第6話 お義父さんは、イケメンなんかよりも娘にメロメロなんです!!
「……りゅう、ぎゅー」
―――安心しろ……昔からやってきたことだ。なのに俺は、動揺して抱きしめ返せない。
どうにかこうにかして、体を離そうと、必死で後ろに体を倒していく。
「凜……離れろ!」
「どうして? りゅう、凜のこと嫌い?」
いやいやいや、そういう問題じゃない。これは! 家族とかそういうの以前に、男女関係における―――――――――、駄目だ、駄目だ、駄目だ!
俺のムスコがぁぁぁぁぁああああああああ!
「りゅう、最近ずっと帰り遅かったし、目の下クマ酷いし……すごく不安で」
「―――さびしかった」
「凜……」
それは。
それは、俺も感じていた。
あの日、寒いあの日も、同じようにこの子を抱きしめたことを、思い出した。
あの時も、この子は寂しいと言って、だから俺は。
『……そんなに一人が寂しいなら、おじさんのところに来るかい?』
そう言ったんだ。そして、二度とこの子に寂しい思いなんてさせないと、誓った。
なのに俺は、また繰り返していた。俺は何をしているんだ。
俺は、凜をめいいっぱい抱きしめた。
「……ごめん、凜。俺も、俺も寂しかったよ。凛とぎゅーできくて、疲れ切って、寂しくて……でも、凜の方が辛かったよな」
「大丈夫、これまでもこれからも、いっぱいぎゅーしてやるから」
凜を抱きしめる中で、凜のぬくもりを感じて、凜の頬の柔らかさを感じた。
「うん……うん!」
嬉しそうに、うなずく凜。その反応が、すごくうれしい。
凜も、俺の事を大切に思ってくれているんだと、俺と一緒なんだと思えた。
って! そうじゃなくて! いや、そうなんだけど!
「凜! 付き合うなんて―――――」
「テメェェエエエエ!!」
ドアをけ破って、入ってきたのは先ほどの男子高校生。先ほどとは違い、すさまじい剣幕で俺を見る。
「やっぱりお前が黒幕だな! このエロジジイ!」
「な、君! 大人に向かって、なんという口のきき方を!」
「会話は、全て聞かせてもらった! お前が……お前が、凜をおかしくさせているんだな!」
「はあ?」
「凜は、俺が30回告白しようと、付き合ってはくれなかった……っ! この俺が! この学校一のイケメンが、30回も告白してやったというのに!」
それは、君の勝手だろう! と言いたかったが、俺のターンはまだ来ない。
「おかしいと思っていたんだ! 大方お前が、凜に何か言って俺のイメージをダウンさせていたんだ!」
「いやいや! 俺は君の事なんて全く知らなかったし、全て言いがかりだろ!」
「俺の事を知らなくても、お前が『男は悪い生物だ。邪悪な獣だ。俺だけを見ろ、凜!』とか何とか言って、言いくるめたんだろ!」
「それはこっちのセリフだ! 30回も告白したのに付き合ってくれないから、凜を脅して付き合うように仕向けたんだろ! 大人だから、そういうことは見え見えなんだよ!」
「はあ!? 違うわ! 凜直々に、付き合って下さいと言われたから付き合ったんだ! じゃなきゃ今まで拒否してた凜が付き合うか!」
「ああ、はいはい、理解した! お前は敵だ! ライバルだ! お前には絶対負けない! 凜をメロメロにして、お前なんか要らないと言わせてやる!」
「そんなことさせて溜まるか! 凜は俺の大事な娘だ! そう簡単に渡すものか!」
「二人とも、いい加減にして」
いつもより、低めの声で凜が言った。そこでハッとして、我に返る。
「優斗」
「はい!」
凜に呼ばれると態度を180度変え、犬のように吼える山崎君。
「今日はもう帰って」
「はい! 喜んで帰らせていただきます!」
そう言って、山崎君は足早に玄関から出て行った。
「りゅう」
「はいッ!」
俺もまた、同じように吼える。
すると凜は立ち上がって、俺の腕を引っ張った。
「眠たいから、もう寝よ?」
凜は、機嫌を直したようでニッコリと笑った。
「……そうだね」
俺は、歯ブラシだけ済ませていったん寝ることにした。
ピロリン。凜のスマホから通知音がした。
「凜?」
寝室に向かっていた足が、止まる。
「友達から。ちょっと返信するから、先行ってて」
ん? 別にベッド上でもいいのに? そう思いつつ、俺は先に寝室に向かった。
寝室に向かうのを見た凜は、メッセージアプリを開く。
ゆーか『うまくいった?』
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