足跡
【10月14日 みとし山 神の目前】
「そういえば、柳田さんは何て言ってたのかな?」
「至急応援を向かわせると、お返事をいただきました」
「ありがたいね。僕達は村に入れないし、遺体の回収は支部の人達に任せよう。その間、僕達は足跡の方を追ってみようか」
逢に双眼鏡を渡すと、四辻は遺体の下を見るように促した。
「足跡が二種類ありますね。一つはあたし達が登ってきた方向から続いていますから、田畑さんが遺体を見つけた時に付いたものでしょう。
でも、もう一つは誰のでしょう? 境界の外から入って、出ていったように見えますが……。それと、何かを引き摺った形跡もありますね」
「遺体を引き摺って、ここに運んだ犯人の痕跡かな」
逢は思わず双眼鏡から目を放して四辻を見た。
「信じたくありませんが、やっぱりこれをやったのは、人間なんですね……」
「遺体は自然発生しないからね。何か理由があって彼は殺され、このようにされた。ただ、全部が殺人犯の仕業だとは断言できないけどね」
四辻はそう言って、バラバラの足跡を指差した。
「四辻さん、あの足跡は何ですか? どうして神の目の周りにだけあるんでしょう?」
「あれは【神の使い】として報告されている怪異の物だよ。おみとしさまの一部で、怪異を探す触手のようなものだと考えられている。でも、本当はどうなんだろうね? 今回の事件を見るに……ん、今の段階では不透明だ。言及は避けよう」
「何ですかそれ……」
「それよりも、犯人の足跡を辿ってみよう。あの遺体について、何か分かるかもしれない」
「山に入る道は、あたし達が入った北側の道以外にもあるんですか?」
「うん。僕達が入ったのは北側だけど、もう一つ、西側から続く道があるみたいだ」
逢に聞かれると、四辻は地図を見せた。
https://kakuyomu.jp/users/nihatiroku/news/16818093089513952893
「足跡はこの西側の道に続いてる。西側の道は途中で枝分かれして南の方にも続くみたいだね」
そう言って歩き始めた四辻を、逢は追いかけた。
「三叉路ですか……。あまり縁起のいい場所とは言えませんね。三叉路や辻には魔物が住み着くと言われていますから。この土地なら余計に何か性質の悪い怪異がいそうです」
「そうだね。だから僕は好きだよ」
逢は歩きながら四辻を一瞥したが、足跡を観察する彼は気付いていないようだった。
「
四辻の足が止まり、琥珀の目が足跡から逢に移った。
「あれ。冗談のつもりだったんですけど、本当に?」
四辻は答えず、下を向いてまた歩き始めた。
「当たりですか? ねえ、四辻さん」
「……仮に僕の名前が偽名だったとして、何か問題があるのかな」
「興味深いですよ。普通名前を付けるときって、縁起の良い物から名前を借りてくるじゃないですか。でも神無四辻は真逆です」
「真逆?」
「辻には辻神という魔物が出るのに、守ってくれるはずの道祖神様がいない——って意味に聞こえます。どちらかというと魔寄せですね」
「……それで?」
「四辻さんって、ニックネームを好物の名前にしちゃうタイプでしょ?」
「あぁ。なるほどね」
四辻が笑うのを見て、逢は首を傾げた。
「違うんですか? 名推理だと思ったんですけど」
「いやいや、ごめん。半分当たってるよ。君が言う通り、神無四辻は偽名だよ」
「やっぱり! 本名は何て言うんですか?」
そう口にして、逢は僅かに頭痛を感じて立ち止まった。
頭痛が収まった後に顔を上げれば、四辻が足を止めて逢を見つめていた。
「本名は内緒。それにこの名前、それなりに気に入ってるんだ。覚えてもらいやすいみたいだし」
四辻がまた歩き始めたので、逢は急いで追いかけた。
「神無四辻って、
「そうでもないよ。僕のあだ名、辻神だったし」
「魔物の類だと思われちゃってるじゃないですか……」
「ははっ。実は神無四辻ってね、文字通り——辻神も道祖神もいない四辻——って意味なんだよ。だから、僕にぴったりだと思ってね」
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
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【神無四辻 事象】
当機関が初めて■■を確認した時、■■■は、守り神の■護が及ばぬ辻に顕現し、■■を食らっていた。
その■■たるや凄まじく、中世以前は朝に■■、夜には三百の■■■■を飲■■していたと推測される。
■の凶暴さ■■、■■■辻神と混同され■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
機関が■■■■■怪異の■■■■■■■■■■■■■、■■世に招■■■■■■、召喚■■、■■■■■■■■■■■■■不明。
■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■て捕食■■■■、■■■■■■■隷属す■■■■■■■■■■■。
■■名は【■■】
■■■■■■■■■■■■■■■■。
人の姿■■■■■■、神無四辻を名乗っている。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
(やっぱり、これ四辻さんの正体に関する報告書だ。やっと思い出せた……。でもこれ、誰が何の為に書いたんだっけ?)
(あ……違う)
(≪こんな偽物、思い出しても意味がない。今朝書いたノートはどこ? ページは何で消えたの?≫)
(頭が痛い……)
(あれ……今、何を考えていたんだっけ?)
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