛んで行ってしまった。

 陸人はそんな俺を見て、楽しげに笑う。


「フフッ、どうする? まだやる?」


 勝ち誇ったような彼の笑顔に、ますます悔しさがこみ上げたけれど、これ以上負け続けるのは自分でも耐えられそうになかった。


「えー、もうやんない」


 拗ねたようにそう言いながら、俺はその場にごろんと横になった。天井を見つめながら、少し疲れた目元を手でほぐす。

 繰り返されるゲームの負けもあったけれど、陸人の存在を意識するたびに、どっと疲れが押し寄せるような感覚に襲われていた。


 すると、隣で動く気配がして、顔を向けると、陸人が俺の隣に寝転んでいた。予想外の行動に、思わず固まってしまう。彼は自分の腕を枕代わりにして、俺の方をじっと見つめていた。

 その瞳は穏やかで、どこか優しさを湛えていたけれど、その視線にさらされると、なぜか緊張が募る。


 普段なら、こんなことで緊張することはない。けれど、彼の目に見つめられていると思うと、心がざわめき、胸が妙に落ち着かなくなった。どうしてこんな気持ちになるのだろうと、自分自身に問いかける。

 そして、その答えは既に心の奥にあるような気がして、否定したい気持ちと認めたくなる気持ちがせめぎ合っていた。


 もう、普通の関係ではない。


 そう自覚した瞬間、心の中で何かが静かに崩れていった。陸人の笑顔も、視線も、すべてが自分にとって特別なものに思えてならない。

 俺は、陸人のことが好きだ。

 そう認めざるを得ない感情が、胸の奥からじわじわと広がっていった。

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