第25話 嵐は去っていき、新たな嵐がやってきました!!

 プルルルルル。




「あっ」


 電話が鳴って、柊さんは何かを忘れていたかのように、電話に出る。




「はいもしもし、社長~!」


 社長!? 社長と友達なのか!?


 


「ごめんなさいね、娘に会いに行ってて……はい、今すぐ行きますんで!」


 そう言うと、ボタンをポチっと押して、スマホをしまった。




「私ったら、仕事の事忘れてた!」




 もう、夕方なのに!? これから出社!?


 柊さんは、玄関で靴を履き、ドアを開ける。








「凜、お母さんまだ日本にいるけど、またすぐ出なきゃいけないの。今度はアメリカよ!」




「……!」


 凜の手を握る、柊さん。




「ここなんかよりずっといいし、アメリカはすごいのよ! 大きいし、色々なものがあるし、夢が広がるわ」


「……そ、そうなんだ」


 まだ、凜はその重たい決心をつけられない。


 


 俺だったら、「アメリカ」というワードだけで食いつく。子供からしたら、親が世界を見せてくれるなんて、自分の力なしに……そんな夢の国に行くような思いができるなら――喜んで行くのに。




 凜の、うしろ姿。


 少しうずくまって、なんと返していいかわからない、姿。




 こういう時って、親がちゃんと前へ押すべきなんだろうか。


 凜が止まってしまうのは、俺がいるせいか? 




「凜、俺の事は気にしないで、自分の気持ちで決めていいんだぞ?」


 俺は、凜の肩に手を置いて優しく語りかけた。






「アメリカ――――、すごいじゃないか。俺は行ったことがないけれど、きっとすごいところだ」


 俺は、上を見ながら想像する。




「俺は――ここを離れるつもりはないけれど……凜が行きたいなら、好きにすればいい」


 すると凜は、俺を見た。自分よりも背の高い俺を、見上げ涙を浮かべながら。




「――なんで、そんなことを言うの」


 えっ!?


 いや、なんでって……なんでだろうな。えーっと……。




「俺は、俺ごときで凜に人生棒に振ってほしくないんだよ」


 本当の事だ。凜に可能性を失ってほしくない。


 凜は、頭も良いしかわいいし、何だってできる。








「こんな……こんなおっさんと10年過ごしたくらいで、何でも諦めてほしくないんだよ」






「子はいつか、親元を離れる。それは当たり前の事なんだし。離れていたって、一生会えなくなるわけじゃない」






「凜が、俺に執着する理由なんて……ないだろう?」










「……それは、りゅうに言ってほしくなかった」






 




「……りゅうは、私のことどうだっていいわけ?」


 涙があふれ出すほどに、怒る凜。




「そ、そんなわけないだろう! だけど――――」








「凜はもっと、先の事を考えなさい。俺は、さ……どんだけ頑張っても血のつながってない、偽物なんだから」


 本物になんか勝てっこない。


 だったら足枷は俺が外して、早く飛び立たせてあげたい。




「――――っ」


 ぐすっ、と鼻をすすって、凜は、さらに涙を流す。














「―――――、はあ」


 


 ズ――――――――――ン、と前日よりも凹みにへこんだ、凜を何も言わずに見つめる、優香。


 これはまずい。何かあったとか、そんなレベルじゃない。






「えっと……凜、とりま落ち着こ?」


 朝のホームルーム前。




 やってきた凜は、朝からずっとこんな調子で、優香はどうしていいかわからなかった。


 他のクラスメイト達も、その変化に気付いたようでいつも以上に、視線が鋭かった。




「なんか楽しい話しよっか!? なんだろう……うーんっと、あっそうそう! 課金王マーキドって知ってる!? この人! すっごく面白いんだよ! 昨日絡み始めてね~って聞いてる? 凜?」




「――うん、聞いてる聞いてる」


 絶対聞いてない。








 そこへ、先生が入ってきた。




「みんな、席につけ。今日は、転校生を紹介する。入ってきていいぞ」


 教室の扉を静かに開け、入ってきたのは美少女。


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