第18話 リリアの家と騎士団
「……なるほど、ビューエル家の令嬢だったのか」
ローブの男からの襲撃のあと、俺はカレン、クレア、そしてリリアと一緒に教会の中へと戻った。
そこでリリアから事情を聞いていったところ、彼女はビューエル家の人間で、本名はアプリリア・ビューエルだと名乗った。
ビューエル家は大聖堂がある中央大陸でも、上流の貴族の1つだ。
長い間、大聖堂に多額の金を寄付しているため、大聖堂のみならず教会にも顔が利くと言われている。
「それにしても、ビューエル家の人間が家を出るようなことを?」
よほどの理由がなければ外に出ることなど簡単なことだろう。
たしかビューエル家は色々な場所に別荘地を持っていると言われているので泊まる場所に困ることはないはずだ。
「……先生にはわからないとは思うから、2人に質問になるけど」
そう言ってリリアはカレンとクレアを見ていた。
突如呼ばれたためか、2人はキョトンとした顔をしている。
「お金や住む場所とか着るものに困らないけど、自由がないのと貧困だけど自由はある……どっちがいい?」
俺に向けられた質問ではないが、一緒になって考えてみた。
家柄や今の現状から察するにリリアは自由を取ったのだろう。
「私も自由をとりますね」
答えたのはカレンだった。
たしかに彼女の今を考えるとそう答えるだろう。
「……うーん」
クレアはずっと悩んでいるようだった。
悩むというか、これまでの生活から想像がつかないと言った方が的確かもしれないな。
「……ビューエル家なら両方手に入れることも可能だとおもうが、思い違いなのか?」
曲解しているとは思うが、地位やお金があれば自由も手に入るのではないかとは思う。
それはビューエル家だけに限らず、ある程度の貴族であれば可能ではないかと。
「それは先生が男だからだよ、女が家の地位や財産を持ち続けるにはどうしたらいいと思う?」
リリアからの質問に頭を悩ませてみるが、納得いく答えが出てこなかった。
「……結婚ですか?」
その横でカレンが答えるとリリアは「ピンポーン」と軽快な口どりで答えていた。
「運が悪いことにビューエル家の正式な子供は女である私1人だけなんだよね」
正妻……つまりはリリアの母親は彼女を産んだ後に病気で亡くなったようだ。
跡取りを作るために側室を集めたようだが、自分が望むものを授かることはできなかったようだと話す。
「で、考えたのが婿をとることだったわけ。 それも私のことを考えた上での婿なら仕方ないかと思うんだけどさ……」
リリアは大きくため息をついていた。
「あの親父、自分の今の地位を保つために私を利用としようとしてたんだよ!」
声を荒げるリリア。
それを見ていたクレアが大きく目を開けて驚いていた。
「……一体何をしようとしてたんだ?」
「アグスタ騎士団の団長を婿にしようとしてた」
リリアから飛び出た言葉に俺は心臓が跳ね上がる感覚がしていた。
それと同時にカレンが俺の顔を見ていた。
騎士団は正式には『修道騎士団』と呼ばれ、大聖堂によって設立された戦うことが許された聖職者のことだ。
目的としては大聖堂の守護や今はほとんどないが、異教徒の弾圧などがあげられる。
リリアのいうアグスタ騎士団はその中でも最強と謳われ続けている騎士団だ。
「設立当初の団長さんは強いけど、優しさとか教養とか品があったみたいだから、その人だったらよかったけどさ、今の団長は人間としても見れないぐらい愚の骨頂とも言えるぐらいひどい!」
リリアは声を荒げながら答えていった。
「親父に言われて仕方なく顔合わせたら、挨拶の前に私の体を舐め回すように見たんだから、うわぁ……思い出すだけでも鳥肌が立つ」
絶望と言わんばかりの表情で体を震わせるリリア。
「さすがにそこまで酷い相手なら断ることもできるのではないですか? 貴族の家に入るのであれば一定以上の品格は求められるのでは?」
カレンの言う通り、普通の家と違って貴族は力もそうだが、品格や知性などを重んじる家が多い。
ましてや大聖堂に顔を利かせるのであれば尚更のことだが。
「さすがの私もそう思って、親父に言ったよ、けれど返ってきたのは……」
——この縁談を断れば司教に顔を泥を塗ることになる、そうなればこれまで築いてきた地位や名誉は全て消え失せてしまう
「……だってさ」
リリアは肩をすくめながら答える。
「司教か……アグスタ騎士団はたしかブーマー司教の管轄だったか」
司教というのは大聖堂の中でもトップに立つ存在のことだ。
一番のトップは法王だが、その次の地位に立っている。
また、騎士団の管轄を司教が行なっており、司教の思想や目的によって騎士団の活動も変わってくる。
ビューエル家は長い間、ブーマー司教に目をかけられてから大聖堂でも顔が利くようになったようだ。
言い方は悪いが、パトロンに近い扱いだ。
——あまり大きな声ではいえないが、ブーマー司教はお金に汚いとも言われている。
そんなこと口にすればどうなるか、考えただけで身震いがしてくる。
「そんなこともあって家を出たってわけ」
リリアはそう言って話を締め括った。
「……それはいいが、これからどうするんだ?」
家を出ることは本人の自由なので追求することはないのだが、先ほどのような人物に目をつけられてるのであれば、危険が伴う。
「話しながら考えたんだけどさ」
リリアは妙案だと言わんばかりに嬉々とし顔で俺の顔を見ていた。
「この教会で働きながら住ませてもらうってのはどう?」
彼女の案に俺の思考回路は停止しかけていた。
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