日暮逢の捜査ノート みとし村について
手掛かりを忘れないように、今回も捜査ノートを書くことにした。
【任務】
機関の大規模な計画(内容はフィルターに引っかかる為か、教えてもらえない)に備えてK支部で待機。その間K支部の応援もする。
内容が分からない以上、備えようがない……。その時になったら教えてもらえるのかな? 準備は四辻さんに任せきりになっちゃうな。その分、K支部の応援を頑張ろう。
【懸念事項】
① 本部の委員会はあたし達が村に入った時に、何らかの異変が起こるのではないかと予想しているため、村への立ち入りは禁止されている。みとし村で発生中の天井下り事象についても、あたしと四辻さんには捜査権が与えられていない。
② みとし村と計画の詳細が不明。四辻さんは全部読めるらしいけど、あたしはフィルターのせいでほとんど閲覧できない。もしかすると、事が起こるまで知る必要はないと上は考えているのかもしれない。
そこまでしないと防げない危険って何だろう。村には何が隠されているのかな……。とりあえず、あたしがダウンロードした報告書のファイルは、デスクトップのフォルダに移した。
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【日暮逢の捜査フォルダ】
【みとし村】
現在(20×6年)人口80人以下。過疎化が進んでおり、空き家が目立つ。
機関の職員は境界を超える前に、必ず祓いの儀式を済ませること。境界に置かれた神の目には特に注意すること。
また、みとし村とその周辺は霊が発生しやすく溜まりやすいうえ、穢れが多い。村民にはおみとしさまの加護があるが、捜査・調査に携わる職員は各自対策するように。
みとし村周辺 現在
https://kakuyomu.jp/users/nihatiroku/news/16818093089368910016
【みとし村事象の調査動機】
(1939年4月21日)
みとし村付近の町に駐在していた警官の元に、「変な人がいるから何とかしてほしい」と相談が寄せられた。
警官が現場に駆け付けると、道の上に佇んでいる一人の女性を発見した。彼女はボロ布を身に纏い、櫛を通していない長い白髪を風に吹かせるままにして、辻の中央に立っていた。
その異様さに驚きつつ、さらに近づいてよく女性を観察した警官はその顔を見て顔を顰めた。
白髪から老婆かと思われたその女性は、二十代前半位の若い女性だった。皺ひとつない整った顔、しかし口の周りは赤茶色の泥のような物で汚れていた。
警官の顔を見た女性の口角は引き攣るほど上がり、欠けて不揃いな前歯が剥き出しになった。
警官は警戒しつつ、女性に声をかけた。すると、女性は笑みを浮かべたまま歌い出した。
「かこめ かこめ おみとしさまはわらってみてる つじとさかいにめぇおいて わるいこいないかみはってる つぎにとじるのだぁれ」
わらべうたのような物を口にしながら、彼女は野次馬の顔を順に指差していった。そして歌の終わりに指を止めると、
「かーこんだ!」
そう叫んだ彼女は指差した人間に飛び掛かった。彼女を払い除けようとした腕に噛みつき、そのまま肉片を噛りとって飲み込んでしまった。
警官は、そのあまりにも壮絶な光景を呆然と眺めてしまったが、周囲の悲鳴で我に返るとようやく女性を取り押さえた。
しばらくして、女性の家族を名乗る男女が警官の元を訪ねてきた。彼女は精神的な問題を抱えていて、自宅に閉じ込めていたのだが逃げてしまったのだと二人は説明した。警官が二人を女性に引き合わせると、女性はその場で舌を噛み切り、喉を掻き毟って亡くなった。
後日警官から上記の事象が報告され、当支部は調査を開始した。
当支部と警察機関の連携により、事件を起こす前から女性と親交があった町民を発見した。事件のことは知らなかったようで、詳細を説明すると、酷く狼狽した様子だった。彼女とは半年ほど会っていなかったようだが、とても精神に問題を抱えていたようには見えなかったと証言した。
さらに、今回の事件の他にも異常行動をとる人物がいたとの目撃情報を複数確認。町内や山中など、いずれも、みとし村を中心にして目撃されていた。
みとし村周辺 1939年
https://kakuyomu.jp/users/nihatiroku/news/16818093089369081239
これらのことから、人間の精神に影響を及ぼす何かがみとし村にある可能性は高く、一連の現象を【みとし村事象】と命名。調査官の派遣を検討する。
(追記1970年)
1960年以降は異常行動をとる村人は確認されていないことから、原因の封じ込めに成功したと考える。詳細は【みとし村事象についての報告】を参照。
(追記1975年)
異常行動をとる村人が目撃された。囲は水面下で続いている。詳細は【みとし村事象についての報告】を参照。
【みとし村事象についての報告】
閲覧不可。情報部にフィルターの解除を申請してください。
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