第13話 娘は暴挙に出たようです!

「――りゅうがいた。あの女も」


 逃げた影を、睨むように言う。




「おじさんが? おじさんもチケット持ってたのかな」




「絶対違う。持ってなかったもん。あの女に付け入られて、まんまと一緒に来ちゃったんだよ」


 


 やっぱり、惚れてるんだ。私は、負けてるんだ。


 悔しい、悔しい。あんなの、あんなおばさんの、一体何がいいわけ。


 


 でも、こんな汚い気持ちで、満たされたくなんかない。


 


 大好きな人を、思う気持ちは大切にしたい。




 心の中で、渦巻く。




「案外、凜の事が心配できただけかもよ?」


「……りゅうは、そこまで私のこと好きじゃないでしょ」


 




 いや、んなわけ! と言いたかったが、こちらとしては好都合!






 そう思い、優斗は何も言わなかった。




「な、ホットドッグとか食べない? さっき売ってるの見たんだよ」 


 優斗は、なんとか凜の気を散らす。




「……やだ」


「え、え~? じゃあ、何か乗る?」


「……それも、やだ」


「じゃあ、どうすればいいんだよ~っ!」




 そう言いながらも、全く怒らず、笑って寄り添ってくれる優斗。


 やさしいんだね、優斗って。きっと、私じゃなかったら惚れてたよ。


 


 でも言ってやんない。




「……優斗」


 凜は、おもむろにスマートフォンを取り出した。






「――私のわがまま、聞いてくれる?」


 可愛らしく、下から目線で。












「でも、ちょうどよかったですね。園内のレストランにまで歩いていたら、あっという間にお昼時ですから。何にします?」




「――――」




「……八雲さん?」


「あ、えっと……なんだっけ」


「もう、ちゃんと聞いててくださいよ。はよ、決めろボケナスビが。そう言ったんです」




 上司にその言い方は、といつも通りのツッコミを入れられるほど、現在の俺の精神は安定していない。


 顔を青白くさせている俺を見て、呆れたのか、ちひろちゃんは何も言わずウェイターを呼んだ。




「すみません、このガーリックバターましましビックビックステーキ、1000g二つで」


 


 俺は――――、全く話を聞いていなかった。


 俺の頭は、凜の事でいっぱいだ。






 っ凜、凜、り――――――んッ!


 そいつの何が良くて隣にいるんだ! ていうかいつの間に友達になっていつの間に恋人になってたんだ!?


 


 俺はずっと、知らない凜の一面に驚かされてばかりだ。凜は、そういったことはないのか?


 


 いつもは、俺が髪をとかしてあげたり、服を選んであげるのに、全て俺から取り上げて……彼ぴっぴと連絡を取り合いながら準備をするだなんて!




 


 今日の服装もなんだ!? その媚に媚びるような服装! 


 


 ピンクのフリルニットカーディガンに、ハイウエストのミニスカート。そんなカーディガンを着れば美しい胸が栄えるし、ミニスカートはサービスだ!


  


 父親がこんなことを言うのは、変態と思われるかもしれない! だが、断じて違う!




「俺はいつだって、娘の行く末を案じているんだ!」


「聞いていません、そんなことは」と鋭くツッコミを入れる、ちひろちゃん。


 


 なんだか今日はちひろちゃんが冷たい。


 何か、悪いことでもあったのだろうか。






「……ご飯も食べたことだし、第二戦といこうか」


 俺はそう言って、立ち上がった。




 外へ出て、再び凜を探す。




「でもどうやって探すんです? この広いパークの中で―――もしや、GPSでも……」


「――そのもしやだ」


 俺はちひろちゃんにスマートフォンを見せた。




「うっっっわ」


 結構な具合で、引かれた。焦った俺は。




「いやいや、いまどきは普通なんだぞ。自分からさらしたりするからな、若い子たちは」




 GPSアプリで凜の位置を探す。


 俺たちのいるレストランにズームしていた画面を、少しずつ離していく。


 すると。




「お、見つけた―――――、ん?」


 凜がいた場所は。






「か、観覧車っ!?」




 


 そんなの絶対ダメだあああああああああッ! 




 中の様子が見れない上に、密室空間。


 何が起こってもおかしくない! 一度乗ってしまえば、一周回るまでは降りられないからな。


 俺がスーパーマンになろうが、何しようが、どうしようもできない。 


 




 もし観覧車の中で、ピ―――なことが起こったら。






「正気を保てる気がしないぞっ! 俺はぁぁぁぁぁああああああああああッ!」








「行くぞ、ちひろちゃんッ!」


 俺は、走って観覧車へと向かった。


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