第10話 セレスの過去そして、あの時の記憶
「おとうさん……おかあさん……!!」
私の目の前には激しく燃え盛る炎。
そして炎は私の家を飲み込んでいた。
数時間後、燃え上がっていた炎は鎮火できたが私の住んでた家は跡形もなく崩れていった。
崩れ去った瓦礫の中から私の両親の亡骸が発見された。
逃げきれないとわかった両親はせめて私だけを逃がそうとしていたようだ。
それから来ていた教会の人たちに連れられ私は孤児院へ預けられることになった。
この孤児院は教会と併設されているため朝には礼拝が開かれていた。
そんな日々を送っていったことでいつしか私は神に仕えたいと思うようになっていった。
自分がこうして生きていけるのは神様のおかげだと——
また、孤児院に預けられたことで出会いもあった。
アレスくんとドロシーちゃんだった。
孤児院が農村地帯にあり、礼拝のあとは村の人たちと一緒に畑を耕しているのだが、そこに2人はいた。
年も近いこともあってかすぐに仲良くなっていった。
そして、16歳になり……私は育ててくれた孤児院を。
アルスくんとドロシーちゃんは村をでて冒険者となった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……相変わらず精がでるな」
セレスを教会に連れて帰った後、用事を済ませて戻ってくると、教会の前でカレンが練習用の木剣を何度も振り落としていた。
「鍛錬は一日でも怠るべからず……そう言ったのは先生じゃないですか」
ため息をつきながらも素振りを続けるカレン。
彼女が言った言葉は過去に俺が言われた言葉そのままだ。
その時の俺は何も考えることなく愚直にやっていたものだ。
……まさか、彼女が何の疑問もなくそれを実行しているなんて考えもしなかったわけで。
「そういえば、クレアとセレスは?」
「部屋でセレスさんを見ていますよ、私も面倒を見ると伝えたんですが、大丈夫ですって丁寧に断られました……」
カレンの行動をみていたなら、断るのもわかる気がする。
口が裂けても言えないが。
「先生……」
「どうした?」
「……先生にとってネクロマンサーとはどんな存在なんですか?」
カレンは素振りをやめて俺の顔をじっと見る。
「どうした急に?」
「……あの子を見ていたらわからなくなってしまったんです」
あの子というのはクレアのことだろう。
「子供の頃に通っていた教会学校では……ネクロマンサーという存在は私たちの敵だったと教えられました」
「……そうだろうな」
教会学校というのは教会がある町や村の子供に最低限の教育を行う教会の統括する大聖堂が作ったカリキュラムだ。
基本的には読み書き、簡単な歴史、神の教えなどの必要最低限のことを牧師やシスターが教えていく。
ここで学んでいき、もっと学びたいと思った子は中央聖都にある学院にも紹介することもできる。
入学には試験があり、合格しないといけないわけだが。
「ネクロマンサーは悪であり、存在を許してはいけないと思っていましたが……」
「クレアを見て、疑問を感じてしまったと」
俺の言葉にカレンはコクリと頷く。
カレンの言うことは間違ってはいない。
むしろ俺も同じことを思っていた。
それこそ、クレアの母、シャーリーに出会うまでは——
「カレンの質問に答えるなら、ネクロマンサーも俺たちと同じ人間である」
色々経験してきた中で導き出した俺なりの答えだ。
「だけど、これは俺の考えなのでそれをカレンに押し付けようとは思ってない」
そう話していくもカレンは首を傾げるばかり。
「手っ取り早くいえば、今がいい機会だからクレアを見て知ってみたらどうだってことだ、聖書にも書いてあるだろ? 『すべてのことにおいて自分の目で確かめろと』」
聖書の解釈は人それぞれだが、俺の解釈としては『人から聞いたり本を読むことも学びのうちだが、実際に自分で見たり触れたりすることが本当の学び』じゃないかと思っている。
「久々に先生が牧師なんだと認識ました……」
カレンはすごいことを知った子供のように目をキラキラを輝かせていた。
「何でだよ……こう見えても10年近く牧師としてやっているぞ」
ガックリと肩を落としながら返すと、カレンはふふっと明るい表情へと戻っていった。
「さてと、中に入ってティータイムにでもしようか、用事済ませた際にハーブを頂いたし」
そう言って俺は教会の扉を開けて中へと入っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ、パパ……」
カレンと一緒に談話室へ入ろうとするとちょうどよく、肩にぬいぐるみを乗せたクレアと鉢合わせた。
「お、セレスさんは大丈夫なのか?」
尋ねるとクレアは無言のまま頷いていた。
「はい、先ほどは失礼いたしました……」
クレアの肩の上でペコリと頭を下げるセレス。
「いや大事にならなくてよかったよ、これからティータイムにするけどよかったらどうかな?」
「よろしければ是非!」
言ってから気づいたがぬいぐるみだから飲めないよな……。
「それでは、淹れてきますのでお待ちください」
談話室に入ると、カレンは奥にある調理場へと向かっていった。
クレアは空いている椅子に座り、テーブルの上にぬいぐるみを乗せていた。
「っと寒いな……火をつけるからちょっと待っててくれ」
談話室にある小さな暖炉に薪を数本放り込んでから初級の炎魔法で火をつける。
しばらくつけていると、薪に火が移りパチパチを音を立てて燃え上がっていった。
「よし、少ししたら暖かくなるからまっててな……ってセレスさんどうしたんだ?」
椅子に座ろうと思い、振り返るとセレスがずっとこちらを見ていた。
こちらというか、暖炉で燃える薪と言ったほうが正解かもしれない。
だが、声をかけるも彼女からの返答は一切なく、その間もずっと薪を見続けていた。
そして、しばらくして……
「……私、思い出しました」
彼女はそう告げたのだった。
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