第19話 なんか色々、最悪です!!
「――――なにそれ」
口を開いたのは、凜だ。
女と、その上にまるで襲い掛かるようにして被さっている、思い人。
遊園地で買ってきた、ぬいぐるみや、お菓子の入って袋が、自然と落ちる。
女の服は少しはだけていて、下着が見える。髪だって、乱れている。
女の顔は赤く、酔っているように見えるが――――龍之介は違う。
いつも通りの顔色で、意識もはっきりしている。
「なにそれ、ねえ、なんなのそれ」
「違うんです! これはたまたま」
「……っうるさい、うるさい! 聞いてないそんなこと!」
ちひろの声をかき消すように、凜は叫んだ。
「凜、ほんとに違うんだ! 俺が転んで……それで」
なんとなく、いつも以上に龍之介があせっているような気がする、凜。
その焦りが、何かを隠している気がした。
「―――ほんとなんだ」
凜が、言葉を漏らす。
「付き合ってんだ、ほんとに」
「付き合ってない!」
龍之介が言う。
「付き合ってないよ! 彼女とは何もない……って言ったら、そうでもないんだけど」
「じゃあ、やっぱりそうじゃん」
嘘が付けない龍之介は、いつだって本当のことを言う。
なにかしら、があるのなら付き合っているだって十分にあり得る。
あんなにも、頑張ると言っていた自分が恥ずかしかった。
もうこの恋は、終わっている。
「それより、凜! 今日の遊園地は楽しかったのか?」
「……楽しかったよ、すっごくね。そっちも楽しかったでしょ?」
厭味ったらしく言えば、龍之介はピクリと反応する。
「知ってるんだよ。その女と、一緒だったでしょ。見えたよ」
「……それは、訳があって……別に恋人とかそういう風な関係だから、行ったんじゃなくて」
「観覧車とか、いろいろ乗ってて……笑い合って、おちゃらけて、楽しそうに見えたよ。ラブラブじゃん。お似合いだよ」
こんなこと、ほんとは思ってるわけじゃない。ラブラブじゃなきゃいい。早く別れろと、はやっぱり言えない。だったら、嫌味を言った方がまだスッキリする。
龍之介もそんなことを言われて、黙っているはずもなく、反論する。
「そっちだって、キス……とかして、ラブラブだっただろ! うまくいってるんだろ! あのイケメン君とは」
凜は、嘘をついた。
「――っそうだよ! ラブラブだよ! キスだって、なんだってするよ!」
「だって私、優斗のことすっごくすっごく、好きだもん!」
「――――!」
言って、凜は後悔した。
龍之介の、顔。何か、何かを感じて悲しむような顔。
どうして、そんな顔をするの。龍之介の顔に引っ張られて、凜は何も言えなかった。
龍之介は、伸ばしかけた腕を引っ込めて、下を向いた。
凜は、自室に走った。
龍之介も追いかけるようなことはしない。
「――八雲さん。私――ごめんなさい」
「いや、ちひろちゃんは悪くないよ。だけど」
「今日のところは、もう帰ってくれ」
そう、静かに言うしかなかった。
しんとして、寒く感じる部屋。
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