第15話 助けた女性と一晩……!?
「お酒お注ぎしましょうか?」
「いや、お気になさらず」
「リリアちゃん俺のジョッキ空だぜ!」
先ほどのような出来事があったのが嘘だったのかと思えるぐらい賑わっていた。
特に俺の席が。
あの後すぐに教会へ戻ろうとしたのだが、助けた女性……リリアが俺の席にやってきたことで、タクトが大はしゃぎしていた。
そのままこの男に任せてと思ったが、アドレス夫人が先ほどの礼といって料理とお酒を大量に持ってきてしまい、仕方なく残ることに。
ちなみに殴りかかってきた男はあの後すぐに起き上がったのはいいが……
「ひ、ひぇぇぇぇぇぇ!」
と間の抜けた声をあげてそのまま店から出て行ってしまった。
「それにしてもお強いんですね!」
隣の席に座り、こちらへ視線を送りつつタクトのジョッキにお酒を注いでいくリリア。
にしても、あからさまに無視されてるのにリリアを口説こうとするタクトにはいろんな意味で敬意を表したくなる。
「そんなことないよ」
彼女の視線を交わしながら答える。
「そんな謙遜しないでくださいよー!」
そう言って俺の空いている腕を取って抱きつくリリア。
何とは言わないが、俺の腕を通して感触が伝わっていた。
「ぐ、ぐおおおおお! 先生!! 場所変わってくれ!」
目の前ではタクトが血走った目でこちらを見ている。
むしろ変わって欲しいんだが……。
「さてと、俺はそろそろ帰らせてもらうよ」
夫人が出してくれた追加の料理とお酒がなくなったのでお暇することにした。
というか、そろそろ帰らないとカレンに本気で怒られる気がする。
ただでさえ、牧師がお酒を飲むなと常日頃から言われているのに……。
「タクト、後は任せたよ。 ちゃんとリリアさんを家まで送るんだぞ」
そう伝えるとタクトは無言のまま敬礼のポーズで返してきた。
おそらくこのまま飲み明かすつもりなのだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……なんで着いてくるんですか?」
食堂を出て、帰り道を歩いていると後ろに気配を感じて声をかける。
「……気配消してたつもりだったのに何で!?」
驚きの声をあげながら後をつけてきた人物……リリアが姿を現す。
「タクト……一緒にいた男性はどうしたんですか?」
「面白そうにも見えなかったし、下心が見え見えだったので適当に理由つけて出てきちゃいました」
ここまで相手にされてないタクトに憐れみまで感じてしまう。
「私は明日も予定があるので、付き合えませんよ?」
「私も疲れたのでもういいかなって思ってますよ」
ニコリと微笑むリリア。
タクトならこれだけで気分が舞い上がってしまうだろう。
「……じゃあ何故私の後を?」
「泊まるところもお金がないんです」
粗方予想はついていたのだが、反射的にため息がこぼれる。
「宿までご案内しますよ……お金も私の方で出しますので」
正直俺がここまでやる必要性はないが、野宿でもされて彼女の身に何かあったら後悔の念に駆られることだろう。
まかりにも悩める人を救うのが役目である牧師をしているからには放置することはできない。
「そんなの悪いですよ! 私なんかのためにお金をださせるわけにはいかないです!」
これで済むと思ったが、何故かリリアは拒む。
「ですが、さすがに女性をそのまま放っておくわけにはいかな——」
「——シグナスさんの家、最悪廊下でも構わないです! 一晩だけでいいので、泊めていただけないでしょうか!」
リリアは俺の言葉を遮るように大きな声で懇願し始めた。
「……え?」
「泊めていただけるなら私のことは好きにしても!」
「いや、そういうのは結構です……」
この状況から逃げる方法を考えてみるも、すぐにそんな術がでてくるもなく結局は……
「わかりました……その代わり一晩だけですよ」
ため息混じりに答えるとリリアは目を輝かせながら喜んでいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「せぇんせい……!」
教会の入り口には練習用の木剣を構えたカレンの姿があった。
遠目で見ても、怒りが頂点に達しようとしているのがわかる。
俺の姿を捕捉するとドスの聞いた低い声で名前を呼ぶ。
「ど、どうしたんだ、もしかして夜遅くまで鍛錬していたのか、相変わらず精が——」
話の途中でカレンから木剣を向けられ言葉が止まってしまう。
彼女から俺を超えてると思えるぐらいの気迫が漏れ出していた。
慄く俺を見てカレンはため息をつきながら木剣を下ろす。
「先生も色々あると思いますので、お酒は一切飲むなとは言いませんが、もう少し牧師としての自覚をですね——」
「わかったから……とりあえず寒いから中に入ろう」
扉を開けてカレンを中へ入るように促そうとするが……
「先生って呼ばれてるから、何でだろうとおもってたけど……教会の牧師先生ってことだったんだ!」
後ろからリリアが独りごちながらこちらへと近づいてきていた。
その姿を俺はもちろんのこと、カレンも見ていた。
「先生……?」
その刹那、カレンは俺の顔を見る。
無に近い表情で微かに口元を緩めている……俗にいうアルカイックスマイルで。
俺はこれまでの人生でこれほどの恐怖を感じたことはなかった……はず。
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