第7話 ネクロマンサーとは
「すごく可愛いですけど、これってどういう仕組みで動いているんですか?」
カレンは猫のぬいぐるみを触ろうとするもクレアの背中へと逃げられてしまう。
「怯えてる姿も可愛いじゃないですか!」
「カレン、少しは落ち着きなさい……」
よほど触りたいのか、今にもぬいぐるみの方へ飛びかかろうとしているカレンを止める。
「だって可愛いじゃないですか! 可愛いは正義ですよ! 先生も一緒に可愛いものを愛でましょう! 神の教えにもあるはずです!」
「一応牧師になって毎日聖書に目を通しているが、そんな内容はみたことないぞ」
「ないなら作るまでです! 試しに目の前にある可愛いものをめで……ってどうしたんですか先生? 頭を抱えて??」
カレンの突拍子も無い言葉に急に頭が痛くなってきた。
返す気力すら消え失せている。
人形自体はどこで手に入れたのかわからないが、おそらくはネクロマンサーの能力を使って人形に魂を格納したのだろう。
ネクロマンサーは死によって肉体から離れた魂を見ることができる能力者のことだ。
見るだけではなく、会話をしたりカレンに怯える猫の人形のように一時的に人形などに格納することができる。
……ただそれだけの能力だったはずだ。
——けれどもいつしか、ネクロマンサーは魂を弄んだり、手駒にして人を襲わせたりするなど、悪い噂が広まってしまった。
そのため、ネクロマンサーという存在は人々にとって忌み嫌われた存在となってしまっていた。
「これは……わたしがお母さんからもらった大切な人形だから!」
俺が頭を抱え込んでいると、クレアが力強い言葉でそう告げた。
「それにこの人形は……しゃべらないけど、今は私の力で魂を入れたから喋ることができてます」
「え……??」
クレアの言葉にカレンは困惑の表情を浮かべている。
まあ……そう簡単にわかるはずはないよな。
「……クレア、いいのか? 誰もが俺みたいに納得できるとは限らないぞ?」
「パパの信頼してる人なら大丈夫だと思ってます」
純粋な瞳で俺を見るクレア。それはいいがパパはやめて欲しいんだが……。
念の為の対策をしておくか。
「カレン、落ち着いて話を聞いてくれ」
「え……は、はい!」
慌てていたカレンが真剣な顔で俺を見ていた。
なぜか、姿勢よく立ち両手をまっすぐに下ろしていた。
「ネクロマンサーについて聞いたことあるか?」
「は、はい……たしか人の魂を無理矢理使役して弄ぶ能力者たちのことだと聞いてますが……それがどうかしましたか?」
彼女の認識を確認した上で俺はさりげなくクレアの前に立つ。
「……クレアがネクロマンサーだ」
俺がそう告げた瞬間、カレンは腰に下げていた剣をこちらへ向ける。
剣先は俺の喉元寸前まできていた。少しでも動けば突き刺さるぐらいの距離だ。
よほど驚いたのか、クレアは俺の足にしがみついていた。
「剣を下げろカレン」
「ですが……!」
「ここは神の教えを説く教会だ……君もここで従事しているならどんな場所かもわかっているだろう」
俺の言葉にカレンは黙ったまま、剣を鞘に収めた。
「……いいのですか先生、ネクロマンサーは大聖堂が認定した我らの敵ですが」
剣を収めるもカレンは納得が行かない様子だった。
良くも悪くもこの子らしいとも言えるのだが……。
「わかりました、先生がそう仰るなら従いますが……もし、こちらに手をだすことがあれば——」
「——その時は俺を斬ってくれて構わない」
俺の言葉にカレンは大きく目を開けていた。
クレアはそんなことをしないという自信が俺にはある。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ、あの〜」
暫くの間、沈黙の時が流れていたが、それを打ち破ったのはクレアの背中からひょっこりと顔を出した猫のぬいぐるみだった。
改めて声を聞くと澄んだ声をしていたことに気づく。
まあ、第一声が叫び声だったしな……。
「さ、先ほどは大声をあげて申し訳ございませんでした」
ペコリと体を直角に曲げるぬいぐるみ。
「ぐぅぅぅ……可愛すぎる!」
さっきの殺気たっぷりの行動が嘘かと思えるぐらいカレンの顔は歪んでいた。
「クレアがこのぬいぐるみに魂を格納したと言っていましたが、あなたは一体……?」
顔を上げたぬいぐるみは一呼吸置くと短い手をあげる。
「私、セレスと申します」
「ちょっと待ってくださいセレスさんってたしか……」
カレンの言葉に俺は黙々と頷く。
「ここへくる途中の森で命を落としたアルスさんたちの仲間の1人だ」
「あぁ……やっぱり私は命を落としていたんですね」
ガクりと項垂れるぬいぐるみ……もとい、セレス。
「あ……す、すまない」
前にシャーリーから肉体から離れた魂は自分の死に気づいていないのが大半だと聞いたことがある。
そして死に気づいた時に錯乱することも多く、下手をしたらそのまま悪霊と化すこともあるとか……。
「いえいえ、お気になさらずに……!」
手をバタバタとさせるセレス。
「……先生、私このまま昇天してしまうかもしれません」
なぜか、カレンは手を合わせていた。
「……パパ」
そんな中、クレアがいつもの小声で俺の名前を呼んだ。
ってかパパと呼ばれることに抵抗がなくなってることに気づく。
「どうした?」
「……この魂、ここにきた時助けてほしいって言ってました」
クレアの言葉に俺はセレスのほうを見る。
何も変わらない表情のため、本当に助けを求めているのか……
わかるはずがなかった。
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【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
本日も18時頃に続きを公開しますのでお楽しみに!
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