フィルター

 【10月14日 ヘリコプター内】

 K支部へ向かうヘリコプターの中、逢は機内モードにしたタブレットである報告書を見て首を傾げた。


「四辻さん、みとし村ってどんな所ですか?」

「簡単に言うと、みとし村とその周辺は霊的なものが生まれやすく、溜まりやすい場所かな。さらに、ある事情から穢れが蓄積されているから、頻繁に調査が行われているんだよ」


 穢れ——死や病を招く不浄な気。悪しき怪異によって媒介され、時に触れた者の正気を奪う。神として祀られる怪異を零落させ、妖怪変化に変質させるとも言われている。


「そんな場所にいる村の神様って、一体どんな慈悲深い怪異なんでしょうか」

 逢がそう言うと、四辻は不思議そうに首を傾げた。


「さっきデータベースから、みとし村の資料をタブレットにダウンロードしてたよね。逢さんの権限で、報告書はどのくらい読める?」


 逢はタブレットに表示されている記録を四辻に見せた。


 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 【みとし村事象についての報告】

 閲覧不可。情報部にフィルターの解除を申請してください。

 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「他の記録は閲覧できたんですが、一番重要な記録がこんな状態になってます。フィルターの下には膨大な量の報告書があるようなので、鏡様が仰っていた計画の詳細もこの中にあるかもしれません……」


「あー、なるほど……」

 四辻が苦笑すると、逢はまた首を傾げた。


「そういうことなら、まだこれ以上僕の口からは教えてあげられないかな。閲覧不可の資料は、情報部がフィルターを解除しない限り、内容を知っちゃいけないことになってるから」


「委員会があたし達の派遣を決定したのに、情報部は何で解除してくれないんでしょう?」


「それだけ閲覧が危険ということだよ。許可が下りるまでは情報が制限されるけど、不自由ないようにサポートするから安心して」


「安心して、って……あれ? 四辻さんはもしかして、全部の報告書を——」


「うん、閲覧できるよ。僕は委員会と交渉して、機関が保管する全ての記録に障害なくアクセスできるようにしてもらったんだ。ただし、対象は正式に登録された記録だけだから、捜査中のものは許可がないと閲覧できないけどね」


「あの石頭の委員会が交渉に応じたんですか!? 四辻さんだけ特別対応されてませんか!?」 

 

 四辻が意味深に微笑むのを見て、逢は口をへの字に曲げた。


「ずるいです! あたしもその権利欲しいです! 四辻さんのバディということで、一緒に観るのはオッケーだったりしませんか?」


「それはどうかな。記録にかけられたフィルターは安全装置みたいなものだからね」


 逢がより不満そうな顔をすると、四辻は困ったように笑ってさらに弁解した。


「フィルターは封印と同じだよ。それを解くということは、封印された未知の怪異を解き放つことと同義と言っても過言じゃない。物によっては、その情報を目にしただけで取り憑かれた事例、気が触れた事例が確認されているんだ。だから決して僕は、君に意地悪がしたくて秘密にしてる訳じゃないんだよ」


「安全の為に、ですよね。でも悔しいですよ……」

「どうして?」


「だって、あたしだけフィルターに阻まれるってことは、あたしの捜査官としての力量が、四辻さんに追いついてないってことですよね。相棒として、肩を並べられないのは悔しいです」


「それは違うよ。君が思っているよりずっと、僕は君を頼りにしているよ。僕は怪異の分析、君は科学的な分析、それぞれの得意分野を担当すればいいだけだよ。だから、ね? 自信を持って」


「でもあたしは……っ」


 逢はまた頭痛を感じて額に手を当てた。忘れている何かを思い出そうとするたび、頭の中に文字が浮かび上がるような気がした。 それはまるで、フィルターがかけられた報告書を読んでいるかのような感覚だった。


 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


 ————閲覧中のページは、フィルターにより保護されています————

 【■■■■ 事象】

 当機関が初めて■■を確認した時、■■■は、守り神の■護が及ばぬ■■顕現し、■■を食らっていた。


 その■■たるや凄まじく、中世以前は朝に■■、■には三百の■■■■を飲■■していたと推測される。


 ■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。


 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■、■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■。 ■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。


 ■■■■【■■】 ■■■■■■■■■■■■■■■■。


 ■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


 「そうだ。あの報告書には続きがあった。でも、あれは……何に関する報告書だったっけ……?」

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