第2話 強いのはどっち……?
「ぐぇええええ!?」
「何だこの女めちゃくちゃつえーぞ!」
「単なる牧師だから簡単だなんて言ったやつ!」
カレンが剣を抜き、盗賊たちへと切り掛かっていくと、先ほどまでの威勢はどこへいったのか、野党たちは叫び声を上げていた。
1人は持っていたナイフを吹き飛ばされ丸腰状態。
その様子を後ろから見ていた1人は足の脛を斬られ、地面にのたうち周っている。
「お、おまえら! 女相手に情けねえぞ!」
野党の中でも一番逞しい髭を生やした男が仲間たちに声を上げる。
見た感じからしてコイツがリーダー格なのかもしれない。
……情けないと言っておきながら、自分はジリジリと後ろに下がっていた。
「そ、そうだ! その凶暴女じゃなくてこっちの男を捕まえろ! ボーッとしてるから簡単に捕まえられはずだ!」
リーダー格の男の言葉に2人の野党が一斉に俺を睨みつけるように見ると、すぐさまナイフをこちら向けながら近づいてくる。
「どうしたものか……」
考えているうちに2人の野党は俺を囲うように前と後ろに立ち、いつでもナイフを刺すことができると言わんばかりにこちらへ刃先を向けている。
「ガハハ! どうやら怖くて叫ぶこともできないようだな! そこのお嬢ちゃん! 仲間を殺されたくなければ剣を捨てて持っているものを全て——」
「——甘いですね」
カレンの言葉にリーダー格の男は大きく目を開けていた。
「な、何だぁ!? ハッタリか! い、いいのか! 言うこと聞かないと男の命は!」
「むしろやれるものならどうぞ」
カレンは動じることなくはっきりとした口調で返していた。
「ぐぅぅぅぅ! おまえらやっちまえ!!!」
リーダー格の男が大声を上げると、俺の前後にいた野党が一斉にナイフを突き刺すために走ってきた。
「……立場上、戦いはしたくないんだけどな」
ため息をつきながら近づいてくる男たちに向けて、指を2人の野盗たちに向けた。
「うぎゃああああああああ!」
「ぐおおおおおおおおおお!」
その直後に近づいてきた野盗2人は突如その場に倒れ、狂ったかのように暴れ出していった。
どうやら恐怖を見せる魔法が成功したようだ。
「お、おい! おまえらどうしたんだ!?」
その様子をみたリーダー格は震えた声で声をかけようとするが……
「ひぃぃぃ!?」
リーダー格の目の前に立ちはだかる俺とカレンの姿を見て、その場にへたり込んでしまう。
そこまで恐ろしい見た目ではないんだけどな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……これでいいんですか?」
心地良さそうに眠る5人の野盗を見て、カレンが不満そうに声を上げる。
「ぐっすり眠っているんだし、いいんじゃないかな?」
「これ以上悪さしないように全員の腱を切ってもよいのでは?」
「ただでさえ寒いのにこれ以上震え上がりそうなこと言わないでくれ……それに見た目は心地良さそうに眠ってるけど見てるのは悪夢だから」
「ナイトメアの魔法ですよね? 結構高度な魔法と聞いていますけど……」
カレンは驚きの様子で俺の顔を見ている。
「それは気のせいだよ、俺のようなダメ人間でも使えるんだし」
「……先生がダメ人間なら世の中の大半がダメ人間以下になってしまいますよ」
そうため息混じりに返したカレンはトランクバックを取り、先へと進んでいった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お待ちしていました、シグサスさん」
キムコ村についたのは昼を過ぎていた。
本当であれば昼前に到着して礼拝を終わらせてすぐに戻ろうと思っていた。
「お出迎え感謝いたします」
村の中に入ると、キムコ村の村長さんに出迎えられた。
いつもなら、そのまま村の中にある小さな礼拝堂へと向かうのだが……。
「これからお昼を頂こうかと思っていたんですよ、シグナスさんたちもいかがでしょうか?」
和かな表情でこちらを見る村長さん。
ずっと山道を歩いてきたため、正直言えば腹の虫が悲鳴をあげそうになっていたため、村長の言葉は嬉しい。
だが……
「……先生、わかっていますよね?」
俺の横でカレンがずっと睨みつけていた。
これは決して食べることが悪いといっているのではない。
「今回は大丈夫だと思う……たぶん」
そう答えるもカレンはずっと俺の顔を睨んでいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……先生、大丈夫ですか?」
「あぁ……さっきよりはマシだな」
頭を抑えながらゆっくりと体を起こす。
「……カレン、どれくらい寝ていた?」
「2時間ぐらいですね」
「通りでこんな真っ暗なはずだよな……」
頭の中へ響く痛みに耐えながらゆっくり顔を上げると宵闇の空に無数の星空が広がっていた。
村長の家でお昼を頂いてから礼拝を行ったまではよかったが、気がついたら村長を含め村人との酒盛りが始まり、気がついたら俺も参加することに。
逃げ出すように酒盛りの場を後にしてきたのはいいが、山道を降っている途中で酔いがまわってしまいこの場で倒れ込んでしまった。
「先生は少し、断るってことを覚えたほうがいいと思います」
勢いよく燃え上がる焚き火へ落ちている細い枝を焚べながら答えるカレン。
「仕方ないだろ、人の善意を無碍に断るわけにもいかないしな」
「だからといって悪酔いするまでお酒を飲み続けるのはどうかと思います。それに先生は神の教えを伝える牧師なんですから——」
「——帰ってから聞くから正論は勘弁してくれ……」
そう言って俺は、もう一度体を倒した。
さっきは気づかなかったが、俺の頭が置かれていた部分に見覚えのある小さなクッションが置かれていた。
たしかこれは、カレンのトランクバックに入っていたような……。
「カレンが置いてくれたのか?」
「そうですよ」
「そうか……ありがとう」
礼を言うと、さっきまで不機嫌だったカレンの表情が和らいでいく。
「……もう少し休んだら出発しますよ、明日の朝も礼拝があるんですから」
すぐにいつもの険しい表情へと戻っていった。
しばらくして頭に響いていた痛みもなくなりかけてきたので、出発することにした。
時計がないので、正確な時間はわからないが、寒さからして真夜中であることは間違いなさそうだ。
目の前へと視線を向けると、深い闇に包まれていた。
「カレン、焚き木に使っていた木の枝残っているか?」
「少しでしたらあります」
そう言って、カレンは束ねていた木の枝を渡してきた。
これなら何とかなりそうだ……。
「……はっ!」
カレンから束ねていた枝を受け取ると、手に力を込める。
枝の上部がチリチリと音を立てて燃え出していく。
「なるほど、松明がわりですね」
「あぁ、そんなもたないと思うけど木の枝ならたくさんあるしな」
俺が地面に落ちている枝を指差しながら話すとカレンはハイ!と元気よく返事していく。
「それじゃいくとし——」
出発しようと思った矢先、後ろでパキっと何かが割れる音が聞こえた。
俺とカレンはすぐに音がした方へと顔を向ける。
「……ケモノでしょうか?」
「この時期は冬眠してると思うから、違うとおもうけどな」
「もしかして、昼間の野盗が……?」
「悪夢を見せられて、こちらに仕返しをしてきたら相当な精神の持ち主だけどな」
カレンと緊張感のかけらもない話をしていると、音を鳴らした主が姿を見せてきた。
そこに現れたのはケモノでもむさ苦しい野盗連中ではなく……
——1人の少女だった。
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【あとがき】
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