取り調べ①

【10月15日 取調室】


 橋爪と向かい合うように四辻は座り、逢は四辻の後ろに控えた。その他、機関の人間が二人、緊張した面持ちで橋爪の後ろに立っていた。


「どうも」


 四辻が微笑むと、橋爪は嫌そうな顔をした。


「またあなたか。刑事じゃないと言ってませんでした? どうしてここにいるんです?」


「僕の所属する機関は、警察機関と切っても切れない縁があるんです。なので必要であればこのように」

「刑事みたいに取り調べできるって? どんな腐れ縁だよ」


 四辻は「せっかくなので、少し昔話をしましょうか」と話を続けた。


「明治時代、迷信を前近代的だと考えた政府は、近代化を推し進める為に学者達の力を借りて、迷信や怪奇現象を科学的に駆逐しようとしました。しかし、科学的に説明できない現象と、生物のような振舞をする得体の知れない何かが残ってしまったんです。


 すると政府は怪異の存在を認め、未知を既知にしようとしました。怪異を分析することで、対処法を生み出そうとしたのです。学者の他、既に怪異と深い関係にあった陰陽師や拝み屋などの職種が招集され、警察機関内に怪異対策課が設立されました——それが照魔しょうま機関の始まりです。


 つまり当時の政府は、表面上は怪異を否定しながら、裏では怪異の存在を認めて秘密裏に対処しようとしていたんです。その性質は今も変わらず、機関は警察から独立した後も、警察を隠れ蓑に使っています。今でも人は怪異の全てを知る事はできず、対処するのも精一杯なのですよ」


 橋爪の口から乾いた笑いが零れた。


「まるで陰謀論者の狂言だな」

「しかし、事実です。あなたも目撃したじゃありませんか」


「たしかにな。化物になった足立は、忘れたくても忘れられないよ。もしあいつが化けて出てこなければ、と、少し考えてしまうが」


「遅かれ早かれ、あなたの罪は裁かれていたと思いますよ。社員の皆さんに大足を洗ってもらっている間、僕はあなたの同僚の川尻さんにお話を伺っていました。


 彼女は『足立さんが小口現金に手を出していた』と思っていたようですが、理由を聞いたら『昨日橋爪部長からそう聞いた』と教えてくれました。

 あなたは、足立さんのご家族から『遺書にそう書いてあった』と教えてもらったそうですね。ですが、遺書には詳しい犯行方法は書いてなかったし、足立さんのご家族も当然心当たりなかったはずです。


 あなたは足立さんに罪を着せる為に遺書を作ったものの、殺人の後で動揺していた所為か、うっかり遺書に犯行方法を書き忘れていたんですよ」


 指摘されると、橋爪は大きな溜息を吐いた。


「それから捜査当局は、あなたが別の方法でも不正を働いていた証拠を見つけたようです。あなたが業務を統括する立場だからこそ、できてしまった犯行でした……」


「わざわざそれを言う為に来たのか?」


「いえ、本題はここからです。足立さんをどのように殺害して遺体を処理したのか教えてください」

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