第7話 娘にメロメロなお義父さんは、やっぱり彼氏なんか信じられません!

 ピロリン。


 スマホからの通知。ウィジェットに更新されたのは、優香からのメッセージ。


 それは、まだ二人だけの秘密。




 ゆーか『うまくいった?』




 そのメッセージを見て、凜はにやりと笑った。








 りんりん『ばっちり』




 ゆーか『よかったじゃん! でもまさか』




 りんりん『それ以上言わないで。言ったら、絶交だから』




 ゆーか『あっはははははは! 凜って案外腹黒だよね』




 りんりん『腹黒?』




 ゆーか『凜って、いっつもぼーっとしてるから。そんなに執着すると思ってなかった』






『執着』という言葉を見て、凜はくすりと笑った。




「―――執着じゃないよ。だって、両思いだもん」










「凜~? まだ~?」


 寝室から声が聞こえた。








「今向かうね、りゅう」


 スマホを閉じて、凜は寝室に向かった。




 ―――この恋は、まだ秘密。










 






「……はあ」




「今日もため息ですか? またチョコ要ります?」




 そんな風に話しかけてくる、ちひろちゃん。


 ちひろちゃんはいい子だ。今日もミスして、俺が怒られる羽目にはなったが。




 しかし今日は、いつもとは違い俺もちょっとしたミスをしでかした。




「ありがとう、ちひろちゃん。そのチョコは、ちひろちゃんのために食べてあげて……」


 毎日もらうのは、なんだか乞食みたいで申し訳ないし、先輩でありながら後輩に心配をかけてしまうのは、よくない。




「……今日はごめん。ミスとかしちゃって、上司なのに」




「い、いえ……久々に八雲さんが焦ってる姿が見れて、超ラッキーだったっていうか……」


「え?」


「な、なんでもないです!!」






「八雲さん、何かあったんですか?」


 さすがにいつもと違うことを察したのか、ちひろちゃんは俺に聞いた。




「あー……えっと」






 あの後。




 あの後から、なんとなく、ビミョーに……凜と距離ができた。もっと詳しく言うのであれば、俺が距離を作り出していた。




 今日の朝も――――。




 朝食で使った食器を洗っている、最中。




「凜、今日はきっと早く帰って来られるから、久しぶりにどこか食べに行かないか?」


「うん、そうだね。あ」


「どうした? 凜」






「……優斗が」 




 優斗――――優斗が何だ!




「優斗……君が、どうしたんだ?」




「優斗が、今日は一緒にゲームセンターとカラオケ行こうって」




 ぐあああああああああああああああ!


 


 ゲームセンターにカラオケ!? そんなの……俺が連れて行ってもいいじゃないか! なんなら今日俺が、このお義父さんが! 連れて行ってあげようか!?




 しかし、どれほど俺が頑張ろうと、俺が「彼氏」という立場にかなうはずがない。




「そ、そうか……」


「でも、せっかく……りゅうが早く帰って来られるのに」


「いいんだ! 高校生なんだし、親との予定よりともだ……恋人との予定を優先しなさい」




 そんなこと! 思ってないけどな! 一ミリも!




「それから、次の土曜日―――」




「ん?」




「優斗が二人で遊園地に行こうって言ってたから、行ってくるね」




「え?」


 


 いやそれはなんでも、早すぎるだろ。固まった俺を見て、凜は頭を傾けた。




「りゅう?」




「っああ、いやいや! そりゃよかったな! 遊園地なんて、忙しくて俺じゃそうそう行かせてやれないから……優斗君には感謝だな!」




 山崎ィィイイイイッ! 許さんぞッ、テメェ!




 でもここで、そんな奴より俺を優先しろなんて、口が裂けても言えないじゃないか! 俺は義理でもこの子の父だ!


 父というものは、子供の成長を見守るもの……。




 だけど! 正直、恋人と共にどこかへ行ってしまう姿を見るのは、つらい。




 取られた感、半端ない。












「……はあああああ~~~~」




「さっきよりも、ため息酷くなってますけど、ほんとに大丈夫ですか? お話いつでも聞きますよ!」




 そうやって、お世辞にも俺に構って優しくしてくれるちひろちゃんは、本当にいい子だ。


 だから、ちょっとぐらい甘えてもいいのかな。




「ちひろちゃん、今日飲みに行かない?」


「え!? 本当ですか! 行きましょう! 行きましょう!」


 ちひろちゃんは、わくわく、舞いあがった。




 しかしこの数時間後、彼女は後悔する。


 この男と酒を飲みに行ったことを。


 そこで聞かされる、親バカ愛に圧倒され、恐怖し、呆れる羽目になることを。


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