第4話 助けた少女のいきさつ
「先生……! ご無事でしたか!」
酔いと疲れた体に鞭をうちつつ、なんとか教会まで戻ってきた。
帰る頃には空が若干ではあるが明るくなっていた気がする。
教会の扉を開けて中に入ると、礼拝堂の椅子に座っていたカレンが私に気づき、すぐに俺の元へやってきた。
——やってきただけならいいんだが。
「ぐおっ!?」
来るや否や俺の体に抱きついてきた。
それだけならよかったが、力が入りすぎて変な声が出てしまう。
「か、カ……レン!」
必死に声を絞り出して名前を呼ぶと、カレンは「はっ」と驚いた声を出し、すぐに俺の元から離れる。
「し、失礼しました……先生の抱き心地じゃなくて、心配でつい」
コホンと咳払いをするカレン。
「それで、あの少女は?」
「……あちらにいます」
話の話題を変えるとカレンは少しムッとしながら談話室の方を指していた。
「夜も遅いので寝ても良いとお伝えしたんですが、『パパ』が帰ってくるのを待ってるって……」
状況を説明してくれるのはありがたいが、何故か『パパ』の部分に力が入っていた。
考えすぎなんだろうか……?
「それじゃ後は俺が話すからカレンは休んでくれ、疲れて——」
「いえ、大丈夫です、私も一緒に行きます!」
子供のようにムキになって答えるカレン。
こうなると抑えることが難しいので、彼女と一緒に談話室へ向かう。
談話室のドアを開けると、すぐに少女の姿が目に入る。
ボロボロのローブを纏ったまま、暗い表情のままずっと下を向いていた。
さっきは暗かったのと、あの状況下のため確認することができなかったが、改めてみると幼い顔つきはもとより、華奢な体躯がより一層幼さを醸し出していた。
「あっ……」
俺たちが入ってきたことに気づくと少女はか細い声を上げながら顔を上げる。
「よかった……」
俺の顔を見て安心したのかさきほどまでの表情が明るい顔へと変わっていった。
「心配してくれたのか、ありがとう」
礼をいいつつ、俺はテーブルを挟んだ対面の椅子に座る。
ちなみにその隣の椅子にカレンが座っていた。
「君は俺のことを知っているみたいだけど……どこかであったことあるのかな?」
あの時、この子は俺のことをパパと呼んでいたが、正直見覚えがなかった。
そもそも、結婚もしていないので、子供もいなければ妻もいない。
付け加えるなら、子供が出来上がるような行為自体もした覚えがない。
思わずため息が出そうになってしまう。
「クレア……」
「うん?」
俺の質問後にしばし沈黙が流れていたが、かき消えそうな声で少女は沈黙を破る。
「私、クレアっていいます……お、お母さんはシャーリーっていいます!」
先ほどのか細い声が嘘かのように今度は力強くはっきりと答えるクレア。
「シャリーってまさか……」
この子の母親の名前を聞いて、過去の記憶が一瞬にして蘇る。
「先生?」
黙る俺に声をかけるカレン。心配そうな表情で俺をみていた。
「大丈夫だよ」
深呼吸してからカレンにそう話すと、再びクレアの顔を見る。
どうやら俺が黙り出したことでこの子も心配しているような表情を浮かべていた。
「そ、それでお母さんは……元気かい?」
2人を心配させたくなくて、思いついたことをクレアに問いかける。
ただ、その直後にクレアの顔が曇ってしまう。
「……殺され…………ました」
言葉を詰まらせながら答えるクレア。
次第に我慢できなくなったのか、涙が彼女の頬を伝って流れていく。
「一体誰に……!?」
「…………白い鎧を……それに……お花が」
「白い鎧に花……」
クレアの言葉を反芻する。
「いや、まさかな……」
思い当たる節はあるが、確実にあっているか自信がなかったため、口に出すのはやめておいた。
それからもクレアはずっと泣いていた。
その姿を見て見て俺は居た堪れなくなってしまう。
「カレン、この子を部屋に連れていってくれ、それと君もそろそろ休んだほうがいい」
談話室にある窓から眩しいぐらいの光が差し込んでいた。
帰ってきた時にはうっすらと明るかった空が今は完全に青空が広がっている。
「先生はどうなさるんですか?」
「朝の礼拝もあるし、少し1人で考えたいしな」
ほぼ徹夜に近い状態なのに、眠気は一切なかった。
クレアの話や礼拝で気が張っているのかもしれない。
休むなら礼拝が終わってからにしよう。
「先生、あまり考え込まないようにしてくださいね、もし辛くなったらいつでも話し相手になりますから」
そう告げたカレンは椅子から立ち上がるとクレアの元へ駆け寄る。
「先生が望むなら一晩夜をお供しますよ」
咄嗟にでてきたカレンの言葉に驚いて咽帰ってしまう。
「バカなことを言ってないで、早く休みなさい……」
「……事実なんですけど」
ため息混じりに答えるとカレンはブツブツと何か言いながらクレアの手を取って談話室を出ていった。
「……俺はもう一度過去と向き合わなければならないのか」
2人がいなくなった後、独りごちる。
「神はまだお許しにはならないか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その後は毎朝の礼拝をそつなくこなし、町の人たちが全員帰ったのを見計らって外に出た。
冬の冷たい風があたり、いつもなら体を震わせるところだが今日に限っては心地よく感じていた。
一睡もしていないので、感覚が変になっているのかもしれない。
「俺も少し休むか……」
そう思い、教会の中に入ろうとすると……。
「あの、神父さんでしょうか?」
声をかけられ、振り向くと目の前には2人の男女が立っていた。
鼻につく匂いを漂わせながら……。
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【あとがき】
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