攻略対象全員がタイプではなかったので、バッドエンドルートに進んで大変です

仲仁へび(旧:離久)

攻略対象全員がタイプではなかったので、バッドエンドルートに進んで大変です



 私は乙女ゲームの世界に転生したらしい。


 それが分かったのは、生まれ育った村や近隣の町の名前が、前世でやっていたゲームの情報と同じだったから。


 それだけならまだ偶然だと片付けられたかもしれないが、世界観とか歴史とかも同じだったので、気のせいじゃすまなかった。


 あの時は、ゲームの世界に転生なんて、本当にあるんだと、驚いた。


 そんな私は、力のある人間に生まれ変わったらしい。


 前世はモブだったのに、今世では才能に恵まれたらしく、努力すればするほど力が伸びた。


 そういうわけで、目一杯力を伸ばした私は、18歳になるまでなんやかんやのドラマがあったけど。


 本当に色々あるけど、それらの説明は省くことにするわ。


 だって今、大変なところだから。


 私の目の前で、世界が滅亡しそうになってるんだもの。


 なんかヤバそうな黒い正気を放つラスボスが、大爆発寸前と言った感じで膨らんでいる。


 これはやばいわ。


 とってもヤバいわ。


 転生した私は、いずれ訪れる世界の危機を何とかするために、たくさん力をつけてきた。


 だって、私が前世でやっていた乙女ゲームではキャラクター攻略の他に、いずれきたる災厄ーー(世界滅亡)をなんとかするのが最終目標だったし。


 そういうわけで。


 乙女ゲームのラスボスである邪神の弱点や居所を調べ上げ、最終決戦の場所である、なんか邪悪な城で戦っているのよ。


 目の前で、私が鍛え上げた聖なる力と、ラスボスの邪悪な力が危ない感じでバチバチしてるわ。


 でも、まさかこんな事になるなんて想定外。


 だって、ラスボスが最後に自爆するなんてーー。


 それはきっと、攻略対象達を攻略しなかったのが原因ね。





 私は攻略対象の一人である脳筋剣士を見つける。


 彼はとっても脳筋で細かい事は一切考えない人間だ。


 私がラスボスを倒す旅を計画して、国のお偉いさんたちにかけあいパーティーを組んだ時に、なぜかメンバーインしてきた脳筋。


 いや、良い奴ではあるのよ。


 本当に、ちょっと考えが足りなくてえっと。なんていうか。迷路の壁を壊して進むような人間だけど。


 困っている人は見捨てないし、いつも圧倒的な力で道を切り開いてくれるから。


 でも、私のタイプじゃなかったのよ。


「やべぇ、これどうすればいいんだよ」


 私は慌てている彼から視線を外した。





 次に見つめたのは、孤高の狩人。


 二人目の攻略対象。


 いっつも一人でいて、物静かで、喋らないから何を考えているのか分からない。


 私が話しかけても「かまうな」「うるさい」の言葉しか言わないのよね。


 距離感が遠くて、仲良くなるのも時間がかかるし、パーティーを組んだ時はストレスだったわ。


 こいつ集団行動に向かないなーーと、何度思ったか。


 まあ、一人が好きな人間に、無理に大勢でいるパリピになれって言うのは酷だし。


 向き合わせた結果ネジとかたかが外れて!イェイイェイ!ウォウウォウ!な感じになっちゃったら困る。


 そういうのに向いてないなら仕方ない事よね。


 生まれ持った性格はなかなか変えられないだろうし。


 パーティーメンバー決めた奴が悪い。うん。


 だけど、こんな奴でも仲間と認めた奴には情に厚い。


 危機的状況に陥って、自分だけ逃げられるってなった時も、私達を見捨てずに助けてくれたし。


 もうちょっと喋れこんちくしょうとは思うけども、良い奴よ。


「これはまずい事になったな」


 しかし私のタイプじゃない。







 視線を外した私は、笑顔の魔法使いを見つめる。


 彼が三人目の攻略対象だ。


 何を考えているのかよく分からないのは、狩人と同じだけど。


 この人はもっとよく分からない。


 シリアスな状況でギャグを言ったり、楽しい会話をしている時に、怖い事をぼそっと言ったり。


 もうすぐ眠るって時に怪談しゃべらないでよ。


 眠れなくなるじゃない!


 だけど、彼も良い奴なのよ。


 彼は、彼自身が以前所属していた魔法協会をとても大事にしていて、数百人もいるメンバーの名前を全員覚えている。


 私達に協力してくれた市民や騎士団の人たちの顔と名前も。


「僕たちには責任がある。命の優先順位はつけなければならないけど、だからといって死んでいった者達をないがしろにはしたくない」


 こんな事を言う奴なんだから、悪い人間なわけがない。


 ミステリアスで掴みどころなくて、いまいち考えている事が分からないとしても、私達と根本的な部分は変わらない。


 何を大切に思うか、何を大切にしているか、とかね。


 でも、タイプじゃないのよ……。






 だから攻略失敗でバッドエンドルートに入ってしまったのかもしれない。


 ゲームでは画面に「攻略失敗」の文字が表示されて、ストーリーが途中で終わるだけだったけど、現実ではそんな事はありえない。


 だから、ラスボスがこうなってるってわけ。


 目の前のラスボス、めちゃくちゃ膨らんでる。


 空気一杯詰め込んだ風船みたいになってる。


 たぶんあと数分もしない内に破裂して、自爆しちゃうわ。


 ただ破裂するだけじゃなくて、なんかこう邪悪な力をばら撒いて、私達を道連れにするつもりね。


 それを証拠にほら、なんかヒビが入ってきた体の亀裂から、まがまがしいオーラが漏れ出てるもの!


 本当困ったわ。


 私は皆に死んでほしくないのよ。


 転生しておまけのような人生だと考えているけど、私が経験した2番目の人生だって本物。


 苦楽を共にした仲間を死なせたくない。


 こうなったら、最後に魔力を全て解放してラスボスにぶつけてやる!


 それをすると、なんかすごい理論で命が危なくなるみたいだけど、躊躇ってる暇はないわね。


 私は、ラスボスへ向かって一歩進んだ。


 しかし。


「お待たせっぴ。僕の出番だっぴ」


 その寸前、ラスボス戦で最初にやらえて倒れていた、マスコットがやってきた。


 さっきまでフィールドの片隅で目をぐるぐるにしながら倒れていたのに。


 飛び出してきたマスコットは、なんかすごい力を解き放って、ラスボスを倒してしまった。


 さすが私のダーリン。


 私はマスコットに抱き着いた。


 マスコットのふわふわな体毛に顔をうずめて、エネルギーを補充。


 はあ、癒される。


 もう告白しよ。


「愛してるわ!助かったわ!本当ありがとう!」

「や、やめるっぴ。くるしいっぴー」






 私に視線を向ける攻略対象達は、やれやれといった顔でこちらを見つめる。


「あーあ。最後の戦いまでに振り向かせられると思ったのに」

「あの女の趣味が特殊すぎるんだ」

「さすがの僕でもこのエンディングは予想できなかったよ。もふもふな彼氏が好きだなんて、僕たち人間族には無理だものね」


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