第25話 彼女による介抱と解放
「目が覚めましたか?」
目の前には黒いローブ姿に腰のあたりまで伸びた銀色の髪の女性。
来ているローブとはほぼ対色だからだろうか、輝いているようにも見えていた。
「俺は一体どうして……」
頭部を通じて伝わってくる柔らかい感触。
しかも何故か彼女はこちらを見下ろすように見ている。
その謎に気づくのにそこまで時間はかからなかった。
「す、すまない……!」
すぐに起きあがろうとするも、彼女に押さえつけられてしまう。
「疲れているのですからご無理なさらないでください、命を助けてくれた方にこんなことしかできないのは心苦しいですが」
申し訳なさそうに答える女性。
女性の話では襲ってきたモンスターを倒したのはいいが、一緒に倒れてしまったようだ。
昨日はほぼ1日食べてもなければ休んでいなかったのが原因のようだ。
「申し遅れましたが、私、シャーリーって言います。 もしよろしければお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
ニッコリと微笑むシャーリー。
「……シグナスです」
言おうかどうか考えた末によく使っている偽名を使うことにした。
ある程度名の知れた騎士団の団長ともなると、本名を知られることで行動しづらくなることがあるためよほどのことがなければこちらの名前を名乗るようにしている。
騎士団の団員でも俺の本名よりも、こちらの偽名のほうが浸透している。
「シグナスさんは何故こちらへ?」
まるで子供をあやすように俺の頭を撫でていくシャーリー。
いつもなら相手の手を振り払うところだが、疲れているのもあってか素直に受け入れることにした。
「……気の向くままに旅をしていて、気がつけばここにいました」
もちろん任務であることや自分の立場を言えることもなく、誤魔化すことに。
——後々思い出してみると、もう少し上手い誤魔化し方をできなかったのか思う。
だが、彼女は俺を疑いもなくまっすぐな目で見ていた。
「シグナスさんは旅人さんなんですね!」
「……そんなところですね」
誤魔化すことができたことにホッと安堵の息をついていた。
「私、この地でずっと過ごしてきたのでここ以外のことを全く知らないんです」
「……この地ってことは集落などがあるのですか?」
「はい! このレコルセ山を登って行った先に私たち『ネクロマンサー』の集落があるんです」
「……ネクロマンサー」
おそらく、俺の目的地はそこになるのだろう。
異教徒たちが集まる場所と聞いていたので、交戦することも視野に入れていたが、彼女を見ているとそんな風には全く見えない。
「集落があるのに、何故こんな夜に……しかもモンスターから襲われることに?」
「この子の魂を解放するためにです」
そう言って彼女が取り出したのは黒い猫の人形だった。
作られてから時間が経っているのか、糸のほつれが見られる。
一見、普通の人形に見えるが……俺の顔目掛けて飛びかかってきた。
「う、うわっ!?」
俺は驚いて体を起こした。
飛びかかってきた方も驚いたのか、一目散にシャーリーの肩へと登っていく。
「こらこら、ダメでしょ」
シャーリーは自身の肩に乗った人形の頭を撫でていく。
人形はまるで本物のようにゴロゴロと喉を鳴らしていた。
「……それは一体」
「これは魂を一時的に格納できる人形なんですよ」
「魂を格納……?」
シャーリーの話ではこの山道に迷ったか、もしくは親猫に捨てられた小動物の魂が格納されていると話していた。
「ずっと格納できるわけではなく、できても2日が限界なんですよ、この子も時期に……」
シャーリーが話しているうちに黒い人形が淡い光を帯び始めていた。
黒い人形を膝の上に乗せると、再び頭を撫でていく。
「これでお別れね……次に生を受けた時は天寿を全うしてね」
彼女がそう告げると、人形を帯びていた淡い光がゆっくりと消えていった。
まるで魂が天に昇っていくかのように……。
そして、先ほどまで動いていた黒い人形はパタリと倒れていった。
まるで夢をみているような気分だった。
「ここはあの子が指定した場所なんですよ、もしかしたら元々この辺りに住んでいたのかもしれませんね」
微笑みながらシャーリーは倒れた人形を拾う。
先ほどの子猫の魂の願いを聞くためにこの場へ向かったのはいいが、運が悪くモンスターに遭遇してしまったようだ。
だが、そんなことよりも俺は彼女の力に驚きを隠せなかった。
「これはあなたの……?」
「はい! ネクロマンサーに代々伝わる能力ですよ」
シャーリーが話すにはネクロマンサーの力は未練を残した魂を穏やかな気持ちのまま天に返すものだと話していた。
未練を残した魂は彷徨い続ければ悪霊となり、人に危害を及ぼすようになるからだと。
「そして、次の生では最後まで天寿を全うすることを願うんです!」
そう言ってシャーリーは手を合わせて天を仰ぐ。
先ほど天に昇っていった子猫のために祈っているのだろうか。
そうしているうちに、うっすらと空が明るくなっていった。
「明るくなってきたからもう大丈夫ですね」
そう告げたシャーリーは立ち上がり俺の顔を見る。
「助けてくれたお礼にシグナスさんを私たちの集落にご案内します」
彼女は曇りのない笑顔でそう告げた。
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【あとがき】
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