第16話 リリアを狙う影

 「いいですか先生、牧師というのは神のお言葉を周りの人たちに伝えるのが役目であって……!」


 あれからすぐにカレンの気迫におされてしまい、引きずられるように教会の中へと連れてこられ、礼拝堂で彼女の説教を受ける羽目に。

 ものすごくカレンが大きく見えて仕方がない。

 ちなみにリリアはどさくさに紛れて中に入り、中を見渡していた。


 「周りの人たちに聞いてもらうには信頼を得る必要があります! 先生の人柄もあってか怠け癖や酒癖の悪さがあってもなんとかなっていましたが、女癖が悪いなんて噂が広まったら——」

 「ちょっと待ってくれ……怠け癖と酒癖の悪さは百歩譲って納得はするが、女癖の悪さってどういうことだ!?」


 怠け癖に関しては常日頃からカレンに言われ続けてるもあるし、本来真面目ではないことは自覚している。

 お酒は飲むにしてもほどほどだし、飲まなきゃ体が震えたり精神的に不安になったりなどの症状もない。

 余談ではあるが、牧師の飲酒は禁止されていない。泥酔など醜態をさらけ出すようなことをしない程度だが。


 「じゃあ、先生の後ろに立っている方に関してはどう説明するんですか! 昼間ならわかりますが、こんな夜中に女性と一緒にいるなんて!」

 「ちょっと落ち着けカレン、彼女とはそんな淫らな関係とかじゃなくて……!」

 

 興奮しているカレンを宥める俺を見て、後ろにいたリリアが突如笑い出す。

 俺とカレンはすぐに彼女のいる方へ振り返る。

 カレンは鋭い視線だったが……。


 「教会にいる連中ってのは世間知らずっていうか、夜中に女が歩いてたら遊女扱いするなんてそれって一種の差別だとおもうけど? 聖書にもどんな人でも差別しちゃいけないって書いてたような気がしたけど?」

 「差別などしていません、事実を述べたばかりです! きちんとした女性なら常に心に決めた人と常に——」

 「カレン、少しは落ち着け」

 「何で落ち着く必要があるんですか!」

 「剣の道を志そうとしている者がそう簡単に冷静さを失えば周りが見えなくなると教えたはずだ」


 俺の言葉にカレンはハッとした表情になり、大きく息を吸い込んでからゆっくりと吐き出していった。


 「……落ち着いたか?」

 「はい、落ち着きました」


 カレンが落ち着きを取り戻したことで、事の流れをかい摘みながら説明していく。

 

 「なるほど、行く宛もお金もないので、一晩だけでいいから泊めさせてほしいと」

 「一応立場上放っておくこともできないからな」

 

 そう答えるとカレンはため息をついていた。


 「だから先生は優しすぎなんです……」


 その後小声で呟いていたが、俺の耳にまで届くことはなかった。


 「先生が許可をだしたのならこれ以上は何も言いませんが……ちなみに部屋はどうしますか?」

 「空いてる部屋があったからそこかな」

 

 ついこの間まで2部屋空いていたのだが、その1室はクレアが使っている。

 その部屋に置いていたものを余った部屋に移動させたので、実質物置部屋になっている。

 かと言って礼拝堂で寝かせるわけにもいかないので、リリアには納得してもらうしかない。


 「そこら辺で寝ろって言われるかなと思ってたけど、部屋があるだけでも嬉しいですよ!」


 リリアは微笑んでいた。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 「パパ……?」


 リリアを部屋に案内しようとしていると、クレアが部屋から出てきた。

 眠そうに目を擦っているところを見る限り、直前まで寝ていたようだ。


 「どうしたんだ?」

 「……カレンさんの叫び声が聞こえたから何かがあったのかなって」

 「いや、大丈夫だよ」


 そう言って頭を撫でるとクレアは俺に抱きつく。


 「ずっと思ってたんだけど、先生って既婚者なんですか? ってことはさっき怒り狂ってた人が奥さん??」

 「残念ながら独身だ……」


 こんなことをカレンの耳に入ったらさっきのように怒り狂うかもしれないな。

 そもそもまだ若いカレンに俺の伴侶はもったいないだろう。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「今日もいい天気だなぁ……」


 朝の礼拝を終え、いつも通り外に出て体を伸ばしていると一緒に欠伸まででてきた。

 こんなところをカレンに見られたらまた何を言われるのやら……。

 今はクレアと一緒に買い物へと出かけているから気にせずできるのだが。


 「礼拝の時とは大違いですね先生」


 突然聞こえてきた声に心臓が飛び上がりそうな感覚を覚えつつもゆっくり振り返る。

 そこにいたのはカレンではなくてリリアだった。


 「脅かすなよ……」

 「普通に声かけただけなんですけど……?」


 リリアは何でと言わんばかりの顔をしていた。

 説明するのが面倒なので黙っていた。


 「それよりもそろそろ行くのか?」

 「すごい居心地良かったからずっといることも考えたけど」

 「……そんなことしたら俺がまた怒られるだろ」


 大きくため息をついていると、こちらに近づいてくる気配を感じた。


 「……やっとみつけましたよ」


 姿を見せたのは全身に黒いローブを纏った人物だった。

 低い声からして男だと思うが、体つきや顔が見えないので確証することはできなかった。


 「……ッ!」


 姿を見せた直後にリリアの顔が強張っていくのが見えた。

 それに何だこの鼻につく匂いは一体……?


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【あとがき】

お読みいただき誠にありがとうございます。

今年も宜しくお願いいたします!


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