第14話 暗躍する影と新たなる問題
「あの生き残りはまだ見つからないのか……!」
怒号と一緒にガラスが割れる音が響く。
「申し訳ございません……団員総動員させて探しておりますのもうしばらくの間——」
話の合間に再度ガラスが割れる音と「ひぃ」という悲鳴が混じる。
「早く探せ! もし邪魔をするものがいれば処せ! そのためなら大聖堂の名前を使ってもかまわん!」
「ぎょ……御意!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「で、なんで先生のところばかりに女の子が集まってくるんだ? しかも可愛い系が!」
トライアンフの町の冒険者ギルドに併設するアドレス酒場。
教会の朝の礼拝に必ずといっていいほど出席してくれるアドレス夫妻が経営する酒場だ。
食事に関しては量が多く、お酒に関してもどこで仕入れてくるか謎だが美味しいものを揃えている。
「俺に聞かないでくれ……」
注文した料理を皿に装いながら目の前に座る男へ返す。
「俺も自警団なんてやめて先生のところで仕事せてくれない?」
男は酒を一気に飲み干すと勢いよくジョッキをテーブルへと叩きつける。
ちなみに男の名はタクトと言ってこの町の自警団の一員だ。
俺と年齢が近いということもあって、仕事が終わる夜になると食事に誘ってくるのである。
話の流れから分かるようにこの男も未婚だ。
「女癖の悪さがなければ承諾したかもしれないな」
発言から分かる通り、この男は女癖が相当悪い。
綺麗な女性を見かければすぐに声をかける。
ほとんどの確率でフラれて終わるが、それでも懲りずに他の女性に手を出そうとするのが質が悪い。
見た目は好青年という感じで黙ってれば好印象だと思うのだが。
「そんなこと言って先生だって男だから気持ちわかるだろ? ってかカレンちゃんのような美人と一緒に暮らしててよく我慢できるよな? 俺だったらもう……」
タクトの言葉にため息で返す。
「そういえば最近もう一人可愛い子が入ったよな?」
もう一人というのはクレアのことだろう。
セレスの一件以降、行く宛がないということで、教会で一緒に暮らすことになった。
一応、町の人たちには見習い聖女だと話はしている。
ネクロマンサーの考えを見直したカレンとは仲良くやっているので一安心といったところだ。
「2人も美人どころがいるんだからどっちかこちらに回しても——」
話の途中でタクトは顔を引き攣らせる。
自分でもわかるぐらい鋭い視線をタクトにむけているからだ。
「殺されるとおもったじゃねーか! 本当に牧師かよぉ」
タクトは今にも泣きそうな声を出しながら目の前の料理を貪りついていた。
「牧師も人間なので、怒ることもある」
自分の意見を伝えるが、彼の耳に届くことはなさそうだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おいそこのネェちゃんよ、こっちにきて酌でもしてくれや!」
それからもタクトの愚痴や世迷言を聞きながら酒と食事をしていると遠くの席で耳に突き刺さるような大声が聞こえてきた。
見渡すと、俺たちのところから遠く離れた席に座る男が通りかかった女性の腕を掴んで酒を注げと言っているようだ。
男の姿はあまりみたことがないので、たまたま立ち寄った冒険者なのかもしれない。
「なんで私がそんなことしなきゃいけないんだよ!」
掴まれた女性は大声をあげながら掴まれた腕を振り払おうとしている。
だが、掴んでいる男の方が体格も良いため、細身の女性では振り払うのは厳しいだろう。
「別に減るもんじゃないだろ、寂しい男のためをおもって、やってくれてもいいだろうよ!」
男が座るテーブルには大量のジョッキが置かれているので、相当酔っているのだろう。
「ちょっとお客さん、そういうのはやめてくださいよ」
男の行動に見かねたアドレス夫人が男に近づくが……
「うるせえんだよババァ!!!」
大声をあげながら勢いよく振り払う。
そのまま夫人は吹き飛ばされてしまう。
「俺が求めているのは若いネェチャンなんだよ、ババァはすっこんでな!」
倒れる夫人に対して吐き捨てるように叫ぶ男。
「ネェちゃんもこうなりたくなければさっさと酌をしてくれよな!!」
かなりの酔いがまわっているのか、男の顔は誰もが見ても吐き気を感じるほどの歪み切った顔をしていた。
「嫌だって言ったんだろ、いい加減その汚え手を離せ!」
「なんだと、黙っておけばこのクソアマ!!」
汚いと言われて腹を立てた男は女に向けて殴りかかろうとしていた。
「い!? いででででで!!!!!」
男は腕を逆方向に捻られながら悲鳴をあげていた。
「せ、先生……!」
俺が男の腕を捻っている様子を見ていたアドレス夫人がこちらを見ていた。
「アドレスさん大丈夫ですか?」
男の腕を離し、倒れている夫人に近づく。
ざっと見た感じでは怪我とかもなさそうで安心した。
「おい、よくもやってくれたな」
夫人の様子を見ていると、男は両手の指をバキバキと鳴らしながら俺に近づいていた。
ため息をつきながら、ゆっくり立ち上がり男の方へ振り返る。
「その服は教会の牧師か? いいのかよ牧師が人様に暴力をふったりしてよぉ!!!」
そう言って男は殴りかかってきた。
腕の太さもあり、スピードものっているのでまともに受ければ相当なダメージにはなるだろう。
だが、変哲のないストレートのため、防ぐことは簡単。
「ぐおっ!?」
俺は右手で男の拳を受け止める。
「……自分勝手なおまえに神に変わって天罰を下そう」
そう伝えると同時に雷魔法のサンダーボルトを放つ。
「うげげげげげげげ!!!」
直後、男は奇声をあげながら床でのたうち回っていく。
魔力は抑えているので、死ぬことはない。
見た目から体力はありそうなので、多少魔力を高くしても生き延びるだろう。
「ぐへっ」
床で暴れ回っていた男は変な声をあげるとそのまま気絶していた。
「あ、ありがとうございます!」
男が気絶すると絡まれていた女が俺の手をとりながら礼を言っていた。
遠くから見た時は気づかなかったが、光り輝くような金髪に若干の幼さを残した顔立ちをしていた。
顔立ちの割には随分と体つきがよく、その様子が見てわかるような衣装を纏っている。
ずっと俺の顔を見られてることに気まずさを感じてタクトの方を見ると、でかした!と言わんばかりの顔で親指を立てていた。
ロクなこと考えてないな。
そう思うと俺は体の奥底からのため息をついていた。
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