K支部の捜査官 太田・加藤③
「あ、そうだ」
太田が捜査に戻ろうとすると、報告を終えた四辻が、たった今思い出したとでも言うように口を開いた。
「太田捜査官のご意見を聞かせていただきたいんですが」
「はぁ。何ですか?」
「先程はああいいましたが、あのバラバラの遺体、犯人の意志ではなく怪異の意志だとした場合、やっぱり神の使いが遺体を損壊したとはどうにも考え難いです。おみとしさまは、いくら穢れそのものに頓着しなくても、穢れを好む神ではないでしょう」
「……俺もそう思いますよ」
「ですよね。そこで、外から怪異がおみとしさまに気付かれず、境界の内側に入り込む方法は本当にないのか、是非ご意見を聞かせていただけませんか?」
「外から怪異が侵入したとは思えませんね。昨日村の周りに置かれている神の目は全て無事だと確認できましたし、さっきもこの辺りを調べましたが、壊された神の目はありません。それにもし壊そうとする奴がいたら、おみとしさまが黙っていないでしょう。
壊さずに忍び込もうとしても、おみとしさまは縄張り意識が異常に強く、昔この土地にいた怪異すらも追い出した神です。常に無数の目で自分の縄張りに入り込もうとする怪異を探してますからね。どんなに変化が上手い怪異でも、境界を跨ぐ意志があれば、おみとしさまの眼力には敵わないでしょうね」
太田は「村には狸や狐の一匹も入り込めませんよ」と冗談っぽく笑ったが、四辻は異様に深刻な表情を浮かべた。
「なるほど。村に入るのは思っていたよりも厄介……いえ、失礼。怪異がバレずに村の中に入り込むのは無理そうですね。ではやはり、おみとしさまには認識できない怪異がいるようです。たとえば——天井下り事象の怪異」
「は?」
太田は眉間に皺を寄せ、四辻を睨んだ。
「神無捜査官。天井下り事象の怪異の正体を、知っているんですか?」
「まさか。ただの思いつきですよ。でもその反応を見るに、当たりのようですね」
四辻が笑うと、太田は隠す事もなく舌打ちした。
「怒らないで聞いてください。ただの、僕の想像の話ですので。僕は、もしもトミコさんが、あのバラバラ遺体、そして天井下り事象に関係があるなら、あなたに捜査していただくのは、やはり都合が良いと思ったんです。なぜなら今回の事件、太田捜査官以上の適任はいませんから」
首を傾げる太田を無視して、四辻は続けた。
「おみとし様は、他の怪異に縄張りを荒らされることを何よりも嫌う。でももしトミコさんが遺体を損壊した犯人だったなら、なぜおみとしさまは悪霊の彼女に気付かなかったのでしょうか。
やはり支部の中で以前から議論されている、神の使いの正体について、答えを出す時が来たんじゃないでしょうか?」
四辻が微笑むと、太田は面倒くさそうに頭を掻いた。
「その情報は、データベースに載せていないはずですよ。誰ですか? アンタにリークした馬鹿野郎は」
「いませんよ。全部僕の想像の話ですから」
「チッ……。隠しても無駄みたいなので白状しますけど。俺みたいに、神の使いの正体やおみとしさまの能力を疑う人間は少数派なんですよ。
ですが、これがトミコの犯行なら、俺達にとって有利な証拠になる。そうなれば、すぐにでも委員会はあの計画を実行したがるでしょうね」
「ではやはり、おみとしさまには認識できない悪性の怪異がいるんですね。さすが元みとし村担当の調査官、頼もしいです!」
「……俺の経歴、教えましたっけ?」
「みとし村事象についての報告を閲覧している際、あなたの名前を見つけました。あの村は特殊ですから、捜査官を派遣するなら村を良く知る人物だろうし、同一人物だろうと思っていましたよ」
四辻は「では、また後程」とその場を去ろうとしたが、言い忘れた事を思い出して戻ってきた。
「すみません。もう一つありました。本部にはさっきの内容で許可を取ったので、委員会はクワバラが天井下り事象に関わろうとしたことを詮索しないと思いますが、もし何か聞かれたら、僕の想像の話は忘れて、さっき決定したことだけを伝えといてください」
一礼して去っていく四辻を目で追い、太田はガシガシ頭を掻くと深い溜息を吐いた。
(あの野郎。やっぱり首を突っ込むつもりだったか。どうも知りたい情報だけ抜き取られて、狙った展開に持って行かれた感じだな……ハァ。あの手の人間と話すのは苦手だ……)
そこでふと、あることに気付いた。
(あいつ、錯乱した田畑の証言からトミコが死体損壊と天井下り事象に関与していると連想したにしては、随分と自信満々だったな。
支部で議論中の、神の使いについての内容まで知っているようだったが、まさか天井下り事象の詳細な捜査内容まで知っていたのか? 誰だよこいつにリークしてる馬鹿は!)
そう考えたところで、支部長 柳田の顔が頭に浮かんだ。
(支部の責任者には、おみとしさま信仰に絶対感化されない人間が選ばれる。柳田は、祭神への信仰心の篤さだけで支部長に抜擢された男だ。身内を見張るのにあれ以上の適任者はいないが、どうも間の抜けた男だ。
……待てよ。たしかクワバラは、祭神の
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