第5話 若き冒険者たちとオッサン牧師

 「あの教会の方でしょうか?」


 教会の中に入ろうとしていると2人の男女に声をかけられた。

 男の方は軽装鎧に身を包み、大きな剣を背にかけていた。

 その隣には宝石が埋め込まれた杖を片手に持った女性。

 2人とも20代ぐらいだろうか、若干顔には幼さが残っている。


 「えぇ、牧師をしていますシグナスと申しますが……いかがなさいました?」


 じわじわと襲いかかる睡魔に耐えながら話を返す。


 「この町に来る途中で仲間が魔物に……」


 話を切り出したのは女の方で、辛いのか途中で咽び泣いてしまう。

 それを見て何が起きたのか理解できた。

 

 「無理しなくてもいいよ、ドロシー……後は僕が話すから」

 「ありがとう……アルス」

 

 男が自分の方へドロシーと呼ばれた女を抱き寄せる。

 なるほど、男の方はアルスというのか。


 「辛かったですね……ちなみにお仲間のご遺体は?」

 「この町につながる森の外れに……すみません、私たちこういうのが初めてでどうしていいのかわからず」


 目尻に涙を溜めながら返してくるドロシー。

 補足するようにアルスが僕たち最近になって始めたばかりの冒険者だと話していた。


 「わかりました、いつまでも薄暗い森に残しておくのは寂しいですからね……すみませんがご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 「それじゃ僕が、ドロシーは休んでて」


 アルスの言葉にドロシーは黙ったまま、コクリと頷く。

 

 「よかったら教会の中でどうぞ、何もない寂しいところですが……」


 ドロシーと一緒に礼拝堂の中へと入ると、カレンがいつもの身軽な格好で談話室に入ろうとしていたので声をかけ、ドロシーを見るように伝える。


 「わかりました、先生も無理しないでくださいね」


 カレンに礼を言ってから再び外へと出た。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 「歩きながらでいいのですが、状況をご説明頂いてもよろしいですか?」

 「え、えぇ……」


 トライアンフの町の周辺にはそこまで凶暴な魔物が出たという報告は来ていないが、万が一ということもあり得る。

 もし、これまでにいなかった魔物がでるようであれば、自警団にも報告して警戒を強めてもらうこともできる。


 「僕たち、この街道をずっと歩いてきたんです」

 「もしかしてスティード港から……?」

 「そうなんです」

 「相当距離があっただろうに……これが若さってやつなのか」


 ちなみにスティード港というのはトライアンフからつながる街道の終点にある港のことだ。

 大人の足でも2日はかかるほどの距離のため、トライアンフからは定期的に馬車が往復している。


 「途中で道に迷ったこともあり、夜になってしまったので、野宿をすることになったんです、魔物に見つからないようにするため、森に入ったんです」

 「まあ、そうなるよね……」

 

 流石に隠れるところもない街道のど真ん中で野宿なんかしたら魔物や野盗に襲ってくれと言ってるようなものだしな。


 「それで、見張りを交代ですることになり、僕の次がセレス……亡くなった子が見張りをするので僕は横になったんです、相当疲れてたのかすぐ寝ついちゃって……」


 いつ魔物が襲ってくるかわからないからすぐに寝れるのはいいことだと思うと返した。


 「どのくらい経ったかわからないですが、ドロシーの声で起きたんです」

 「その時のドロシーさんは何と?」

 

 

 アルスはその場に立ち止まった。


 「ドロシーは体を振るわせながら『セレスが死んでる』と言ってきたんです」


 そう言ってアルスは体を振るわせながら少し離れた先にある大きな木を指さした。

 その木の根にもたれかかっている人の姿があった。


 「なるほど……」


 アルスたちの仲間であるセレスの遺体があるところまで足を運んでいくと

 遠くではわからなかったが、セレスの顔は命が尽きる最後まで怯えていたであろう、恐怖に歪んだ顔をしていた。


 「うぅ……」


 その様子を見たアルスは口元を抑え、その場にしゃがみ込んでしまっていた。

 こればかりは慣れだから仕方ないか……

 

 誰もが羨ましがるほどのスラッと腰まで伸びた青い髪。恐怖に怯えていなければ綺麗な顔立ちをしていたのだろう。

 服装はどこかでみたことあるような……


 「ちなみに彼女の職業は?」

 「……見習いの僧侶です。 大聖堂に行くことを目的としていました」


 アルスはずっと下を向きながら説明してくれた。

 なるほど、白と青の法衣を着ている理由に合点がいく。


 「大聖堂か……」


 大聖堂というのは俺やセレスのような聖職者をまとめる組織のことだ。

 この道を志すものであれば一度は行かなければならない場所でもある。

 俺が行ったのはかれこれ……年を感じるからやめておこう。


 「……それにしても変だな」


 セレスの体を見ていくが、外傷が何一つも見当たらなかった。

 できることなら服の中も確認したいが、亡くなったとはいえ女性であることには間違いないので躊躇ってしまう。


 「カレンも一緒に来て貰えばよかったか……」


 さすがにこの姿をみたらいくら気丈なカレンでも先ほどのアルスと同じようになってしまうだろう。


 「さすがにこのままにしておくのはよろしくないか……」


 持ってきた顔当てをセレスの顔にかけると、亡骸を抱える。


 「それじゃ、戻りましょう」


 まだしゃがみ込んでいるアルスに声をかけると、逆方向へと歩き出していった。


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お読みいただきましてありがとうございます。

6話を本日の18時頃に公開いたしますので、お楽しみに!


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