第22話 メロメロな娘の、メロメロな告白を俺は聞きます!

「―――、あ」




 凜が、出た。




 凜は少し驚いた様子で、あ、としか言わない。


 これは、たまたま……なのか?




「り、凜! 開けてくれてありがとう! まだピンポンも押してないのに、よくわかったな」


「―――別に、たまたまだよ」


 


 また、そっぽを向く。


 


 そして、自室に戻っていく―――かと思いきや、今日はなぜかリビングに居座っている。


 


 二人で住んでいるのに、四人掛けのファミリーテーブル。その一つのいすに腰掛けて、スマホをいじっている。誰かと、メッセージのやり取りをしているのか、通知が激しい。


 凜はスマホを見て、俺を見て、またスマホを見て、俺を見て――――を、繰り返している。




 全然何をしているのかわからない……でもこちらの方を見るということは、俺にはバレたくないことをしているのか……?


 なんか、ショックだな……。






 とはいえ、凜がここにいるのはチャンス!


 


 久々に何か話せるじゃないか! やはり、親としては突然の娘の代わりように、何か理由は欲しいもの……。




 まずは、簡単で答えやすい話から、切り出すか。




「な、なあ凜! 最近の学校はどうなんだ?」


「――普通」


 低い声で、そう言われる。




「普通って、なあ……もっといろいろあるだろう? もうすぐテストがあるから嫌だな~とか、次の体育はバレーだなとか、ほんとそれぐらいの事でもいいんだぞ? 何かないのか?」




「――特にないかな」




 失敗だ……学校の話題から、あのイケメンに関する情報を抜きだそうと思っていたのに!


 あとは何だ? 親が聞く話題って……。




「……え~っと、最近は誰かに嫌がらせとか受けてないか?」




「大丈夫、優香と優斗が守ってくれるから」


 優香ちゃんはゆるそう! 強いし!


 


 だがしかし山崎優斗お前は違う!! 






「へ、へえ~、そりゃよかったな! もう、俺が守ってやる必要も―――ないんだな」


 って、俺は何を言っているんだ。


 


 でも、本当の事だ。凜は子供じゃない。大人になった。まだ、早いのかもしれないけれど、もう親があれこれ口を出して、守ってやるような年齢じゃない。








「……私は、りゅうが守ってくれるの、すごくうれしいんだよ」






「え?」




 凜から、そんな言葉が出て驚いた。


 凜がこっちを向くことはなく、やっぱりスマホを見ているが―――しかし少し頬が赤くなっている。




「拾ってくれたのが、りゅうでよかった、って思ってるよ」








「だって、私、りゅうのこと―――」


 




 ん???




 りゅ、りゅうのこと――?


 りゅうのことが、なんなんだッ! その先を教えてくれ。


 だが、凜は恥ずかしくなったのかそのまま部屋へ戻ろうとする。 




 ここは―――押してみるか。俺は唾を飲み込んで、凜の手を引いて言う。




「りゅうのことが―――、なんなんだ?」


 至近距離まで近づいた、俺と凜。


 凜の瞳は周りをきょろきょろ見て、行き場を失っている。頬はさらに赤らんで、恥ずかしさが増しているようだった。




「―――凜、ちゃんとこっちを見て」


 またまたそっぽを向こうとする凜の顔を、両頬を両手で掴んで真正面に持ってくる。




「まっ、まって……っ!」


 困ったように、そう言う声は以前よりも数段高く、本当に焦っているように見えた。




「……ごめん、だけど待てない」


 突然の彼氏報告、キスシーン、親のそういうシーンの目撃からの(?)思春期。


 俺は、切実に、ただ理由が欲しかった。俺から離れていくことへの理由が。






「……ちゃんと凜の口で、教えてくれ」




 鼻が、胸が、くっついてしまいそうなほど迫っていく。くっつけばくっつくほど、一つになっていくような、感覚。


 互いの温かい吐息を感じて、相手の息が上がっていくのを感じて。


 


 もう今が、何が何だかわからない。




「っ、……!」


 凜が、前と唇を突きだした。もっちり柔らかな、桃色の、その唇を。俺に献上するかのごとく。








 




 その時。




 ピンポーン。




 と、音が鳴った。

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