第9話 後輩は親バカ上司より、娘の方がやばいことを知りました!

「あ~ッ! くそ、なんなんだよ! 彼氏って! そんなに彼氏がいいのかよ!」




 酒が完全に回り、酔っ払ったおっさん―――俺は、ちひろちゃんにひたすら愚痴をぶちまけた。ちひろちゃんは、苦笑いでそれを受け止める。




「今日も遊んで、土曜日も遊んで……学校も一緒だから、ほとんどの時間を奴に奪われているわけか。くそ……そう簡単に娘を渡すつもりは――――――」




「でも、もう高校生ですよ? 彼氏ぐらい、作って当たり前でしょう」


「うちの子に限ってそんなこと……っくそ! とうとう父親が負ける時が来たのか」




 ぐびぐびっと、ビールを飲みほし店員を呼ぶ。




「すみませぇん! なまぁっひとつ~!」


 酔ってしまって、呂律が回らない。




「八雲さん、呑み過ぎ! もう……」


 店員は、ビールを置いてはまたジョッキを片付け、この作業をすでに俺は何十回も見ている。今日だけで。




「―――さびしがってるのは、俺だけか?」


 独り言のように呟く。




 昔はあんなに小さくて、俺の足にびっちりくっついて。周りの人怖がっていたのに。


 背は十分に伸びて、顔も大人見たくなって……顔だけじゃない、心も立派な女性に育った。


 彼氏の一人や二人……そしていつかは。


 






 純白のドレスに身を包む、凜。隣に侍らせるのは、あの、山崎なんとか言う男。




『りゅう……あ、お義父さん。お世話になりました。私、この人と結―――――』




「駄目だ! 凜! そんな奴ッ!」






 手を伸ばしたのは、目の前のちひろちゃん。






「……すまん、寝ぼけて」


 ちひろちゃんは俺の親ばかっぷりに、引いていた。また、周りの客も俺の大声に驚き、静寂に満ちる。




「―――帰りますよ、八雲さん」


















「八雲さん、起きて。ちょっと、重たいんですけど」


 


 我が家を目前にして、エレベーターで寝てしまった人間(俺)を、一生懸命に運ぶちひろちゃん。




「ええっと、部屋は確か……」


 一件、一件、表札を見て『八雲』の文字を探す。




「あった!」




 ピンポーンをチャイムを鳴らす。


 リビングの明かりはついていないようで、真っ暗だ。




「んにゃ~、ちひろちゃん……もう一軒……」


「八雲さん、寝ぼけてないで、お家着きましたよ」




 肩車して、何とか運んできたがさすがに成人男性を女性が運ぶのは、きつい。




「……あれ、どうしよ。もしかして、娘ちゃん寝ちゃってるのかな」




 袖をめくり、腕時計を見た。時刻は12時30分。今どきの子は、夜遅くまで起きているはず……そう思っていたが、案外そうではないようだった。




 ちひろ(ちゃん)は、仕方なく八雲(俺)の鞄を探り、鍵を見つけることに。




「あ、でもとりあえずもう一回押してみるか」




 そう思い、もう一回鳴らす。


 ピンポーン。


 すると、リビングの明かりがついた。


 インターホンからガチャ、という音がする。けれども、声は一向に聞こえてこない。


 もしかして怪しまれてる!?




『はい』




「あ、あの! 私、会社でいつも八雲さんにお世話になっている者で……」




『――――知らない。誰』


 と低い声で、言われてしまった。声自体は、女の子しい可愛い声なのだが、それがなんというか獣性を持っているような。なんだか……威嚇するような。


 あっ名前!




「若林ちひろ、というものです! 八雲さんが潰れてしまったので、送りに……」




『ふうん』






『―――ちょっと待ってて』


 すると、インターホンから声がしなくなり、代わりに誰かが歩く音、そして箪笥のような引き出しを開ける音がした。


 


 そして、また此方に近づいてくる足音がして、ガチャリ、ドアが開く。




「――――え」


 ちひろの声は、止まった。




「何?」


 


 その声は、インターホンで聞いた声。


 娘――――さんなのだろう。がしかし。


 気になったのは、服装だ。






 ―――黒の、ベビードール。


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