第20話 我が家は、新たな展開を迎えそうです!
俺は、何かをミスった。
あの一件から平日へと移った、今日は月曜日。
凜との関係に亀裂が入った。
ベッドは別々。会話は皆無。
毎朝俺は、朝食を作って、行ってきますと言うだけ。
それだけ。
自分でも、どうしていいかわからない日々が続いている。
「……凜、今日はデザート付の弁当だぞ! 凜の好きなチョコケーキを」
「―――ありがとう。行ってきます」
そっぽを向いて、低い声。
「え、もう出るのか?」
俺よりも早く出るなんて、今までなかったのに。
「優斗の家、うちと反対方向なの。一緒に行きたいから、これからは早めに出ることにした」
「――そっか」
まあ、これが普通と言えば普通だ。
普通の親子は、こんな年になってまで、ましてや娘と父親が一緒に寝ることはないし、べったり、くっついていることもない。
普通の、ありふれた、家族になっただけだ。
「凜」
呼びかけると、凜が振り向いた。笑顔はなく。
「何」
「行ってらっしゃい」
「うん」
それだけだ。
「凜、どうしちゃったわけ~っ!?」
優香が、凜の肩を揺らす。土日明けに、なると凜の態度が一変。
今までにこんなことがなかった優香は、驚きのあまり気が動転しそうだった。
凜はというと。
「……なんでもない」
の、一点張り。それ以上のことは、親友である優香には言わない。
しかし、元恋人は違うようだ。
昼休み、二年生の教室にやってきた。
教室の入り口で立ち話をしている女生徒に、王子様スマイルで話しかけた。
「あそこにいる二人に用があるんだが、そこを通してくれないか?」
「え、ああ、はい。どうぞ」
頭から、ハートが舞う。
「優斗来た。行こ」
そう言って立ち上がる凜だったが、優香は立たない。
それどころか、話を聞いていないようだった。
優香は、目の前のスマホに夢中だった。
「あ、凜……ごめんなんだけど、先行ってて」
「? わかった」
凜が教室を出たのを確認してさっきから五月蠅く鳴っていた表示を開く。
開いたのは、メッセージアプリ。
『アイーシャ 日本 行く』
というメッセージ。一ワードごとに、区切られ、助詞・助動詞の含まれていない、文。
そのメッセージに、優香は波乱が起きそうな気がして仕方がない。
「凜、何かあったのか」
優斗は、階段付近のあまり人気のない場所まで凜を連れ出した。
「――その、失敗したって言うか……恋も何も終わってたって言うか」
いやいや、そんなわけないだろう。素人目戦でも、惚れてんの丸わかりだったぞ。どう見ても。
と言いたかったが、そこまではっきり言えなかった。
なんせ、今の凜には自信がない。
どれほど彼女を肯定する言葉を綴っても、聞き入れてはくれないだろう。
「でも、どうして突然……」
「あのあと――帰ったら」
そう言って、凜は事の経緯を離し始めた。
一通り聞き終えた後、優斗の中で一つの答えが出た。
うん、やっぱり惚れている。
「――凜、それは本当に何でもない可能性が高いぞ!」
「……そんなわけないじゃん。あれは絶対―――」
それを思い出す、凜。
「落ち着け、凜。要は、別れさせればいいんだ!!」
明るく、元気に、そう言う優斗。
「「・・・・・・」」
沈黙。
「―――そっか!」
あきらめてバカになる、凜。
「そうだよね、優斗の言うとおりだ! 別れさせちゃえばいいんだ!」
「そうだ! お前には、他のどんな女にも負けない魅力がある! それがあれば、瞬殺だぞ!!」
「うんうんそうだよね、そうだよね!」
「「・・・・・・」」
沈黙。
「あっ」
キーンコーンカーンコーン―――――、チャイムが鳴る。
昼休みが、終わったのだ。
「とりあえず、今日はぱーっと遊ぼう。今日の放課後は何にもないだろう? また教室行ってやるから待ってろ!」
優斗は走り去っていく。
さて、自分も戻ろうか――そう思った時。
「?」
くすくすと、笑う声がどこからか聞こえた。
でも、それは凜に向けてじゃない。
一部だ。一部だが、誰かが優斗を笑うような、そんな視線を寄越す。
なんで、笑っているのかはわからない。でも、何かしらよからぬうわさが流れている。
そのように思えた。
凜は気にせず、教室へ向かうことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます