第24話 彼女との出会い

 「さすが北の大陸だけあって冷え込みがすごいな……」


 定期船を降りて真っ先に感じたのは極寒の寒さだった。

 中央都市もそれなりに寒かったが、あちらの方がまだ生温く感じるほどの寒さだ。


 「……さてと、目的地は」


 渡された地図を広げ場所を確認すると目的地はここから更に北上した場所に記されていた。

 

 「ということは、あそこを目指すということなのか……」


 顔を見上げた先には聳え立つ大きな山が目に入った。

 頂上だと思える場所は真っ白に染まっている。


 「楽な任務なんかあるわけないよな」


 そう呟きながら歩き出して行った。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「……パ?」


 どこからか、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

 そういえばたしか寒空の中を歩いていたはずなのに突然当たりは真っ暗に……?


 「パパ……!」


 聞き覚えのある声がしたと思ったら一気に視界が晴れ……

 クレアの顔が映し出された。


 「うわっ……!? ってクレアか、どうしたんだ?」


 「……何度呼んでも起きないから心配したんだよ、それよりご飯できたよ」


 クレアはお盆にのせたスープを持ってきた。

 湯気と一体化したミルク独特の甘い匂いが鼻の中を通り過ぎていく。


 「あぁ、ありがとう」


 体を起こし、お盆を受け取ろうとするが……。


 「私がするからパパは横になってて」

 「……いやさすがにそれはちょっと」


 なんとか拒否するもまったくもって聞いてくれるそぶりを見せてくれなかった。

 その間にもクレアは木製のスプーンで何度かかき混ぜてから、スプーンで掬い、「ふー、ふー」と息を吹きかけていく。

 

 「はい、どうぞ」


 スプーンを差し出すクレア。

 恥ずかしいと思いながらも口を開けてスプーンを加えていく。

 ミルクの中にカボチャも入っていたようでミルクの甘味とカボチャのコクが合わさり、口の中に広がっていく。

 ……夢で、極寒の中を歩いていたからこういった暖かいものを欲していたのかもしれない。


 「さすがに、ずっとさせるのは悪いから後は自分で——」

 「今日は休んでなきゃダメ……!」


 クレアは小動物のように頬を膨らませて怒っていた。

 気持ちはありがたいが、いい年したオッサンが若い子にこんなことをしてもらうのは気が引けてしまう。

 何とかして自分で食べれること言おうと思ったが、クレアは俺に食器を渡そうとはしなかった。


 「……ごちそうさまでした」


 結局は皿の底が見えるまで彼女の手で平らげることに。


 「お腹いっぱいになった?」

 「そうだな……」


 お腹もいっぱいになったし、スープの効果か、恥ずかしさからなのかわからないけど、ものすごく体が熱くなってきてるよ……。


 「お皿戻してきたらお薬もってくるから」


 そう言ってお盆を両手で持って部屋から出て行くクレア。

 彼女が出て行ったのを見てから再び体を落とした。


 「……誰かにご飯を食べさせてもらうなんていつぶりだ?」


 天井を見つめながら古い記憶を呼び起こしていた。


 「……そっか、既視感があると思ったらあの時か」


 やっぱりクレアはシャーリーの子供なんだなと改めて実感しながら俺は再び夢の中へと旅立って行った。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「雪が深くなってきたな……」


 港から歩き続けてからどれくらい経っただろうか。

 着いた時は明るかった空も少しずつ赤く染まりつつあった。

 日が完全に暮れるまでは進んで、その後は適当に野宿をすればいいと思っていた。

 火は魔法でどうにかなるし、食料は最悪、野生動物に協力してもらうしかない。

 ——あまりしたくないが。


 先ほど見上げた山の入り口らしき道まで辿り着いたが、空は暗闇に包まれていた。

 さすがにこれ以上進むのは危険だろう。

 

 「さてと、隠れそうなところを探すか……」


 入り口から少し進んだところに大きな大木を発見した。

 これだけ大きければ背中を預けることもできそうだ。

 辺りにある枯葉や枝などを探してから魔法でそれらに火をつける。


 「……夜明けまで休めればいいか」


 大木に背中を合わせた瞬間、一気に眠気が襲いかかってきた。

 考えてみたら出発してからほとんど休んでないことに気づく。

 そんなことを考えているうちに俺は眠りにつく——

 

 「きゃああああああ!!!」


 俺の睡眠は突如聞こえてきた叫び声によって吹き飛ばされてしまう。


 周囲を見渡し、声の発生源を探る。

 そして、目の前でガサゴソと音がしたと瞬間。


 「た、助けてください……!」


 一人の女性が飛び出してきた。

 勢いは止まることなく俺の体にぶつかってしまう。


 「……ど、どうしたんですか?」

 「も、モンスターが!!」


 女性がそう言った直後に巨大な体躯がこちらへと姿を見せた。


 「キラーベアーか……」


 茶色の剛毛に両手には鋭い爪。

 その爪は人間の体なら簡単に引き裂けるとも言われている獰猛なモンスターだ。

 こちらを見るなり、口元に大量の涎が流れ出していた。

 どうやら冬支度の準備中のようで腹ペコのようだ。


 「すみません……俺の後ろへ」


 女性をすぐに俺の後ろへ移動させてから、腰に下げた剣を引き抜いた。


 「……悪いな、俺はまだお前のエサになるつもりはないんだ」


 相手に伝わるかどうかわからないが、そんなことを口にしながら、瞬時にキラーベアーの懐に入る。

 キラーベアーは若干驚く様子を見せていたが、怯むことなく鋭い爪を振り落とすが、俺の剣がそれよりも早く両断していく。


 体を真っ二つにされたキラーベアーは断末魔の声を上げる間もなく倒れていった。

 それと同時に俺も倒れてしまう。


 ——この時は理由はわからなかったが、後々、睡眠も食事もろくにとってないことに気づくのであった。


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