第26話 巫女とその上の巫女と・・・

 「ここが私の住む集落です」


 日が少し明るくなった頃にシャーリーの案内で雪山を登っていった。

 目的の場所が知らないのと知ってるのでは気の持ち用が大分違う。

 歩き始めてから、2時間ほどで彼女の住む集落へと辿り着いた。


 集落と言っても、他の集落にありそうな塀や囲いといったものはない。

 これだけ標高の高い場所にそうそう来るような物好きはいないだろう。


 ——その物好きはここにいるのだけれども。


 「巫女様! 心配しましたぞ!」


 俺とシャーリーに気づいた集落の人が大声を上げてこちらへやってきた。

 それに釣られるように大勢の人たちも一緒に。


 「魂の解放であれば声をかけてくれれば……!」

 「夜中でも巫女様がお声をかけてくだされば……!」


 次々とシャーリーに声をかけていく集落の人たち。

 で、その視線はその隣にいる俺の方へ。

 どうみても、迎え入れてくれるような歓迎の眼差しではない……。

 言い方を選ばなければ疑いの眼差し。


 「巫女様、この者は一体……?」


 近寄ってきた1人がシャーリーに尋ねると、彼女は表情を変えることなく命を恩人だと答える。


 「命の恩人ですと……つまりは命を狙われるようなことが!?」


 1人が叫ぶと周りもざわめき出していく。


 「一体誰が巫女様の命を狙っているのだ!」

 「もしかしたら、この男が裏で誰かを操って……!」


 さらに騒つく集落の人たち。

 

 「一体何事ですか?」


 どうやって収拾をつけるのか困惑していると、遠くから声が聞こえてきた。

 それを聞いた集落の人たちは静まり返っていく。


 「お、お母様……!」


 こちらへやってくる姿を見て、シャーリーが声を上げる。

 俺も彼女と同じ方へ視線を向けると、シャーリーと同じような銀色の髪をした初老の女性と手を繋いな小さな子供の姿。


 初老の女性は立ち止まると、集まってきた人々をじっと見ていた。


 「大巫女様……実はこの男が……巫女様を誑かそうと!」


 笛を震わせながら1人が答えると、大巫女様と呼ばれた初老の女性はシャーリーを見ていた。


 「シャーリー、本当なのですか?」

 「いえ、違います! この方はモンスターに襲われていた私を助けれくれた命の恩人なんです!」

 

 シャーリーの言葉を聞いた初老の女性は一息ついてと、集まってきた集落の人たちを見ていた。


 「我が娘を守りたい気持ちはわかりますが、まずはきちんと状況を把握しなければ無益な争いが起こります、くれぐれも注意するように」


 そう告げた初老の女性はシャーリーの方へ向く。


 「シャーリー、魂の解放を大事にするのはわかりますが、あなたも守るべき人がいることを自覚するように」


 女性の言葉にシャーリーは隣の子へと視線を向ける。

 小さな女の子はシャーリーを見ると微笑んでいたが、俺が見ていることに気づくと初老の女性の後ろに隠れてしまう。

 

 「……この子は?」

 「私の娘で、クレアって言うんですよ!」


 シャーリーが紹介するとクレアと呼ばれた女の子はひょっこりと顔を出してこちらを見ていた。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「この度は娘を助けていただき、ありがとうございます」


 シャーリーの家に案内された俺は大巫女様と言われていたシャーリーの母親が俺の前で頭を下げていた。たしか名前はイヴと名乗っていた。


 「いえ……大したことはしていませんので、どうか頭をあげてください」


 俺はイヴに頭を上げるように促す。


 「そういえば、シグナスさんは何故このようなところへ?」


 頭を上げたイヴはシャーリーと同じような質問をしてきた。

 親子揃って同じようなことを聞くってことはここを訪れる人はいないのだろうか。

 イヴに対してもシャーリーと同じことを答えるのだが。

 

 「何もないところですし、大したおもてなしはできませんが……心ゆくまで是非お過ごしくださいませ」

 「……ありがとうございます」


 必要なことを伝えたイヴはその場から出て行こうとしていた。


 「あ、そうだ」


 出ようとする直前で立ち止まるイヴ。

 すぐにくるりとこちらへと振り向くと何か思いついたかのような表情を浮かべていた。


 「旅人であれば、頂きまで行ってみてはどうでしょうか? 滅多にみることのない景色が見れると思いますので」


 それだけ告げるとイヴはその場から去っていった。


 「お母様があそこのことを言うなんて、シグナスさん気に入られたのかもしれませんね?」

 「……そうなんです?」


 表情を見る限り、そう思われてはない気がするが……。

 親子だからわかるのかもしれないな。


 「よかったら、行ってみますか? 私でよければご案内しますよ!」


 満面な笑顔のシャーリーに対して……

 ムスッとした顔でシャーリーの後ろで俺をじっと見るクレア。

 見るというか睨まれてると言った方が正解かもしれない。


 他に行くところもなかったので、その頂きに行くことにした。


 「……おそらくそこが俺の目的の場所かもしれないしな」


 そう呟きながら俺はコートの奥に隠していた一枚の用紙を手にしていた。


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