第13話 3人のすれ違い そしてネクロマンサーの必要な理由

 「私が最後に会ったのは……ドロシーちゃんです」


 深々とした中でセレスの声が鳴り響いていく。


 「ドロシー、本当なのかい? でもあの時セレスは魔物に襲われたって」


 アルスは問いかけるもドロシーは無愛想な表情のまま黙り込んでいた。


 「ドロシーちゃんと話していた私は口論となり……」


 突如セレスは口を噤むいでしまう。

 先ほど聞いた時の流れからドロシーに殺されてしまうと言おうとしたのだろう。

 だが、仲間が人を殺めたというのは知ってはいてもそう簡単に言えるものではない。


 「……セレスさんはドロシーさんによって殺害されました」


 代わりに俺が伝える。

 それに対してドロシーは怒りの形相で俺を睨みつけていた。


 「……どうやって殺したって言うのよ、セレスには傷すらついてなかったわよ!」

 「えぇ、そうですね」

 

 彼女の着ていた服や体も綺麗なままであることは俺たちもそうだが仲間の2人も知っている。


 「ドロシーさん、あなたは炎の魔法が得意のようですね、さっきこちらを攻撃した際にこちらも魔法障壁を貼らなければ燃えカスになっていたかもしれません」

 「だからなによ……もしかして私の魔法で殺したって言いたいわけ? さっきも言ったけどセレスに傷は——」

 「セレスさんには一切傷はなかったですよ」

 「じゃあ何だって言うのよ!」

 「セレスさんの死因はショック性のものです」


 俺の言葉にアルスとドロシーは目を大きく開けていた。


 「セレスさんは過去に火事で家と両親を失ったそうです、その後は教会に保護されて、アルスさんやドロシーさんの住んでいた村の教会に引き渡されたようですね」


 セレスの話ではその村で2人に出会ったと話していた。


 「これも自分なりに調べたんですが、過去の出来事から他の人にとって普通のことが恐怖の対象になることがあるんです。今回で言えば火というのはセレスさんにとっては恐怖の対象なんです」

 「……そんなわけないじゃない! これまでモンスターと戦った時にさっきの魔法は使ってたわ!」

 「それは自分に向けられたものでないからですよ」

 「そうですね……それでも魔物が燃えていく姿を見た時はいい気分ではなかったですが」

 

 肩に乗っているセレスが思い詰めた様子で答えていた。


 「けれど、あの時は炎が自分に向けられて……」

 「違うわ! あれはただ脅かすために魔法を詠唱しただけで……!」

 「あなたにとっては脅かすつもりだったようですが、自分に向けられる炎を見て過去のことがフラッシュバックしたようですね」

 「あ…………あぁ……」


 俺の言葉にドロシーはその場で崩れ落ちていく。

 それに気づいたアルスが彼女に近づくも……


 「いやあああああああああっ!!!!」


 ドロシーは奇声かと思える声をあげて泣き出していった。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 ドロシーが落ち着くまでかなりの時間がかかった。

 集まった時、空は宵闇に包まれていたが、今は微かに青みがかかっている。


 「……アルスを取られるのが嫌だったんです」


 落ち着いた直後にドロシーは淡々と話し出した。


 「子供の頃からずっと一緒だったアルスが好きだったんです……でも私たちの中にセレスが入ってきて」


 早い話が痴情のもつれだ。

 

 「私はアルスくんにはドロシーちゃんしかいないと思ってました……」


 セレスの言葉にドロシーはゆっくりと顔をあげ、セレスを見ていた。


 「だってドロシーちゃんは頭もいいし、とてもしっかりしてるから。 私のようなおっちょこちょいでダメダメな人間では迷惑がかかるかなって」


 そして最後にセレスは私は神に仕えようとしているからと締めくくる。

 教会に助けられたセレスはそのことで教会に対して恩を感じ、自分とおなじような境遇の人たちを助けたいと考えていたようだ。

 自分の幸せよりも人々が幸せになることを願っていたと話す。


 「なんで……なんでよ……!」


 セレスの話を聞いたドロシーは再び大声をあげて泣き出してしまう。


 「ドロシー……」


 その様子を見ていたアルスは彼女の名前を呼びながら抱きしめていた。

 

 「アルスくん……」

 「なんだい……ってセレス!?」


 俺の肩に乗るセレスを見てアルスは驚きの声を上げていた。

 セレスの体全体が淡い光を帯び始めている。

 

 「……そろそろ限界」


 俺の後ろでクレアが呟いていた。

 魂を格納できるのは一時的であり、一定の期間を超えると消滅もしくは悪霊と化すか。

 ずっといられることはない。

 昔、シャーリーから聞いたことを思い出した。


 「ドロシーちゃんと幸せになってね……」

 「セレス……!」


 もちろんぬいぐるみの表情は変わらないのだが……

 俺には彼女が微笑んでいるように見えていた。


 「シグナスさん、カレンさん、クレアさん……」


 セレスは俺たちの方を見ていた。


 「こんな私のわがままを聞いて頂きありがとうございました……」


 彼女の体を包む光が強くなっていく。


 「……これで悔いは…………ありま……せ……ん」


 最後の言葉を言い残すと、俺の肩に乗っていたぬいぐるみが無造作に地面へと落ちていく。

 これまで聞こえていたセレスの声はもう聞こえることはなくなっていた。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 「ご迷惑をおかけいたしました……」


 朝になって、いつも通り礼拝を終えた後アルスとドロシーは俺の前で深く頭を下げていた。


 「私は何もしていませんよ」


 何事もなかったように返す。

 実際に動いたのは俺ではなくセレスだ。


 「ちなみにこれからどうされるんですか?」

 「一度故郷に帰ろうと思っています」


 答えるアルスの手はドロシーの手と繋がれていた。

 それから少し話をしてから2人は再度礼を述べてから町から去っていった。


 「……少し寝るか」


 あれから寝ないまま朝の礼拝をしていたのだが、ずっと眠りの悪魔との戦いを繰り広げていた。

 今日は特に用事もないので、夜まで寝てようと思っていたのだが……


 「先生!」


 教会の中へ入ろうとすると俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

 呼んだのはカレンだった。

 

 「どうしたんだそんなに慌てて——」

 「ちょっとこちらに来てください!」


 俺の話を遮るように話し出すと同時に腕を掴んで歩き出すカレン。


 「ど、どうしたんだ……って頼むから引っ張らないでくれ!」


 カレンに引きづられるように連れてこられるのは裏手の墓地だった。

 もっと正確に言うと、セレスの墓石の前。


 「……驚いたな」

 「やっぱそうですよね!」

 

 興奮気味に話すカレン。

 セレスの墓石を囲うように無数の花が咲いていた。

 もちろん花など植えた覚えなどないのだが……。


 ——もしかしてセレスが……?


 「……先生」


 目の前の光景に驚いているとカレンが俺の名前を呼ぶ。

 それに反応して彼女の顔を見ると微笑んでいた。


 「先生が言っていた意味が理解できました……ネクロマンサーは彷徨える魂を救うことができる素晴らしい人たちなのだと」


 カレンはそう言いながら墓石の前に膝をついて手を合わせていた。

 

 「あぁ……決して俺たちの敵ではないんだ」


 そう告げると俺もカレンの隣で手を合わせていった。


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【あとがき】

お読みいただき誠にありがとうございます。

今年も宜しくお願いいたします!


読者の皆様に作者から大切なお願いです。


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