道場開設の案

 シーナが俺が住んでいる村で過ごす事にはなったが、早速住むところ問題にぶつかってしまった。どうしようかと困っていると次の瞬間、シーナは思いついたかのように発言をした。


「師匠!そういえば、この辺りって森や山が多いですけど、その中に湖や川とかってありますか?」

「えっと、確かあったとは思うが、ただ、飲み水は村にある井戸水じゃないと腹を壊すぞ」

「大丈夫です、エルフは元々森で暮らしていますから、狩りと水浴びさえできればとりあえずは安心です」

「そうなのか、すまないな、報酬次第じゃあどうにかして村内でもシーナが過ごせる家を建てられりゃあいいんだが」


 いくら森住まいに慣れているとはとはいえ、シーナだけを森で過ごさせるのはさすがに気が引けるし、俺に剣を教わる為にいちいち、森からここに来るのも手間だろうしな。


「あの、師匠、その報酬はどうしてもお金じゃないとダメなのでしょうか?」

「ん?どういう事だ?」

「ああ、いえ、少し思いついたんですけど、師匠が剣術道場をこの村で開きたいとおっしゃればそれを容認されないですかね?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!さっきも言ったけど、俺は目立ちたくないって言っただろう!道場を開いたら俺の存在が知れ渡ってしまう」


 道場を開くか、確かにシーナを弟子にした以上、それもありかもしれないが、俺の名前が出る以上、マルスはともかく冒険者時代の俺を知る奴がここに来るかもしれないしな、そこから育った村まで話が波及するのは嫌だな。


「別に名前を出さなくてもいいのでは」

「え?」

「単に剣術道場があるってだけですし、村の名前をお借りしてもいいのでは?」

「そ、それでいいのか?」

「わしらは構わんぜ、どうせ剣術道場なんて1つしか作らんだろうし」

「そうそう、なんか名所もあればと思っていたし、ドラゴン退治に一役買った奴が剣術道場をやっているなんて評判だろうし」


 シーナや村人の発言を聞いてしばらく考えてみたが、この村にも名所は1つはあった方がいいだろうし、それにドラゴンを倒したくらいなら改めて剣術を学びに来る冒険者はいないだろうし、ここまでギルドの街から来るだけで長距離移動だしな。


 俺の名前が前面にでなければいいかな。


「分かった、まあ、それは許可がでればの話だけどな」

「はい、ありがとうございます」


 そう言ってシーナは森へと向かっていった。待ってろよ、道場かどうかはともかく屋根のある部屋で過ごせるようにはしてやるからな。


 翌日、昼頃、シーナが俺を呼ぶ声がしたので反応するとその事実に俺は驚いた。


「あ、師匠、おはようございますってもう昼ですね」

「し、シーナ、なんだその様々な生き物は……」

「ああ、森や川で獲れた獲物です、せっかくなので師匠や村の人にもおすそ分けです」


 どこかで荷車を借りたんだろうが、それにしてもすごい狩りの力だ。やっぱりこいつ森で過ごした方が良くないか?

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