取り調べ②
【日暮逢の捜査ノート】
以下は、橋爪さんの供述。
「」は四辻さん。
昨日の夜、足立に誘われて夕飯を食べた。俺は下戸だから、吞んだのは足立だけだった。
場所? 俺の家だよ。昔から、スーパーで惣菜や缶ビールなんかを買ってどっちかの家で飲む習慣があったんだ。外じゃ誰に話を聞かれるかわからないからって、足立は変なところで神経質だったんだ。
大体は金曜日だったから、一昨日誘われた時は驚いたよ。あいつはいつものように酒を飲んで、俺も飯を食って、仕事の愚痴だとか色々話したりしてたんだ。だけど、しばらくして、あいつは俺の不正の話を切り出した。
金を返せと説得されたけど、できないと言うと、告発すると言われた。……本当は、殺したくなかった。後悔しているよ。あいつの苦しそうな顔が頭から離れないくらいには……。
冷静になって、恐ろしい事をしたと実感した。救急車を呼ぼうとしたけど、できなかった。今はあいつの家族にも申し訳ないと思ってる。
足立の遺体を何とかしないと、と思った時、あいつが子供の頃にみとし村に住んでいたって話を思い出した。父親が死んでから母親の実家に移って、もう戻れなくなったけど、あの頃が懐かしいって言ってたんだ。だからせめて、故郷に近い場所に埋めてやろうと思った。
バレたくないという気持ちもあって、町から近い道を選んだ。麓についてから、足立をどう運ぶか迷ったけど、足立の遺体にシャベルを括りつけて背負って登る事にした。さすがに引き摺るのは可哀想だったからな……。ヘッドライトの明かりだけで不慣れな山道を登るのは大変だったから、少し登ったところで足立を埋めた。
穴を掘り終わって、埋めようとしたとき、あいつの持っていた鍵の束がポケットから落ちた。その時悪い考えが生まれた。
あいつの部屋の鍵を外して、証拠を納めたスマホを壊して一緒に埋めた。明け方近く町に戻ってから遺書を作り、あいつの部屋に置いた。……最低な行為だったと思う。本当に後悔している。
「すみませんが、更に詳しく教えていただきたいところがあります。橋爪さんは、本当に足立さんを埋めたんですか?」
……そのはずです。
「声に自信がなさそうですが」
土を被せ始めてからの記憶が曖昧で、気付いたら車を運転していたんだ。怖かったから、確認に戻ろうとは思わなかった。服は泥で汚れていたし、帰ってすぐゴミ袋にいれたと思う。思い出したくなかったしな。
「先程、あなたの家を調べてくれた捜査員から報告がありました。ゴミ袋には、おびただしい量の血液が付着していたようです。車の方も、掃除をされたようですが、ルミノール反応が検出されました」
……は?
「よく思い出してください。被害者を埋めている最中、何があったのか」
(橋爪さんは目を閉じて腕を組み、思い出そうとする仕草を見せた)
あ……足立が、俺に話しかけてきた。引き摺ってくれても構わないから、村に連れていってくれって……。
石が積み重なっている場所が見えてきて、近づいたら沢山の人に迎えられた。
その人達は、足立を指差して俺に聞きいた。
『この人は囲の中にいたのか』と。
俺は、違うと言った。でも足立は、
『こいつはそうなるから帰してやれ』と言った。
あんなことはしたくなかった。でも、仕方なかった。
囲の中にいたから許せなくなったんだ。
お前達が来ても村は変わらなかったから。
血を撒かないといけないんだ。
おみとしさまを零落させるには。
穢さないといけないから。
村人全員。
お前達も。
みんな殺す。
殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころす
(橋爪さんの様子がおかしくなった途端、後ろに控えていた情報部職員が二人がかりで彼を取り押さえ、腕にボールペン型の注射器を突き立てて薬を注入した。イレイザーだろうか?)
(四辻さんに部屋から追いだされた。あたし何かしたのかな。後で謝らないと。迷惑かけてばかりの自分が嫌になる……)
≪イレイザーのせいだ。思い出そうとすると気分が悪くなる≫
≪この頭痛は、開発中の粗悪品を注射されたせいだ≫
≪機関はあたしの研究を潰して珠月様を利用している≫
≪思い出せ、珠月様からサンを引き離す方法≫
≪そのためには、あの報告書が邪魔だ≫
≪神無四辻事象。あの虚偽のレポートで隠されている≫
≪思い出す程遠ざかる≫
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