予期せぬ訃報と捜査のまとめ
予期せぬ訃報と捜査のまとめ
【日暮逢の捜査ノート】
気絶してたみたい。起きたら支部のゲストルームに戻ってた。
各部署への連絡は、四辻さんが全部やってくれたみたい。申し訳なくて頭が上がらない。
ノートの、橋爪さんの取り調べを記録したページは、一か所が真っ黒に塗りつぶされていた。
四辻さんに聞いたけど、何も知らないらしい。あたしがやったのかな? 何も覚えてない。時々何も思い出せないのが怖くなる……。
〈足立さんについて分かった事〉
みとし山中で、バラバラの遺体になって発見された被害者の足立さんは、橋爪さんに殺害された。
橋爪さんは、会社での不正を足立さんに指摘され、腹を立てて足立さんを殺害してしまった。でも橋爪さんと足立さんは同期で仲が良かったことから、橋爪さんは殺したことを悔いていた。足立さんを、彼の故郷のみとし村に近い場所に埋めようとしたことからも、後悔の気持ちが伝わってくる。
四辻さんは橋爪さんの証言を元に、支部の捜査員に足立さんの背景を詳しく調べてもらったようだ。
橋爪さんの証言通り、足立さんはみとし村出身だった。
子供の頃に父親を亡くしてから、母親の実家に移り住んだようだ(彼の弟と母親は今もその家に住んでいる)。
父方の祖父母は、足立さんの父親が亡くなって少ししてから、亡くなったそうだ。
みとし村に暮らす祖母は引き籠り気味で、祖父は町の友人宅で過ごす事が多かった様子。夫婦仲が悪かった?
そのため、祖母が亡くなっても数日は気付かれず、異変に気付いた近所の人達が遺体を発見したらしい。
検死の結果は、衰弱死。家の中には、調味料さえ残っていなかったようだ。
不思議なのは、彼女はそれまで健康状態に問題がなく、歩くこともできていたということ。お金に困っていた様子もない。それなのにどうして、亡くなるまで家の中に閉じ籠もり続けたんだろう。
その後、しばらくして祖父も亡くなった。自殺だったようだ。
足立さん達と祖父母は、引っ越してからは疎遠になっていたらしい。祖父母の死は警察からの連絡で知ったようだ。そりが合わなかったのかもしれない。
足立さん達は家の相続を放棄し、家は今も空き家のままになっている。
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【神無四辻のメモ】
イレイザーが使用される直前の橋爪さんの証言が気になり、遺体の写真を見直してみた。
足立さんの遺体は、やはり目的をもってバラバラにされ、あのように積まれたようだ。
橋爪さんに死体損壊をさせた怪異達は、腹部を台座に、頭部をしめ縄が飾られた石に見立てて置くことで神の目を作り、おみとしさまを侮辱したんじゃないだろうか?
意図してこれをやったなら、やはりおみとしさまと敵対している悪霊が村にいることになり、おみとしさまは悪霊を見逃していることになる。
この事件は、神の使いに成り済ました悪霊がいるという仮説の証拠になりそうだ。
さらに、いくつか興味深い情報を得ることができた。
橋爪さんが目撃した悪霊は複数体だったことから、事件に関与したのは保護施設に現われたトミコさんだけじゃなさそうだということ。
悪霊と接触した足立さんの霊は、境界を越えて村に入っていたと考えられる。彼がおみとしさまに攻撃されなかったのは、彼が悪霊達と同じ性質を持っていたからじゃないだろうか?
そしてもう一つ、僕は大事な事を見逃していた。
おみとしさまは、確実にこれらの怪異が村を出入りするのを見逃している。
三尸——人の体に潜む虫の怪異。そのうち一つ、上尸はイレイザーにも使われている。
おみとしさまは、人間に憑いた三尸が、外から入ってきても見逃している。おそらく、おみとしさまの性質が影響しているんだろう。
おみとしさまは、元人間だ。生きていた頃の感覚や性質をそのまま受け継いで、怪異になった。
多くの人間がそうであるように、人間だった頃のおみとしさまも、三尸に取り憑かれていたと考えられる。境界内に入り込んだ三尸憑きの人間を襲わないのは、おそらく、おみとしさまが三尸を体の一部だと思っているからだろう。
足立さんの場合は何で見逃されたのか?
彼は外から入って境界をまたいだ後に、バラバラになった片足を依代にして動き出した。それなのに、おみとしさまは何もしなかった。
これも三尸と同じだと考えられる。おみとしさまは、彼を体の一部だと考えた。なぜならおみとしさまは、祖霊信仰で生まれた村人の霊の集合体だからだ。
これらのことから、悪霊が神の使いに成り済ましているかどうかは関係なく、複数の人間の性質を引き継いだおみとしさまは、村人や元村人の霊を自分の一部と思い込んで、認識できないのかもしれない。
天井下り事象の怪異の正体を暴くのに有益な情報だ。至急、太田捜査官に報告する。
〈神威兵について〉
柳田支部長と見鏡に電話がつながらない為、差し替えられた文書の真意は確認できていない。またあとでかけ直す。
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【K支部 ゲストルーム】
ノートを纏め終わると、逢はベッドに横たわり、ぼんやりと四辻が資料を纏めているのを見ていた。
(また迷惑をかけちゃった)
逢は罪悪感に苛まれていた。
だけど、四辻の横顔を眺めていると、不思議と懐かしくて、温かい気持ちになった。
(四辻さんは、どうしてあたしを見捨てないでくれるんだろう)
突然、四辻が資料から顔を上げた。
緊張した様子に、視線を向けられた逢も思わず起き上がった。
「太田捜査官に連絡してくるね」
そう言って、四辻はスマホを持って立ち上がった。
ドアが開けられたのは、ほぼ同じタイミングだった。
「神無捜査官……」
顔面蒼白の支部長、柳田がドアの向こうに佇んでいた。
そのただ事ではない雰囲気に、四辻は落ち着いて話すように彼を宥めた。
「み、みとし村を捜査中だった当支部の捜査官が襲われました。一人は頭部を負傷して病院に搬送され、もう一人は安否不明です。先ほど本部へ連絡をしたので、直に委員会が開かれると思います。私もリモートで参加し、報告をしてきます。遅くても明日には、お二人に捜査権が与えられるかと……」
ショックのあまり、逢は一瞬、何を言われたのか分からなかった。
太田と加藤、捜査にも協力してくれた二人が、事件に巻き込まれたなどと、すぐには受け入れられなかった。
それは四辻も同じだったようだ。しかし、彼は一度深呼吸すると、
「搬送されたのは太田捜査官と加藤捜査官のどちらですか? 意識はありますか?」
と、落ち着いたトーンで支部長から情報を聞き出していた。
その様子を見て、逢も我に返ったようにノートにペンを走らせた。
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【日暮逢の捜査ノート】
みとし村で天井下り事象を捜査中だった加藤捜査官と太田捜査官が襲われた。頭部を負傷した加藤捜査官は意識不明で病院に搬送され、太田捜査官は消息不明。
委員会の決定を待って、天井下り事象の捜査を開始する。
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