第6話 クレアの能力

 「あなたは……だれ?」


 教会のベッドで寝ていた私を呼ぶ声が聞こえた。

 声がする方へと振り向くとそこには——


 「——たすけて」


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 「神よ、天に召された故人が安らかな旅立ちになりますよう、心からお祈り申し上げます……」


 森から故人、セレスの遺体を教会の裏手にある墓地へ連れて帰ってから棺へ入れて行き、空いている場所へ埋めていった。

 急であったため、色々と用意することはできなかったが、あのまま放置されるよりはずっといいはず。

 そう思いながら俺は祈りの言葉を紡いでいく。


 「まだ若いのにな……」


 目の前の質素な墓を見て思わず声がでてしまう。

 ふと、自分の後ろへ振り向くと仲間であるアルスとドロシー、カレンの姿があった。

 クレアはまだ気分がすぐれないようで教会の部屋で寝ていると話していた。


 「それでは故人に花を手向けてくださいませ」


 そう告げると俺はその場から離れる。

 真っ先に動いたのはアルスだった。

 墓の前で膝をつくと「ごめんよ」と呟きながら花を添えていく。

 そして次に動いたのはドロシー。

 アルスと同じように墓の前で腰を落とし、ゆっくりと花を添えていった。

 だが……

 一瞬ではあるがドロシーの口元が歪んでいたのが見えた。

 花を添え終わったドロシーは立ち上がるとすぐにアルスの隣に並ぶ。


 「先生、終わりました」


 気がつけばカレンが俺の目の前に立っていた。


 「あ、あぁ……」


 葬儀がこれで終わったことを伝えると、アルスとドロシーはその場から去っていった。

 どうやら仲間を失い、2人とも精神的に参っているので、しばらくの間この町に滞在すると話していたな。


 「それじゃ、俺たちも戻ろうか」

 「そうですね……」

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 「あれ……」

 

 何だかすごく体がだるい気がするんだが、何をしていたんだっけか。


 「先生、起きたんですね」


 ちょうどよく談話室に入ってきたカレンが声をかけてきた。


 「もしかして、俺寝てた?」

 「えぇ、椅子に座った直後に顔をテーブルに突っ伏してました」

 

 ようやく休めることに体が気づいたのか、談話室の椅子に座った直後に眠ってしまっていたようだ。

 

 「どれくらい寝てたんだ?」

 「2時間ぐらいだと思います」


 ふと、窓の外を見ると、明るかった空が茜色に染まりつつあった。

 1日って早いな……


 「ふわあ〜……」

 

 大きく口を開けながら両腕を伸ばす。

 

 「先生、はしたないですよ……」


 そんな俺を見てカレンがため息混じりに話しかけてきた。


 「今日は忙しかったんだから少しぐらいは大目にみてくれてもいいじゃないか」

 「せめて口元は手で抑えてください、私だけしかいない時なら別に構わないですが、他の人の前でやったらみっともなく見られますよ」

 「はいはい、わかりましたよ……」


 なぜ、カレンの前ならいいのだろうかと疑問に思いつつも脳が考えることをしようとしなかったため、それ以上追求することはしなかった。


 「そういえば、クレアはどうした? 葬儀の時も部屋にいたけど」

 「先生が寝てからもこちらには来ていないですね」

 「そっか……」


 相当辛いことを目の当たりにしただろうから、立ち直るにも時間がかかるのかもしれないな。

 そういう時こそ、人の悩みを聞く牧師という立場が役に立つときかもしれない。


 「先生どうされたんですか?」


 立ち上がった俺を見て、不思議そうな顔で俺を見ていた。


 「クレアの様子を見てくる」

 

 俺が答えると一瞬ムッとした顔になった気がしたが、考えすぎだろうか?


 「……まあ、先生のことなのでそんなつもりはないと思いますが、着替えをしてる可能性もありますので、気をつけてくださいね」


 最後に私の部屋に入る時は気をつけなくても大丈夫ですがと付け加えるカレン。

 いやいや、どちらも気をつけるに決まってるだろ……と思いながら談話室を出てクレアのいる部屋の前へとやってきた。


 コンコンと二度ドアをノックしてから入ることを伝えてからゆっくりとドアを開ける。


 「クレア、気分はどうだ?」


 部屋の中に入り、部屋を見渡すと床に座るクレアの姿と……

 ——飛び跳ねる猫のぬいぐるみ。

 そして異様な光景に呆然とする俺。


 その結果、何が起きたというと……


 「きゃああああっ!!!!!」


 教会の中に甲高い叫び声が響き渡ることに。


 「先生! だからあれほどドアを開ける時は気をつけるようにいったではないですか!」


 叫び声を聞いてカレンが真っ先に部屋へとやってきた。

 にしても準備がよすぎやしないかと思うのだが……。


 「ち、違うさっきの悲鳴はクレアじゃなくて——」

 「——彼女じゃなければ誰だというんですか?!」


 捲し立てるカレンを落ち着かせるように、静かに指を差した。

 誘導されるようにカレンの視線は俺の指先へ。

 

 「か、かわいい……っ!」


 驚きのあまり声にならないカレン。

 俺たちの視線の先にはクレアの背に隠れる猫のぬいぐるみ。

 カレンの声に驚いてぬいぐるみはさらに体をビクつかせていた。


 「シャーリーから受け継いでたみたいだね」


 クレアに向けて話しかけると彼女は黙ったまま俺の顔を見てコクリと頷いた。

 忌み嫌われた力、ネクロマンサーとしての力を……。


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【あとがき】

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