第8話 彷徨える魂からの依頼
「助けるって一体誰を……?」
俺は懇願するぬいぐるみ……もとい、セレスに問う。
「……私、なぜ自分が死んでしまったのかわからないんです」
そう言って、続けて話を進めるセレス。
トライアンフに来る途中の森で野宿をしたところまで覚えているが、それ以降の記憶はなく
気がついたら、魂となって彷徨っているうちにクレアと出会い、このぬいぐるみに格納してもらったと話す。
「なるほどな……」
死んでしまい肉体から魂が抜ける時に記憶が抜け落ちることがあるとシャーリーから聞いたことがある。
おそらく彼女の場合もその類が原因なのかもしれない。
「なぜ、私が死んでしまったのかずっと気になってしまい、天へ昇ろうという気持ちになれないんです」
表情はそのままだが、ガックリと肩を落とすセレス。
俺の横ではカレンがそんなセレスを見て目を輝かせていた。
「先生、こんなことって起こりうることなんでしょうか?」
「地縛霊とかの類になるだろうな」
地縛霊は自分が死んだことを受け入れられなかったり、理解できなかったりなどの理由から、最後にいた場所から離れられない霊のことだ。
そういう点ではセレスはこれに当てはまるだろう。
「……むしろ俺はそれをどうにしかしてやる立場だよな」
良い方向へ導いてやるのが牧師としての役割でもある。
それが、この世のものではない魂だけの存在であってもだ……。
聖書にも神は人を分け隔てないとも書かれているし。
魂だけの存在でも、元々は人だ。
それに、セレスの亡骸のこともある。
彼女は恐怖で顔を歪ませていた……。
それがずっと気がかりだった
魔物や野盗などに襲われたことで致命傷を負い、それで苦しんだのならわからなくもないが、彼女には傷一つ見当たらなかった。
戻ってからカレンに説明した上で、確認してもらったが綺麗なままだったと話していた。
他にも考えられるのは病気があがるが、そもそも病気のまま旅に出るだろうかと考えてしまう。
「……わかったよ、俺が役に立つかわからないがやるだけやってみるよ」
俺はクレアの頭を撫でながら答えると、彼女は笑顔で「ありがとう」と口にしていた。
「……先生」
その様子を見ていたカレンがこちらをじっと見ていた。
見ていたというか、睨んでいたというのが近いかもしれない。
「ど、どうした……!?」
「私にもお願いします!!」
大きな声をあげると同時に頭を下げるカレン。
「……どうしてこうなるんだ?」
悩んだ挙句何故かカレンの頭を撫でる羽目に。
「うへへ……」
君の悪い声が聞こえたような……。
気のせいだろう。
そう思うことにしよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「とは言ったものの、どうすればいいのやら……」
次の日、朝の礼拝を終えて外にでたのはいいが何から始めればいいの見当がつかなかった。
「先生、どうかしましたか? もしかして何からやればいいのか悩んでいるとか……」
隣にいるカレンが俺の心を読んだのか、考えていることそのまま言ってきた。
すぐに彼女の顔を見ると、ニヤリとした顔でこちらをみていた。
「どうやらその顔は図星ですね」
「……そうだよ、頭が悪いからすぐ行動に移せないんだ」
素直に認めることができず、自分でもよくわからない理論を叫んでいた。
言ってから気づくがものすごく情けなく感じてしまう。
「あの……シグナスさん」
すぐ横から俺を呼ぶ声が聞こえ、そちらへ振り向くとクレアの姿があった。
呼んだのはクレアではなく、彼女の背中に乗っているセレスだろう。
「どうしました?」
「ふと思ったんですが、アルスくんとドロシーちゃんはどうされました?」
「たしかまだこの町にいるはずですね」
昨日のセレスの葬儀の後、当分はこの町にいると話していた。
冒険者だと言っていたので、冒険者ギルドに行けばいるかもしれないな。
「よかったらでいいのですが、2人に合わせてもらえないでしょうか?」
「それは構わないですが……」
そう伝えながら俺はクレアを見る。
俺の意図を汲み取ったのかセレスは続けて話し出す。
「もちろん、私が話しかけることはしません、アルスくんもドロシーちゃんもオバケとか苦手なので話しかけたら怖がってしまうので」
「そう言ってもらえると助かる」
彼女の言葉に安堵の息をつく。
にしてもオバケが苦手とか冒険者としてやっていけるのだろうか……。
場所によってはゾンビやスケルトンなどのモンスターが出現するあるというのに。
小さいとはいえ、トライアンフの町にも冒険者ギルドは存在している。
この辺りには凶暴な魔物が出現しないためなのか、冒険者たちの間では初心者向けの場所と言われているようだ。
「あ、カレンさんおはようございます!」
ギルドの中に入ると、受付の青年が声をかけてきた。
「おはよう、ビーノくん」
「あれ、牧師先生が夜以外に来るなんて珍しいですね」
ビーノ青年は元気よく声をかけたのはいいがすぐにカレンを見ていた。
彼の言う夜以外というのは、このギルドが食堂も兼ねており、俺がここへ頻繁に顔を出すのが夜が多いからだ。
「カレンさん、今日はどうなさいますか! 自分のオススメは——」
「いえ、今日は依頼を受けに来たわけではないので」
そっけなく返すカレンにビーノ青年はひっきりなしに話しかけていた。
何というか分かり易いな……。
「ビーノくん、色々と申し訳ないけどちょっと聞きたいことがあるんだ」
徐々に不機嫌な顔になっていくカレンを見て、割り込むように声をかける。
「……どうしましたか?」
今度はビーノ青年の顔が不機嫌になっていく。
若いから仕方ないか……。
「昨日あたりにアルスとドロシーって冒険者がこなかったか?」
「あー……そういえば来ましたよ、申請の時も女が男のほうにひっついてるし、ちくしょう思い出したらイライラしてきたー!」
突如叫びだすビーノ青年を宥めつつ、2人のいる場所を聞くことに。
「受理に時間かかるって言ったら宿に戻るって言ってましたよ、あーあ今頃は——」
「——わかった、ありがとう!」
これ以上は3人の耳に入れてはいけないような気がしたので、すぐに話を切り上げて、ギルドを後にした。
「これだから五月蝿い男は嫌なんです」
外に出た瞬間、カレンがため息混じりに吐露していた。
個人的には若いもの同士合うと思うんだけどなあ……。
その直後に自分が歳をくったことを実感して軽く落ち込んでしまうのだった。
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