第17話 お義父さんは、後輩と決着をつけます!
「……じゃあ、私でいいじゃないですか」
「――――」
「私には、何の良さも感じないかもしれないかもしれないですが、倫理観を揺るがすよりかは、全然いいと思います」
「倫理観だなんて、一体なんのことかな」
「気づいてないとは言わせないですよ」
酒が回って、真っ赤になった顔で睨まれる。
そんな、そんなわけが、無いだろう? 血がつながっていないとしても、娘は娘だ。
10年もの間、一緒に過ごしてきた。娘として、これからも成長をそばで見守っていきたい。
「そんな風に、ごまかそうとしても私には無駄ですから」
「……だって、貴方のこと、好きだもん」
真っ赤かな頬が、さらに赤くなる。
「好きです、八雲さん」
ここが、勝負どころだと彼女は気づいていた。
「負けません。誰にも。貴方を一番好きなのは、私です」
「ずっと見てきました。あの子なんかより、ずっと前から」
「教育係」
「貴方は私の教育係だった」
「何度教えてもらっても仕事……覚えられなくて、でもそんな私を一度だって怒ったりしなくて……」
「その後は、部署変わっちゃったりして一緒にお仕事することは無くなっちゃったけど、けど、今年……ようやくまた会えた」
「あの時は―――」
思い出す。あの頃を。
「あの時は、恥ずかしくて言えなかったけど……もう逃がしません」
本気の目。負けたくない。絶対に。
そう、目で言われる。
しかしそう言った目は、おじさんには熱すぎる。
「……おじさんは、若い子には優しんだよ? きっとそれは、優しくされたから……」
「いいじゃないですかっ! おじさんでも、なんでも―――、好きなもんは、好きなんです! 酔った勢いじゃないと言えないぐらい、弱いけど私それでも、言いたかったんです!」
そう言いながら、ちひろちゃんはパーカを脱いだ。
「ちょっと!? ちひろちゃん!?」
そして終いには、薄っぺらなワンピースをびりびりと破く。上から、下まで破きまくる。
「ええッ!?」
俺はどうしていいのかわからない。止めるためには、彼女の体に障る必要がある。だが、このままどうにもしないままでは―――――。
破れたワンピースから見える、フリルの付いた花柄の、可愛いブラジャーとパンツ。少し汗ばんだ体を、縛りつけるようにそれは付けられていた。
……ち、ちっぱい。
フリルの沢山ついたブラジャーで隠された、胸。
一生懸命に、なんとか、作り上げた谷間。
泣きはらした目で、それを魅せつける。
「……いや、いやいやいや!」
こんなの、付き合ってもいない男女に起きちゃならんことだろ!
俺は、とりあえずで目を隠すことに。
酔っているせいで体を上手く使えていないのか、はあはあ、と息遣いが聞こえる。
「負けること承知で―――――っ、告白、するんですっ!」
「ん? う、うわあッ!」
気づけば俺は、一回り離れた女の子に、泣きながら馬乗りにされていた。そのまま、ブラジャーを脱がんとする、ちひろちゃん。
「そ、それはダメだ!」
俺はとっさに起き上がり、抱き着くような形で制止する。俺はなんとか、ブラジャーのホックを捕まえた。
ちひろちゃんは、俺をぎゅっと抱きついた。冷えていた俺の体に、彼女の火照りが移る。
温かくて、小さくて、息を一生懸命にして。
背中や、肩がぴくぴく動く。それを自分のなかに、感じる。
「―――なんでもいい、体目的だっていい。あなたの、特別がいいんです」
上を向いた彼女。
見下ろせば、ホックの外れたぶかぶかのブラジャーと、それに小さく収まるかわいい胸。
小さなそれが、体に当たる。
「……っ」
俺の細かな反応に、ちひろちゃんはさらに密着して。
「――っ抱いてください、八雲さん」
そう泣きながら言う。
口を開けば口を開くほど、涙腺ももろくなっていく、ちひろちゃん。
こんなふうに、熱烈な告白をされたことなんかなかった。
俺は、気づけば一人の女の子を、泣かせていた。
「あなたが、好きです」
潤んだ瞳で俺を見上げる。
率直にうれしかった。
こんなふうに思ってくれていること。ただいつも通りの事をしていただけなのに、そんな俺をただおっさんというだけで遠ざけず、内面を見てくれたこと。
まっすぐな、その告白は俺を揺さぶるよ。
「―――ありがとう」
でも。
「ごめん」
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