今日も秘境人は逞しく生きています。

髙龍

第1話

人が住むには厳しい秘境に都会の喧騒に疲れた老夫婦が住んでいた。

鶏の鳴く声で起きるのが2人の朝の決まりだった。

「婆さんや。今日もいい天気だぞい」

そう言って爺さんはカーテンを開き婆さんに話しかける。

「本当ねぇ。秋も深まってここから見える景色は絶景ね」

窓から見えるのはすっかり紅葉した山の姿だ。

都会と違い清んだ空気を吸い込むだけで元気が湧いてくるようだ。

「婆さんや。朝の仕事に行ってくるぞい」

「きぃつけてねぇ。もう歳なんだから」

「わぁってるよぉ」

そう言って爺さんは朝の仕事に向かう。

飼っている家畜の世話をして畑仕事をする。

言葉で言えば簡単だがどれも重労働だ。

だが、家畜も野菜も秘境で暮らすには必要な物だ。

爺さんは手慣れた手つきでてきぱきと作業を進めていく。

爺さんが一仕事を終え、家に戻ると家の中には美味しそうな匂いが立ち込めている。

「今日のご飯も美味そうだなぁ」

「爺さんが好きな物作ったからたんとおたべぇ」

爺さんは手を洗うと待ちきれないと言わんばかりに食卓に着く。

「もう。いい歳だってのにぃ。子供みたいなんだからぁ」

「だってよぉ。婆さんの手料理は美味いんだからさぁ」

爺さんは婆さんの作る料理が大好きだった。

そこには婆さんの愛情がたっぷりと入っているからだ。

爺さんはガツガツと婆さんの作った料理を食べていく。

婆さんはそんな爺さんをお茶を淹れながら見ていた。

食べ終えた頃にすっと適温になったお茶を爺さんに差し出す。

「いっつもわるいなぁ」

そう言って爺さんは「ずっずっ」とお茶を飲む。

「今日はどうすっぺ?」

「うん?今日は天気がいいっぺからなぁ。あいつらもくるじゃろ」

「そうねぇ。なら昼ご飯でも作って待ってるっぺなぁ」

「ほんなら。畑から野菜とってくるっぺ」

そう言って爺さんは畑に収穫に向かう。

婆さんはその間に自分のご飯を食べ、食器洗いを済ませていた。




「こんぐらいあれば足りるっぺ?」

そう言って爺さんは籠いっぱいに入れた野菜を持ってくる。

「こりゃまたいっぱい採ってきたなぁ」

「きっとここに来るまでに腹空かせてるっぺ。いっぱい食べさせてやんなきゃなぁ」

「それじゃ。気合を入れなきゃいけないっぺなぁ」

婆さんはそう言って料理に取り掛かる。

「わしゃ。ちょっと薪でも採ってくるっぺ」

「きぃつけてねぇ」

爺さんはそう言って別の籠を持って山に向かった。




日が中天に差し掛かった頃、「わんわん」と犬の鳴き声がする。

爺さんは犬の鳴き声がした方向に向かうと見慣れた二人組に遭遇した。

「ようきたなぁ。山道は大変だったろぅ」

「はは。毎日のように来てるんだ。もう慣れたよ」

二人組はそう言うが額からは汗がだらだらと垂れている。

「婆さんが昼ご飯を用意して待ってるっぺなぁ」

「それはありがたい。もうお腹ぺこぺこだよ」

「そうねぇ。時子さんのご飯は美味しいから」

「それじゃ。戻るっぺよ」

そう言って爺さんは二人と1匹を連れて家に向かった。




家では婆さんが準備万端で待っていた。

「待ってたっぺ。疲れただろぅ。麦茶でも飲みいねぇ」

そう言って婆さんは3人に麦茶を出す。

「はぁ~。生き返るぅ」

「ほんとねぇ」

「それじゃ。ご飯持ってくるっぺ。少し待ってぇなぁ」

「手伝うっぺよ」

そう言って爺さんと婆さんは協力して料理を運ぶ。

「わぁ。ごちそうね」

「そうだね。そうだ。これ持ってきたんだ。2人共、好物だっただろ?」

そう言って取り出されたのは芋ようかんだった。

「わざわざ悪いわねぇ。後で食べるっぺよ」

4人で婆さんが作った料理を食べつつ雑談に興じる。

これがこの4人組の日常だった。

時間はあっという間に過ぎ3時となる。

「それじゃ。そろそろ帰るよ」

「気ぃつけて帰るっぺよ」

「また来るよ」

そう言って2人は帰って行った。

「さて。残りの仕事を片付けるっぺ」

そう言って爺さんは畑仕事に向かう。

婆さんは後片付けをしつつこんな毎日にが続けばいいなと思っていた。

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