第17話 彼女の秘密

 「やっとみつけましたよ……」


 黒いオーブ姿の人物に声をかけられたリリアは強張った表情のまま相手を睨みつけていた。

 体も少しばかり震えている気も……


 「それでは私と一緒に戻ってもらいますよ、アプリリア様」

 「その名前を呼ぶな!!! もう私はビューエル家とは関係ない!」


 ビューエル家……?

 もしかして彼女は——


 「我儘を言われては困りますねぇ……貴方様を連れて帰らないと私がご主人にお咎めを受けてしまいます」

 「そんな私が知ったことか……! あんな……金とか権利のために家族すら売る家なんか……!」


 体を振るわせて精一杯叫ぶリリアに対してローブの人物は盛大なため息をついていた。


 「仕方ないですね……手荒な真似はしたくなかったんですが」


 男は、ローブの中からこちらへと手を向ける。

 その直後、男の手にドス黒いものが集まりだしていく。

 集まっているのは魔力だが、それにしてもこの黒さは……。

 

 「それでは失礼いたしますよ……!」


 男がそう告げると、集まりだしたドス黒い魔力が手のような形になり、リリア目掛けてくる。


 「……ウインドウォール!」


 リリアの目の前に風の障壁を発生させる。

 障壁にぶつかった黒い手のようなものは音をたてることなく消滅していった。


 「どなたか存じませんが、邪魔をしないでいただけますか?」

 

 ローブの人物は俺を見て淡々とした口調で告げる。


 「……今の魔法、彼女に当たればどうなるかわかっているのか!」


 ローブの人物が放った魔法は手のようなもので相手を握りしめるものだ。

 相手の魔力の影響もあるが、強いほどそのまま相手を握りつぶすことも可能だ。


 ——それにこの魔法は誰にでも扱えるものではない。


 「ほう……どうやら魔法に関して博識でいらっしゃる、その博識があなたの命を落とすことになりますよ!」


 男は俺へ向けて手を伸ばすと先ほどと同じように魔力を集め、手の形へと変えていく。

 1つだけではなく3つ。


 「邪魔するものは消せと言われていますので、容赦無くやらせていただきますよッ!!!」


 勝ち誇ったような大声をあげると、3つのドス黒い手が地面を這って俺の方へと向かってくる。


 「ライトニングフィールド」


 自分の周りに雷を発生させる。

 数は違えど、同じ攻撃のためウインドウォールを使えばいいのだが、リリアに攻撃が行く可能性も考えられたのでそのままにしている。

 そのため自分の周りには魔力の消費が低いライトニングフィールドを使うことにした。

 普段以上に魔力を消費するのだが、誰かが傷つくよりもマシだ。

 

 俺の周りを流れている雷に触れたドス黒いてはバチっと音を立てて消滅していった。


 「ほう……複数の属性魔法を扱えるとは中々の逸材のようですね。だが、これは防げますかね!」


 そう言ってローブの人物は両手を前をこちらに向けると、手の周りに小さな穴が現れた。


 「ダークワームよ喰らい尽くせ!」


 男の掛け声と共に小さな穴が球体へと変わり、今にもこちらへ飛びかかろうとしていた。


 「先生ッ!!」


 俺を呼ぶ声がすると同時に目の前に立っていたローブの人物が体を曲げて吹き飛んでいく。

 目の前には木剣を振り上げるカレンの姿が。

 

 「ぐはっ!?」


 悶え声をあげながら倒れるローブの人物。


 「大丈夫ですか!」


 カレンはすぐに俺のそばへとやってこようとしていた。


 「ちょっとまて……! 魔法を解くから」


 自分の周りに発生していた雷の魔法を停止させる。


 「大丈夫だ……」

 「つまりは先生に抱きついてもいいってことですね?」

 「一言も言ってないぞ」


 俺の言葉にカレンは不満を顔に出していた。

 さっきまでは気を張り詰めていたのに、この子との会話で一気に緩んでいった。


 「それにしても何が起きてたんですか!? 買い物から帰ってきたら変な人がいますし……」

 

 そう言ってカレンは倒れているローブの人物を指さしていた。


 「まさかとは思うが、変な人ってだけで攻撃したのか?」

 「そうですね、何となくですが、禍々しい感じもしたので……」


 まあ、相手の持つ気迫などに気づいた上でとった行動ならいいんだけど……。

 結果的には助かったわけだし。


 「それよりクレアはどうした?」

 「急いできたから……ってあそこにいますよ」


 カレンが指差した先にはクレアがこちらへ向かっていた。

 

 「それにしても誰なんですか……この人は?」

 「俺もさっぱりだ……彼女の知り合いのようだが」


 そう言って俺はリリアを見る。

 よほど怖かったのか、しゃがみ込んだまま体を震わせていた。


 「よくも……邪魔してくれたな……」


 突如ローブの人物が声を上げるが、カレンから受けた攻撃が残っているのか、苦しそうな声をあげている。


 「我々の邪魔をしたものは……ただで済むとおもうな……! 仲間が……必ず!」


 苦しそうな声で告げると、ローブがペタリと地面に張り付く。

 まるで、覆っていたものが最初からそこになかったかのように……


 「せ、先生……!?」


 それを見ていたカレンが驚きの声をあげていた。

 

 「……とりあえず、教会の中に戻ろう。 話を聞いて整理もしないしな」


 そう言って俺は蹲るリリアへと視線を向けた。


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