第23話 あの時の君に姿重ねて

 「ごほっ!ごっほ!」

 「……パパ大丈夫?」


 昨晩、やけに体が震えるなと思っていたら見事に体調を崩していた。

 今朝から頭痛や咳こみに襲われ、ずっとベッドから出れずにいる。


 「大丈夫だ、それよりも移るといけないから離れてなさい」


 朝からずっとクレアが看病してくれていた。

 彼女の話では朝の礼拝はカレンとリリアが何とか執り行ってくれたようだ。


 「2人は今どうしてる?」

 「リリアさんはパパのご飯作ってて、カレンさんはお薬買いに行ってる」

 「そうか……」


 カレンに関しては心配というか、鍛錬の時間を削らせてしまって申し訳ないという気持ちがあるが、リリアに関しては料理をするイメージがないので大丈夫なのかといういろんな感情が混ざりあった結果そう答えることしかできなかった。


 「……私もその1人だけど、ここ最近のパパ、いろんな人を助けてきたから疲れちゃったんだと思うよ」

 

 クレアは氷水に浸したタオルを絞りながら話していた。

 この寒い季節に我慢して触れているクレアに申し訳なく感じてしまう。


 「クレア、それぐらいなら自分でできるから、やらなくても——」

 「——大丈夫、パパは寝てなきゃダメ」


 いつも和かなクレアが珍しく怒った表情を見せていた。


 「……どんな人でも助けてあげることはとてもいいことだけど」

 「仕方ないさ、それが牧師としての役目だからな」


 そう、牧師の俺の役目は迷った人を助けること。

 それが俺がすることのできる、人を救うことだと思っている。


 ——一番救ってあげなきゃいけないのは自分


 突然聞こえてきた言葉に俺は体を起こす


 「……どうしたの?」

 

 ちょうど絞ったタオルを俺の額に置こうとしていたからだろうか。

 ハッとしている俺を見て、クレアは目を大きくあけていた。


 「いや……何でもない」


 そう答えた俺は体を倒すと額にひんやりとした感触が伝わってきた。


 「ありがとう」


 俺は布団から手を伸ばして頭を撫でるとクレアはにっこりと微笑んでいた。


 「……ご飯できたら持ってくるから、それまで寝てなきゃダメだよ?」

 「わかった……」


 まるで母親のようなことを言ってクレアは部屋から出て行った。


 「……何でシャーリーの声が聞こえたんだ」


 もしかしたら、風邪で脳が正常に動いてないくて幻聴が聞こえたのかもしれないな。

 幻聴じゃなければ、シャーリーの娘であるクレアが目の前にいたから、錯覚を起こしたか……。


 「早く治すために今は寝ておくか……」


 そう独りごちてから俺はそのまま目を閉じていく。

 熱もあったからか、すんなり夢の中へといくことができていた。


 夢というのは人の心の中を覗き込むのだろうか……。

 たしかにあの時も、今と似たような状況だったなと突如記憶が蘇る。


 そう、司教の命により単独で任務を遂行していた時だった。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「……寒いな」


 ブーマー司教からの命を受け、俺は中央都市から遠く離れた大陸の奥地まで単独で向かうことになった。

 いつもなら朝を待つところだったが、至急ということもあり受けたその日の夜に出発した。

 このまま街道沿いを歩き続ければ、朝には港町に着き、定期船に乗ることができるはずだ。


 「誰だ見た目が弱そうとかいったやつは! めちゃくちゃつえーじゃねーか!」

 「全員ずらかれ!!!」


 その途中で、この辺りを彷徨く野盗に遭遇するが、難なく撃退。

 夜もだいぶ更けているからだろうか、1人で隠れる場所もない街道を歩いていれば狙ってくれと言ってるようなものだなと思いつつも……


 「俺ってそこまで弱そうに見えるのか……?」


 逃げ惑う野盗たちの言葉が引っかかってしまう。

 騎士団の団長にもなったが、威厳とかがなさすぎなんだろうか……。

 

 「何とか間に合ったようだな」


 最初の目的地である港町に着いた時は宵闇に包まれていた空が薄っすらと明るくなっていた。

 場所が港ということもあってか、海産生物の捕獲目的や定期船に乗るための人たちの姿があった。

 そのためか、港へと続く道々には露天が立ち並んでいた。

 中には食欲を刺激する匂いによる誘惑もあったが、定期船に乗り遅れるわけにはいかないためグッと耐え抜いて港へと急いだ。


 「なんとか間に合ったな……」


 港へ辿り着き、北の大陸へ向かう定期船を発見して乗り込んでいく。

 ある程度の人数を乗せることができる大きな船ではあったが、落ち着けるところは広い一角のみ。

 ある程度のお金をだせば個室に入れるようだが、そこまで持ち合わせがないため断念。

 夜通し歩いていたためか、腰掛けると一気に眠気に襲われ、ウトウトとしてしまう。


 長い間、戦うことしかできなかった人間が心を落ち着かせて休むなどできるはずない。

 そのおかげもあってか……


 「い、いでえええええ! わ、わかったゆるしてくれぇぇぇぇ!!!」


 この一角で盗みを働くコソ泥から何の被害をも合わずに住むことができた。


 「ありがとうございます! お金がなくなった時は生きてる心地がしなくて……!」


 コソ泥を捕まえたことで、周りから称賛されてしまい余計に休むことができなくなってしまう。

 そんなこともありながらも定期便は目指していた北の大陸に到着し、俺は船を降りたのだった。


 ——結局、ろくに体を休めることもできないまま。


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【あとがき】

お読みいただき誠にありがとうございます。


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受賞目指して頑張りますのでこれからどうぞ、宜しくお願いいたします!

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