第3章 保護施設の怪異

序 山中の怪異

 10月14日 早朝 北みとし山中


「ウギャアアアア」


 山の中でキノコ狩りをしていた男性は手を止めた。甲高い叫び声が聞こえた気がして辺りを見回すも、紅葉した木々の隙間から朝日が差し込んでいるだけで人影はない。耳を澄ますも、鳥の声すら聞こえない。不気味なほど静かだと思った。


 男性は首を傾げ、視線を地面に戻した。


「ヒイイイイイイ」


「誰かいるのか!?」

 気の所為じゃない。上の方から、確かに悲鳴が聞こえた。


「何かあったのか?」

 声の主は呼びかけに応えなかった。代りに、女性のすすり泣く声が聞こえてきた。


 (こんな山の浅いところで遭難者かい? それとも、熊や猿に襲われたかね)

「おーい! どこだー?」


 不審に思いつつ、山の斜面を登った。声は段々近づいている。


「大丈夫かー?」


 声の主は、やはり彼の問いに答えない。男性は僅かに聞こえる泣き声を頼りに足を進めた。


 斜面を登り終えて辺りを見回し、彼はある一点を見つめた。木々の間に、しめ縄が飾られた石が台座に据えられているのが見えた。その周りにはいくつかの石が積まれている。

「おみとしさま……」

 彼は手を合わせて石を拝んだ。


「うウゥ……」


 呻き声は石が積まれた方から聞こえた。

 着実に近づいている。おそるおそる石の方へと足を進めた。


「ううっウウウゥ」


 足を止めた。呻き声が随分と低い所から聞こえたからだ。


「ウウぅウうゥゥウ」


 積まれた石の後ろから、呻き声は聞こえてくる。

 何故だか冷や汗が流れ出した。額と背中をぐっしょりと濡らしながら、男性は石の後ろを覗き込んだ。


「わああああああ」


 そこには、バラバラになった人間の体が積まれていた。切断された両手の上に乗せられた首が、目を見開いて男性を見上げている。遺体は男性のようだった。しかしその口から、女性の呻き声が聞こえていた。


「ウウウゥゥ」


 遺体の髪が伸び、顔が別人に作り替わった。長い黒髪の間から覗くその顔に、彼は見覚えがあった。

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