第11話 お義父さんは、娘を尾行します!
「ん~?」
「や、八雲さん! 見ちゃだめッ!」
必死に、目を隠すちひろちゃん。
しかしそんな手は、すぐにどけ、どけられて。
「んえ~? ちひろちゃぁん、もう一軒って……あっ凜だぁ~! ただいっま、凜~」
そう言って、ちひろから離れ凜に抱き着く。
な、まさか―――これが普通!?
この家では、これが普通だというの!? いやいや、そんなわけないじゃない!
八雲さんは、まだ酔いが覚めていない。娘の事も、あんまりよくは見えてないはず。
それにしても―――その顔ムカつくなッ!
自信から離れ、娘に抱き着いたことで私の方が、下だと言いたいの!?
ひとまずは、撤退。
「―――っ一回戦は、負けを認めましょう。また来ます」
ちひろは悔しさを露わにしながら、ドアを閉める。
「ちひろちゃ~ん、また今度遊びに来てね~」
手を振られ、恥ずかしくなりながらも手を振りかえす、ちひろ。
「りゅう、あの人―――だれ」
「んん? ちひろちゃんだよ」
名前呼びが、板についている。
「……ふうん」
「―――りゅう、あの人きっと、りゅうが好きだよ」
「う~ん? 知ってるよ~」
「知ってるッ!?」
凜から聞いたこともないような声に、酔いながらも驚く八雲龍之介(30オーバー)。
凜は知らなかった。義理といえ、これまで10年間共に暮らしてきた父親に、恋人がいたことを。
いや、まだ分からない。知っていて、まだ返事をしていない可能性だって……。
先ほどの女の話しぶりでは、アプローチをしているようだが落とせては、いない……様子だった。
「な、なんで……知ってて、付き合わないの……?」
「んえ~、凜はわかってないな~、おとなのせかいにも~、っひく……いろいろあんだよ~、っひく……ぐへへ。凜~、凜~……ぐう」
そういうとまた、寝てしまった。
大人の世界って、何!? どういうこと!?
付き合ってるの? 付き合ってないの?
好きなの? 嫌いなの―――――ッ!?
大人の世界にある『曖昧』が分からない、凜であった。
土曜日。
凜は、優斗君と共に遊園地に行った。
のだが。
「八雲さん、クレープ食べましょうよ!」
「いや、早く凜たちを追いかけないと……、まずい! 移動した! 行くよ、ちひろちゃん!」
ちひろちゃんの手を引っ張って、遊園地の中を走る。
「……きゅん」
「ん? 何か言った?」
「い、いえ」
後ろからつけて回る、そう俺たちは……尾行している!
こほん……この突然の展開についていけない方もいるだろうから、少し前に戻ろう。
―――数日前。
「……はあ」
二日酔いがキツイ。
やっぱり、呑み過ぎた。仕事をしながら、頭痛と戦う俺。机の上には、コーヒー共におかれた栄養ドリンク。
あの日の記憶が、全くない。それほどまでに、呑んでしまったということだろう。
「八雲さん……」
「うん?」
後ろから声を掛けられ、椅子を回して振り返る。声の主は、いつも通りのちひろちゃん。手には、小さく可愛らしい菓子折りが。
「昨日は大丈夫でした? 私ったら、ご自宅までお邪魔しちゃって……」
「いやいや! 俺が酔いつぶれて寝ちゃったから、謝るのは俺の方なのに……男のくせにかっこ悪いね」
「……いやいやいや、八雲さんはいつもかっこいい……ってそれはどうでもよくて!」
「どうでもよくて?」
最初の方に何か聞こえたような気がしたが、よく聞こえなかったためスルーすることした。
ちひろちゃんは、両手で何かを差し出した。
「いつもお世話になっている御礼です」
そう言って、チケットを一枚差し出した。それは今度、凜と優斗くんが行く遊園地のチケットだった。これは奇跡か! と思いながら、それを貰おうと手を出すと。
スっ、と避けられた。
「え? くれるんじゃないの?」
「もちろん、タダではあげません」
「いつもお世話になってる御礼なのに?」
「ごっほん! これ、実はペアチケットなんですよね~」
「―――それってまさか」
チケットで口元を隠した、ちひろちゃん。それでも目は、ニヤニヤしていた。
まだ、まだ……諦めていなかったのか!? どこにでもいるおっさんの、何にそこまで魅力を感じているんだ!
しかし、背に腹は代えられない。
「―――ならば、こちらも条件も飲み込んでもらおうか」
俺は、ちひろちゃんの両手とチケットを握って、そう言った。
立ち上がった俺は、彼女を見見下ろす。
「へ?」
ちひろちゃんはただ、赤面する。
そして、事態は最初のへとつながっていく。
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