第3話 救出した少女は俺の……?
「女の子……!?」
暗闇の中から姿を見せたのはボロボロの布を纏った少女だった。
腰まで伸びた銀色の髪に頭頂には赤色のカチューシャを身につけていた。
こんな時間なので顔までははっきり見えなかったが、見た感じからカレンよりも年下ぐらいだろうか
髪を整えていれば綺麗に見えるのかも知れないが、今は四方八方に乱れている。
長い間この森で歩き続けていたのか、それとも——
「あっ……!」
少女は顔を上げて驚いた顔で俺を見ていた。
そしてすぐに……
「おと……うさん!」
今にも消えそうな声でそう口にすると、そのまま俺に抱きついてきた。
「ちょ、ちょっとまて!」
驚きのあまり、自分でも驚くほどの声が出ていた。
抱きついてきた少女はそれに驚くこともなく俺の体を抱きしめていた。
「……先生?」
その横で、カレンがこれまでに聞いたことのないほどの低い声で俺の名前を呼んでいた。
何か、体が震えてきたんだが……
恐る恐るカレンを見ると、さきほどの声とは真反対の笑顔を浮かべていた。
「まさかとは思いますが、隠し子とかではないですよね?」
「違う違う! 神に誓ってもいいぞ!」
そもそも結婚したこともなければ約束した相手もいない。
考えるとものすごく悲しくなってくるが……。
「それじゃこの状況をどう説明するんですか……?」
「そんなの俺が——」
ため息混じりに返そうと思ったが、背筋が凍るような殺気を感じ、口を紡ぐ。
「先生、どうしたんですか?」
「……囲まれている」
小声で答えると、カレンは周囲を見渡していた。
「いち、に……5人ぐらいか」
「もしかして昼間の野盗が仕返しに?!」
「それだったら楽なんだけどな……」
こちらに向けてくる殺気は昼間の野盗とは比べものならない。
油断してるとこちらが押しつぶされそうになるんじゃないかと思うほどだ。
「カレン、俺が攻撃を始めたらこの少女を連れて逃げろ」
「いえ、私も——」
「——実力はあっちの方が上だよ」
俺の言葉にカレンは黙ってしまう。
正直俺でも対抗できるからわからない。
……全盛期の頃だったら、カレンや少女を守りながら戦えたかもしれないが。
「先生……」
「どうした?」
「……まさかと思いますが、自分の命を犠牲にするなんて考えてはないですよね?」
「安心してくれ、俺はこんなところで死ぬつもりはない」
まだまだ、やりたいことだってあるし。
それに、この子との約束もある。
「わかりました……」
カレンはかき消えそうな声で答えると、俺に抱きついていた少女の手を取っていた。
「えっ……」
少女は驚いた顔でカレンの顔を見ている。
「それじゃ行くぞ……!」
俺は勢いよく両手を合わせて詠唱し始め、終わると同時に両手を地面に押し当てる。
その瞬間に地面が膨れ上がりバーンと大きな声を上げて破裂すると、土が周囲に舞い散っていく。
「先生……ご無事で!」
カレンはそれだけ告げると少女の手を引っ張って入り口がある方へと走っていく。
それに合わせるように俺たちを囲っていた全身、漆黒のローブを纏った連中が一斉に姿を見せた。
「させるか……!」
俺は雷の魔法、サンダーボルトを唱えると、標的となった相手はその場で倒れ込みのたうち回っていた。
サンダーボルトは相手の体に電撃を走らせて苦痛を与える魔法で、魔力次第ではそのまま死に至らしめることも可能だ。
今回は足止めができればいいので、魔力は抑えめにしていた。回復まで時間はかかるが死に直結させるまではならない。
仲間がやられたにも関わらず残った連中は倒れた相手に掛け合うことや怖気付くこともなくこちらへと襲いかかってくる。
「……これぐらいでおとなしくさせるのは無理か」
昼間襲いかかってきたような野盗であれば怖気付いて逃げていくか、仲間を心配するもんだがコイツらにはそれがない。
「短期集められた傭兵連中か?」
そう言った連中には自分本位で仲間意識がないため、一緒に戦う人間がやられたとしても気遣うことはない。
むしろ、その分の報酬が増えるから喜ばしいことだ。
——そうだとしても、1人の少女のため金のかかる傭兵たちまで使うだろうか。
そんなことを考えているうちに、俺の頬に熱を帯びた感覚を覚える。
手を頬に当てると、その部分が赤く染まっていた。
ナイフや矢といった投擲具がかすったようだ。
その直後に、風を切る音が聞こえてきた。相手がそういう攻撃をするのがわかれば対処は可能だ。
「バリアフィールド……!」
障壁魔法で自分の周りに薄い壁を発生させた。
全ての攻撃を防ぐのは無理だが、投擲具や魔力の低い魔法なら防ぐことは可能だ。
自分たちの投げた武器が弾かれたことで障壁系の魔法を使われたことに気づいたのか、一斉にこちらへと襲いかかってきた。
それぞれの手には剣や斧など武器。
「相手が障壁魔法を使うってわかったらそうなるよな……」
むしろ俺はそれを狙っていた。
連中が一斉に各々の武器を勢いよく振り落とし障壁に触れると、全員ガクガクと体が震わせながらその場に倒れ込んでいった。
「ふぅ……なんとか成功したな」
障壁魔法を発生した直後にサンダーボルトを帯びさせていたので、触れた瞬間に武器から電撃が体に伝わり痺れたというわけだ。
先ほどのサンダーボルトと同じように魔力を抑えているため、死に至ることはなく数時間もすれば痺れも消えるはずだ。
「念の為、拘束だけしておくか」
帰って自警団に連絡しておけば連行してくれるはずだ。
そう思い、行動に移そうとおもっていた矢先。
「なっ……!?」
——倒れていた連中の体がドロドロと溶け出していった。
しかも合わせるように5人全員が一斉に。
数分もしないうちに連中の姿はなくなり、その場に残ったのは俺だけになった。
「……どうなってんだよ」
俺は状況が理解できず、その場で立ち尽くすことしかできなかった。
「とりあえず帰るか、カレンが心配してると思うし」
帰ったら痛い思いをするのだが、そうなることをこの時の俺はまだ知らないのだった。
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【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
第4話を18時頃に公開いたしますので、お楽しみに!
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