第11話 真実と願い
「……私、思い出しました」
突然声をあげたセレス。
「思い出したって何を?」
「私が死ぬ直後の記憶です!」
死の直前なんて恐ろしいものだと思っていたが、セレスの目が輝いているようにも見えた。
「たしか、野宿をした日の夜、アルスくんと見張りを交代した時でした……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それじゃ僕は寝るから、見張りよろしくね。 何かあったら起こして」
アルスくんはそう伝えるとすぐに横になった。
今日ずっと歩き続けていたためか、横になってすぐに彼の寝息が聞こえてきた。
「あれ、そういえばドロシーちゃんは……?」
辺りを見渡すが、彼女の姿はなかった。
昼間なら散歩とかもありえる話だが……。
もしかしたらすぐ戻るのではないかと思い、しばらくは星空を眺めながら待っていたが彼女が戻ってくる様子はなかった。
「……アルスくん、すぐ戻るね」
起こさないように小声で彼へ呟くとドロシーちゃんを探しに出た。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ、ドロシーちゃん!」
探し始めてから30分もしないうちにドロシーちゃんの姿を見つけ声をかける。
私の声に反応してすぐにこちらを向いた。
「帰ってこないから心配したよ、どうしたの?」
「……別に、それよりもアルスは?」
無愛想な表情で淡々と話すドロシーちゃん。
彼女にとってこれが通常というのは私もアルスくんも理解している。
「見張り交代したらすぐに寝ちゃったよ。 相当疲れてたのかもね」
「……そう」
ちょっとした沈黙が訪れていた。
「そろそろ、アルスくんのところに戻ろうか!」
そう言って彼女の手を取ろうとするが、振り払われてしまい、一瞬何が起きたのか理解できなかった。
「……ねえ、何でいつもアルスのそばにはあなたがいるのよ」
その直後、ドロシーちゃんは普段とは違う声色で話し出す。
「そんなことないですよ、ドロシーちゃんも一緒にいる——」
「ふざけたことをぬかすな!!」
突如ドロシーちゃんの怒号が聞こえてきた。
今までこんな大きな声をだしたことがなかったので、驚いてしまう。
「アルスの中にはアンタしかいないわよ……! どれだけ……どれだけアルスの中に入ろうとしても……結局はアンタがでてくるのよ!!!」
「ちょ、ちょっと……落ち着いてよドロシーちゃん!」
彼女を宥めようとするも、興奮状態でこちらの話は聞こえていないようだった。
更には杖をこちらに向けていた。
彼女がこの姿勢をとるときは魔法を発動するときだ……。
「ど、ドロシーちゃん落ち着いて!!」
「うるさい! どうしてもアルスの中から離れないっていうなら……!」
そして彼女の杖についている赤色の宝石が光出した。
「い、いや……!」
その瞬間、私は轟々と燃える炎に囲まれていた。
「い、いやあああ!!!!」
炎を目の当たりにして私は動けなくなってしまいその場に座り込んでしまう。
「何でこんなことするの! ドロシーちゃん!!!!」
炎が壁となり、彼女の顔を見ることができなかった。
けれども……
「……アンタが悪いのよ、常にアルスの中にいるアンタの存在が!!」
炎の奥で嘲笑うドロシーちゃんの声が聞こえてきた。
「助けて……助けて、ドロシーちゃん!!!!」
届かぬ助けを求めていくうちに私の目の前が真っ暗になっていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それで気がついたらこの辺りを彷徨い続けているうちにクレアさんに助けられました」
そう締めくくるセレス。
ぬいぐるみの姿で話をしているため、緊張感というか話自体の重みが感じられなかったが。
「炎に囲まれたと話していましたが、セレスさんの遺体は綺麗なままでしたよね?」
ハーブティーを淹れいる時も話を聞いていたのか、カップとポットを乗せたお盆を持ちながら話しかけてきた。
「そうだな……」
俺が発見したときはセレスの顔は恐怖に怯えたような悍ましい表情をしていたことを思い出す。
発見時は原因がわからなかったが、彼女の話を聞いてもしかしたらと思うことがでてきた。
ちなみに、カレンにセレスの体の傷を確認した時には、時間が経ったことで筋肉が緩んできたのか悍ましい表情はとけていた。
「シグナスさん!」
カレンの持ってきたハーブティを飲もうとすると、セレスがこちらに近づき腕をこちらに伸ばしていた。
「ど、どうしました……」
「ドロシーちゃんに会わせてて欲しいんです!」
「……会って何をするんだ?」
死んだことなど一度もないため、これは想像になるのだが……
仮に自分が仲間に殺され、今のセレスのような境遇になったとして、考えることといったら……
「同じようなことをするんですか?」
カレンがセレスにそう返す。
どうやらこの子も同じようなことを考えていたようだ。
「いえ、違います」
俺とカレンの考えをキッパリと否定したセレスは話を続けた。
「ドロシーちゃんにお願いをしたいんです」
俺が思っていたよりも全く違うベクトルでのことをやろうとしていた。
それはそうと……
神の言葉を教えていく身でありながら、殺された相手に報復を考えてしまう自分に牧師という立場はあってないのかもしれないな。
と、軽く落ち込んでしまっていた。
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